第41話 味噌煮込みも出来たよ

――ミ・ミカ


 目の前でハンター協会の酒場のような光景が展開されていた。

 恵子とヨ・タロが、フォルモ(地球名:フォベロミス・パッテルソニ)を仕留めたのを見届けた衛さん達は、今日は河原で夜営することをみんなに告げてテキパキと獲物の解体と夕食の支度を始めた。

 私はマモノハンターになるためにマモノと戦うための格闘術や、森でマモノを探すための探索スキルは教えてもらったが、狩った動物を解体し、美味しく料理する方法は教えてもらったことが無い。

 だから、衛さんや恵子の仕事ぶり見て、見知った知り合いがコックに変身したように見える不思議な感覚を味わうことになった。


『はい、ミ・ミカ串焼き出来たから食べてみて。これは心臓の串焼きなんだけど、心臓って筋肉の塊だからコリコリしてて美味しいよ』


 恵子に差し出された心臓の串焼きを口にしてみる。


『美味しい』


 一口サイズに切ったフォルモの心臓に塩をつけて焼いただけのシンプルな料理だが、干し肉と違って肉汁や肉そのもの弾力が残っていてとても美味しい。

 

 衛さんまずフォルモの頸動脈を切り、あふれ出す血を川に流す血抜きを行った。

 体内の血を全て洗い流すことで肉の臭みが無くなり、美味しく食べることが出来るようになるらしい。

 アイリスさんは森に入って食べられる草を探しに行き。

 衛さんは河原の石を積んで即席のカマドを作り上げた。

 恵子は拾ってきた木の枝を削って肉を串焼きにするための櫛を作り。

 フォルモの腹を掻っ捌いて出てきた内臓を川の水で洗って一口大に切り、一つ一つ串に刺していく。

 そんな感じで私が何もできずにオロオロしている間に、竈の周囲に臓物の串焼きが並び。

 カマドの中央にはフォルモの腸を川の水で洗って一口大に切ったものを味噌で味付けした煮込み料理が入った鍋がドカンと鎮座していた。


『私が見つけてきたシソと一緒に食べるともっと美味しいですよ。口の中がフレッシュになります』


 私が恵子に渡された串焼きをモシャモシャ食べていると、黒板を持ったアイリスさんが近寄ってきて私に河原の側で積んだ葉っぱを分けてくれる。

 アイリスさんがくれたシソという葉っぱを串焼きと一緒に食べると、脂で鈍くなった味覚がシソの酸味で刺激されて、心臓の旨味をよりはっきりと感じることが出来る。


『シソ美味しいです、ありがとうございます』


 私が黒板にお礼を書くと、アイリスさんはにっこり笑って立ち去ると、次はヨ・タロのところに行って櫛から外して皿に盛った肉を振る舞う。

 私に振る舞ったものと同じように、細長く刻んだシソの葉をまぶした肉を食べたヨ・タロは嬉しそうに「わんわんッ!」と吠える。

 食べながら無意識に尻尾をフリフリしているので、提供された料理がよっぽど美味しかったのだろう。


『味噌煮込みも出来たよ』


 竈の中央に鎮座していたスープの中身に火が通ったのを確認して、恵子が内臓の味噌煮込みを持ってくてくれる。


『これも美味しいから食べて、身体がポカポカに温まるよ』

『ありがとうございます。しかし、意外でした。恵子がこんなに料理が上手だなんて』

『こんなの料理じゃないわよ。鍋の中に味噌と肉と水入れて煮込んだだけじゃない』

『でも、以前の恵子は、美味しいご飯を食べるために行動することはなかったですよ』


 恵子とチームを組んでマモノ退治に機会は過去に何度かあったが、以前の彼女は私達と同じように食事は持ってきた干し肉と森の中で見つけた木の実を食べるのがせいぜいで、今回のように動物を狩って、解体して、料理するようなことはしなかった。


『恵子の変化は、やっぱり記憶が戻った影響ですか』

『それは、そうかな。私さ、子供のころお爺ちゃんの仕事の手伝いで動物を狩って、解体して、料理するっていうのをよくやってたの』

『恵子は狩人の一族だったんですね』

『一族なのかな? 単に、お爺ちゃんとマモちゃんが、そういうことが好きなだけだと思うんだけど』

『どちらにせよ、森の中でこうして美味しいご飯が食べられるのはありがたい話ですよ』


 恵子にもらった内臓の味噌煮込みを食べる。


『これも美味しいッ!』


 内臓は部位によって食感がマチマチだが材料が新鮮なので余計な塩気が無くてとても食べやすい。

 それに、恵子の言う通り肉の油をたっぷり含んだスープを飲むと体がポカポカと温かくなる。

 そんな、私の思いをよそに恵子は味噌煮込みを食べて額に皺を浮かべている。


『どうかしたんですか? 味噌煮込みとても美味しいですよ』

『こんなもんじゃないのよッ! やっぱりもつ煮込み作るなら根菜は必須でしょ。ああっ! 大根とニンジンと、ゴボウと里芋入れたい。あと、七味トウガラシもほしいッ!』

『何ですかそれは?』


 恵子が叫んだ聞き覚えの無い言葉に、私は思わず聞き返す。


『ああ、私の故郷の食材主に根菜ね。内臓の味噌煮込みは、根菜を一緒に煮込むともっと劇的に美味しくなるの』

『それは、食べてみたいですね』

『私も食べて欲しい。ウルクに帰ったら煮物に向いた根菜を探すわよ』


 私と恵子が、そんなことを話しているうちにその日の夜はふけていった。

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