第12話 今日はポテトサラダを作るんだっけ?

――天原恵子


 台所にいつもの食材が並んでいる。

 ジャガイモ、玉ねぎといった根野菜。

 キロ単位で切り出したブロック肉。

 そして、今まで見たことが無かった食材。

 食パン、卵、ラッキョウ、マヨネーズ、ビネガー。

 わざわざ往復一時間かけて市街地まで行き調達してきた天原家の食卓に革命を起こす食材の数々だ。


「自給自足もいいけどせっかく日本に居るんです。現代文明の恩恵に預かる方がクールだと思わない」


 そうつぶやきながらアイリスは玉ねぎをみじん切りにしていく。

 私の担当は、ゆでたジャガイモの皮を剝くこと。

 火傷するリスクを考えると、ゆでたあと粗熱が取れるまで待った方がいいが熱いうちに潰してほかの材料と混ぜ合わせた方がよく味がなじむらしい。

 その点、私は火属性の魔法の使い手だ。

 ゆでたてアツアツのジャガイモであろうと、直接手に取ってスルスル皮むきをすることができる。


「やっぱり恵子すごいわね。私は茹で立てのジャガイモなんてミトンないと持てないわ」

「体質的に熱に対する耐性が人間とケタ違いだから。それに私、幽霊だから痛みを感じる身体もないし」

「手放しに喜べる話じゃないけど、便利な能力は活用した方がいいわね」


 アイリスはみじん切りにした玉ねぎを塩でもみ、私は30個以上ゆでたジャガイモの皮を全て剥いてしまう。


「今日はポテトサラダを作るんだっけ?」

「ええ、こんなに取れたてのジャガイモがたくさんあるんだもの。ポテトサラダを作らない手はないわ。そのまま食べても美味しいしサンドイッチの具にしてもベリーデリシャスね」


 ポテトサラダはジャガイモを使った料理の代表のような品目で、お弁当の付け合わせになっているものを食べたことがあるが、天原家の食卓に出たことはない。

 理由は、単純にマモちゃんの横着。

 ジャガイモは茹でて塩をかければ食えると言い張って、それ以上手間をかけて料理しようとしないのだ。


「それは美味しそうね。いつもマモちゃんの塩と味噌で味付けした食事ばかりだから新鮮かも」

「それじゃ、恵子やってみましょうか。恵子が向いたジャガイモをざっくりと潰してからビネガー、塩、コショウで下味をつけて、みじん切りにした玉ねぎ、少し固めの半熟卵と混ぜ合わせるの」

「りょ、了解」


 私は、アイリスの指示に従ってジャガイモを潰し、他の具材と混ぜ合わせていく。


「そして、ポテトサラダを美味しく作るコツは……勇気を出してマヨネーズをたっぷり絡ませること」


 アイリスはマヨネーズのボトルを強く握りしめ、ボトルの半分くらいの量振りかけた。


「ぽ、ポテサラってそんなにたくさんマヨネーズ使うの!?」

「コクを出すためには仕方ないことなのよ」

「コクと一緒にカロリーも大量に出ていそうなんだけど……」

「山岳戦の演習で疲れた男達に食べさせるんだからノープロブレムね」


 最後にマモちゃんが自由に使っていいと言われた材料の中から、イノブタの肉で作ったベーコン取り出して一口大に切って軽く焦げ目をつけたあと、作りかけのポテトサラダと混ぜ合わせる。


「これで完成ね」


 出来上がったポテトサラダをを皿に盛りつけて、私の初めての料理は完成した。


「おいしいッ!!」

「やっぱり材料が新鮮で質がいいわね。あと、ベーコンから出た油がいい具合にポテトと馴染んでるわ」


 アイリスのいう通り、たっぷりマヨネーズを使ったポテトサラダは、口の中で溶けていくジャガイモとゴロンゴロンとしたほかの具材が別々の食感を作り出し、一緒に食べることでちょうどよい舌触りになっている。


「ね、料理って簡単でしょ」

「う、うん。私、こうやって料理するの、初めてかも」


 そんなことを言いながら私は、亡き母のことを思い出した。

 お母さんに、こうやって料理をならった記憶はない。

 お母さんは、決して悪人でも薄情な人でもなかったがあまりにも体操に特化し過ぎたちょっと残念な人だった。


「さて、飢えたボーイ達のためにもっとたくさん作らないとね」

「今日はお客さんが多いからポテトサラダを具にしたサンドイッチも作りましょう」


 私とアイリスは、訓練で疲れ切った男たちが気持ちよく腹を満たせるよう。

 再びジャガイモの山に挑戦するのであった。

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