第24話 手の内がわかっていれば対抗策はいくらでもあります。
――天原恵子
火炎放射を潰されたうえ、胸板に強烈な打撃をくらったグレンゴンは鞭のようにしなる尻尾に炎をまとわせ身体を回転さて薙ぎ払い攻撃を仕掛けてくる。
火魔法≪ホノオノムチ≫
敵の体長は8メートル、尻尾の長さは3メートル以上に達する。
そんな長さと強靭さを兼ね備えた尻尾から繰り出されるテイルスイングの威力はすさまじい、まともに受け止めようとすれば私の体格でも軽く吹っ飛ばされてしまうだろう。
だからここは回避一択。
幸い尻尾の位置は高く下の方にスペースがあるので、私とミ・ミカは地面を転がってテイルスイングをやり過ごす。
自分の頭上を、炎をまとった尻尾が音速を超えるスピードで通過していくのは心臓に悪い光景だ。
だが、大技を繰り出せばその後に隙が出来る。
テイルスイングを繰り出した際の遠心力で転倒しないよう、グレンゴンが両足で身体を固定するのを見計らって、私とミ・ミカは攻撃魔法を繰り出す。
ゴースト魔法≪ヤミノキバ≫
獣魔法≪ケモノノハドウ≫
狙うのは巨体を支える太い後ろ足。
闇の刃と、強烈な打撃で両足を同時に攻撃されたグレンゴンは体勢を崩してその場に転倒する。
この大きな隙を、当然ハ・ルオは見逃さない。
毒魔法≪テトロドトキシン≫
ハ・ルオの放った毒矢がグレンゴンの脇腹に命中する。
矢を放つときあえて先ほど命中した場所と違うところを狙う辺り、彼女は毒魔法の特性をよく理解している。
ヤジリから注入された毒は血管を通じて全身にいきわたる。だから、毒矢を身体の上半身と下半身に撃ち分けることで毒が全身にいきわたる時間を短くすることができる。
「ギャオォォォォォ!!」
2発目の毒矢を撃ち込まれたところでグレンゴンが咆哮する。
いや、これは咆哮ではない今度こそ悲鳴だ。
2種類の神経毒を体内に流し込まれたグレンゴンはその場で激しく嘔吐する。
身体が大きいだけにゲロの量も大量だ。
胃の中身と血が混ざったゲロが、私の体重と同じくらい量、その場にぶちまけられる。
吐けるだけ吐いてから、グレンゴンは立ち上がった。
ただ、毒魔法は確実にグレンゴンの身体を蝕んでいる。
三半規管が正常に働いていないのか頭をフラフラと左右に揺らしているし、目の毛細血管が切れてポタポタと血涙を流しつづけている。
正直、この状態でまだ生きているのが信じられないくらいだ。
さすがは体重2.5トン。
流し込まれた毒の量がまだ致死量に達していないのだ。
『次の毒矢の準備をします。ミ・ミカ様、申しわけありませんが今一度時間を稼いでください』
ハ・ルオはそう呼びかけながらウエストポーチから注射器を取り出す。
強力な魔法を2回使ったせいで魔力に変換する血液中のエネルギーが足りなくなったのだろう。
普通は敵の目の前でエネルギー補給なんてやらないが、ハ・ルオは何が何でも3発目のトドメの一撃を放つつもりだ。
「わォォォォん!!」
いいだろう、その覚悟に最後までつきあってあげる。
私は雄叫びをあげて、グレンゴンに突撃する。
グレンゴンの方も、私を噛み砕くつもりか口を大きく開けて突撃して来る。
だが接近戦なら私の方が有利だ。
奴の体型は明らかに身長の低い私を攻撃するのに向いていない。
グレンゴンと交差する瞬間、側転で地面を転がって私を狙うアギトの下をすり抜ける。
懐に入ってしまえば私の勝ち。
そう思った直後、私は思わぬ反撃を受けた。
竜魔法≪リュウノツメ≫
グレンゴンは懐に潜り込んだ私を前蹴りで迎撃してきた。
予想外の攻撃くらい、私は数十メートルにわたって吹っ飛ばされる。
体重2.5トンのグレンゴンからすれば、体重200キロの私はサッカーボールを蹴る感覚で蹴り飛ばせただろう。
私の身体は茂みの中に突き刺さり、太い樹の幹を何本もなぎ倒しながらようやく止まる。
ダメージは――大丈夫だ、まだまだ十分に戦える。
しかし、大きく吹き飛ばされたせいでミ・ミカを孤立させることになってしまった。
グレンゴンは次なるターゲットをミ・ミカに定め、口から血を吐きながら突撃する。
ミ・ミカも条件は私と同じ、体格が小柄なので上から振り下ろされる噛みつきは問題無く回避できる。
だが、懐に潜り込んだとしても前蹴りをくらえば私と同じように吹き飛ばされてしまう。
この状況で、ミ・ミカはニヤリと攻撃的な笑みを浮かべた。
ミ・ミカは自らグレンゴンに接近して振り下ろされる噛みつき攻撃を前転運動で回避する。
懐に潜り込んだ敵を迎撃する方法を学習したグレンゴンは、ミ・ミカを狙って右足を振り上げる。
竜魔法≪リュウノツメ≫
『負けるかああッ!!』
獣魔法≪ケモノノチカラ≫
ミ・ミカは、ドカンッ!と両足で大地を踏みしめ、グレンゴンの前蹴りを正面から受け止めた。
『手の内がわかっていれば対抗策はいくらでもあります』
ミ・ミカの体重は私より遥かに劣る40キロ前後。
グレンゴンとの体格差は比べるのもバカらしいほど圧倒的に劣っている。
その体格差を彼女は魔法を使って埋めてみせた。
獣魔法は肉体強化が得意な属性だが、ここまで見事に使いこなされたらため息をつくしかない。
グレンゴンの前蹴りを受け止めたミ・ミカは、受け止めた右足を柔道技の肩車の要領で担ぎ上げ明後日の方向に払い除ける。
前蹴りはグレンゴンにとってリスクの大きい攻撃だ。
右足で蹴りを放つことはイコール2.5トンの巨大な身体を左足一本で支えることを意味する。
ミ・ミカに右足を払われたグレンゴンは踏ん張ることが出来ず、バタンッ!!と大きな音を立てて再び転倒する。
この決定的な隙をハ・ルオは決して見逃さない。
『これでトドメだッ!』
毒魔法≪テトロドトキシン≫
三本目の毒矢がグレンゴンの背中に突き刺さり、ヤジリから強力な神経毒が注入される。
グレンゴンは何とか立ち上がろうと上半身を起こしたものの、直後全身をビクンビクンと痙攣させ、そして動かなくなった。
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