第15話 ハードな訓練に耐えたソルジャー達の努力と献身に乾杯ッ!!

――天原衛


「みんな、演習おつかれさま」

「ハードな訓練に耐えたソルジャー達の努力と献身に乾杯ッ!!」


 演習が終わったあと、家で打ち上げ兼夕食会を催すことになった。

 家の茶の間だと、マモノ駆除班の9人がご飯を食べるには窮屈なので台所に繋がるフスマを外してなんとか総勢12人が一同に会せるスペースを確保した。

 二つのテーブルには、普段家では出てこないポテトサラダやから揚げといった酒のつまみになりそうな料理が山のように積まれ、台所には11月の外気でキンキンに冷やされたビールが2ケース積まれている。

 そんな感じで宴の準備が行われ、アイリスが乾杯の音頭を取ってくれたのだが、宴の席は通夜の席のようにシーンとしていた。


「マモちゃん。齋藤さん達元気ないけど、訓練で何かあったの?」

「あったと言えばあったかな。演習の結果は、俺達が2人とも無傷で、マモノ駆除班は死亡判定7人、負傷判定2名だった」

「かっ、完全勝利ね」


 恵子は無言で、齋藤さんが元気のない理由を察してくれたらしい。


「衛と牙門の勝利に乾杯。いいんじゃないの、お前等ならニビルに行っても何とかなるだろ」


 齋藤さんがマモノ駆除班を代表してビールの入ったコップをかかげてくれる。


「まあ、今回は条件が俺達に有利過ぎたと思うから気にしない方がいいですよ。市街戦の演習やったら俺達なにも出来ないまま死ぬと思うし」


 演習場所は俺の家の裏庭で俺と牙門は地形を熟知していた。

 今回は、地形理解度の差がそのまま結果に直結した感じだ。


「有利……本当にそう思ってるのか? お前らの武器は弓矢と山刀。俺達は人数も多いうえに全員がアサルトライフル装備だったんだぞ。何も知らない人間に今回の演習で俺達が不利な条件で戦ったなんて泣き言いったら鼻で笑われる」


 齋藤さんは、乾杯で注がれたビールを一息で飲み干してからそうまくしたてた。


「でも、今回の演習の目的は衛と十字がニビルに行って補給が無い状態で戦闘できるかチェックすることです。そこにある程度目途が立ったなら演習としてはOKなんじゃないの?」

「確かに、牙門さんの弓での狙撃はえぐかったですね。アーマーを貫通することは無かったけど当たったら問答無用で吹っ飛ばされたし」


 牙門の放った矢を背後から食らった前川さんがシミジミと答える。

 確かにあれは見てる俺も痛そうだと思える一撃だった。


「矢の重量がアサルトライフルの弾より遥かに重いから十分な速度があれば運動エネルギーは89式より強力になるんだよ」


 黒曜石の鏃でも付ければボディーアーマーを抜いていたかもしれない。

 コンパウンドボウの威力は想像以上に強力なものだった。


「牙門の手作り矢が使い物になりそうなのは今回の一番の収穫だな」


 たとえ持ち込んだ矢が尽きても現地で枝を削り、恐竜の羽を探して矢羽根にすれば牙門は継戦能力を確保することが出来る。

 飛び道具の援護があれば俺や恵子の成功率が上がるのでいいことずくめだ。


「問題は、残された俺達が弱すぎることだな」

「装備と人数で圧倒してたのに完敗ですからね。市街戦なら結果は逆になったと思いたいですが」

「マモノ相手に市街戦やってるときは、間違いなく民間人に死傷者が出てる。その状況になった時点で俺達の負けなんだよ」


 齋藤さんは眉間に皺をよせながらそうつぶやく。

 確かに、異世界生物対策課の存在意義を考えるとマモノを市街地に入れた時点でアウトという齋藤さんの考え方は理解できる。

 しかし、他のメンバーは警察や海保出身者ばかりなので山岳兵として未熟なのは仕方ない面もある。


「でも、由香が言ってたけど次に増員される人員は自衛隊からレンジャー徽章持ちの人を回してもらうって言ってたから、なんとかなるんじゃない?」

「貴重なレンジャー徽章持ちを自衛隊が出すとは思えないけどな」


 自衛隊がどんな組織か知っている俺は、絶対に無理と言われて要求を袖にされる様が目に浮かぶ。

 そもそも、北部方面隊でエース級の実力を持つ牙門の出向を許してくれた時点で奇跡みたいな話なのだ。

 しかし、残されたメンバーの力不足については、俺にとっても他人事ではない。

 俺達がニビルに行っている間にゲート監視の任務に就くのはここに居るマモノ駆除班のメンバーなのだ。


「まあ、お前達は実力があるからニビル調査隊に選ばれたんだ。俺達は山岳兵として実力をつけられるよう鍛え直すから、お前たちは気にせずニビルの現地調査に専念しろ」


 齋藤さんは俺と牙門の背中をポンポンと叩き、ニビルで頑張るようエールを送ってくれた。

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