第45話 俺はグレンゴンに変身して突撃する
――天原衛
ミ・ミカが絶望している。
アイリスも絶望している。
二人は知っているんだろう。
目の前に広がる緑の絨毯が、人の力では退治できない強力なマモノであることを。
そして、このマモノに近い将来ウルクが滅ぼされる日が来ることを。
だが、そう思ってない奴もいるみたいだ。
バシッ!!
ドガッ!!
バキッ!!
俺は、探し求めていた枯れ木のマモノに視線を送る。
シロクズシと、枯れ木のマモノは終わることない戦いを繰り広げていた。
枯れ木のマモノはゴースト魔法で作った闇の刃で、シロクズシのつる草を次々と切り裂いていくが、シロクズシは無限に近い代わりを用意してつるのムチで敵の身体を撃ち据えていく。
そいつは絶望に抗っていた。
能力の相性的に、枯れ木のマモノがシロクズシを駆逐するのは不可能だ。
それでも枯れ木のマモノは戦いのを止めない。
既には葉も花も無く、死体となった身体に幽体を入れて魔力で動かすゴーストタイプのマモノ。
何が彼を動かしているのかはわからない。
しかし、絶望に抗い続ける枯れ木のマモノの存在に俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。
俺はザックを降ろし、服を脱ぎはじめる。
「ちょっと、マモちゃんいきなり服を脱いで何するつもりよ」
「グレンゴンに変身する。シロクズシが、森もウルクも破壊する最悪のマモノなら。枯れ木のマモノと共闘して駆除しないといけないだろ」
俺は保冷容器にしている魔法瓶から凍らせたグレンゴンの生肉をひとかけら取り出し、口の中で溶かしながら飲み下した。
相変わらず血なまぐさくて最悪の味だが、これがあれば俺はマモノに変身して戦うことが出来る。
「みんな離れろ、俺はグレンゴンに変身して突撃する」
「危険ですッ! グレンゴンに変身できるといっても衛は魔力不足で火の魔法は使えないのでしょう」
そんなの関係ない。
火が使えないなら、その分身体を張ればいい。
俺の身体を構成するカガミドロの細胞が、グレンゴンの遺伝子を読み取り俺の身体は質量保存の法則を無視して巨大化していく。
口からは10センチを超える牙が生え、足は丸太のように太く長くなり、退化した尾てい骨が張り出して3メートルを超える巨大な尾が形成される。
5分と経たないうちにうちに俺は全長8メートル、体重2.5トンの巨大な肉食恐竜へ変身していた。
「ギャオオオオオッ!!」
俺は甲高い雄叫びをあげながらシロクズシを駆除するために突撃する。
雄叫びをあげながら突撃して来る大型恐竜に対して、シロクズシは無数のつる草を強力なムチに変えて俺の身体を撃ちすえる。
痛い! 数百キロ達するスピードで繰り出されるつるのムチ連続攻撃を受けて俺は思わず声をあげそうになった。
つるのムチの打撃力は俺の想像以上だった。
無限に思える数のつる草の一本一本が、自動車どころか装甲車両すら叩き潰せるほどの打撃力で振り回される。
つるのムチは敵に与える打撃力の強力さはもちろんのこと、連続で繰り出されるだけに身体にかかる衝撃も強力で、ムチの衝撃に押され俺の前進は強引に止められた。
魔力を持たない普通のゴルゴサウルスなら、ムチに叩き伏せられたちどころに打ち殺されてしまうだろう。
しかし、俺はただの生き物ではない。
魔力器官を持ち、魔法で己の肉体を強化できるマジンだ。
俺はつるのムチに対抗するため、使える魔力を全て皮膚と筋肉の強化につぎ込んだ。
脳の思考速度を落とすと反応速度が常人と同じになり素早い攻撃に対応できなってしまうが、相手は根を張って動かない草属性のマモノだ。
反応速度が常人並みでも逃げられる心配はない。
俺は攻撃を続けるつる草の根元に噛みつき、ブチブチ! ザクザク! と生々しい音を立てながら俺を攻撃してくるつる草が噛みちぎった。
しかし、シロクズシの攻撃は終わらない。
俺を攻撃していたつる草を噛みちぎり無力化しても、周囲には生きているつる草が無限に近い数存在している。
俺がつる草を何十本噛みちぎろうと、代わりのつる草が動き出し強力なムチとなって俺の身体を打ちすえる。
「わおおん!!」
鋭い雄叫びと共に飛び込んできた黒い炎が、周囲のつる草を焼き焦がす。
背後に振り向くとコクエンに変身した恵子が、身体に黒い炎をまとっていた。
火魔法≪カエングルマ≫
植物が相手なので火魔法の効果はバツグンだ。
恵子は火魔法で俺の何十倍ものペースでつる草が焼き焦がし無力化する。
しかし、恵子の火魔法を持ってしてもシロクズシの攻撃は終わらない。
恵子が何百何千のつる草を無力化しようとも、焼かれたのは100ヘクタールに広がったシロクズシ全体のほんの一部に過ぎない。
おまけに火魔法で攻撃されていることを察知したシロクズシは、つる草を燃やされることを厭わず恵子に攻撃を集中し始める。
全身を炎で覆っている恵子はつるのムチで打たれてもダメージはほとんど負わないが、ムチの運動エネルギーで吹き飛ばされシロクズシの生息範囲の外に弾き飛ばされてしまった。
コクエンに変身した恵子の体重は200キロを超える。
しかし、シロクズシのつるのムチはその程度の重量であれば軽く弾き飛ばしてしまうほどの強力な打撃力があるのだ。
「わおおおん!」
恵子が怒りの咆哮をあげる。
彼女は連続攻撃で目に見える範囲のつる草を一気に焼き払いたかっただろうが、今みたいに攻撃に度に吹き飛ばされたらシロクズシを焼くスピードは大きく落ちることになる。
どちらにせよ、俺は自分に出来ることをやるしかない。
俺はつるのムチの攻撃を受けながら強引に前進して、周囲にあるつる草を片っ端から噛みちぎっていった。
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