第4話 私は、ニビルに調査隊を派遣したいと考えています
――天原衛
「えっ、今の説明で先日、異世界生物対策課が捕獲したキュウベエがどれほど強力なマモノわかっていただけたと思います。ただ、ご安心ください。件のキュウベエは異世界生物対策課が捕獲に成功し現在厳重な監視下のもと民間人と接触しないよう隔離措置が取られています」
「捕獲ッ!! そんな危険な生き物すぐに駆除した方がいいんじゃないのか」
幹部職員らしき中年男性がキュウベエを捕獲ではなく捕殺すべきだと主張して来る。
まあ、こういう反応をされるのは俺も想像していた。
「キュウベエを捕殺しようとした場合、彼は死に物狂いで抵抗するので職員に確実に死者が出ていたと思われます。さいわいキュウベエの習性は一般的なヒグマと同じなので安全なねぐらとエサを提供すれば動物園のクマと同じで無暗に暴れたりすることはありません」
マモノを動物園のクマと同じように飼いならす。
エサ代はかかるが、職員に戦死者を出すくらいなら遥かにベターな選択だと納得してもらえたようだ。
「あと、キュウベエには安全なねぐらとして白藤の滝の裏側に出来た鍾乳洞に誘導したのですが、彼がこの鍾乳洞を自分の縄張りだと認識してくれれば我々にも大きなメリットがあります」
由香からマイクを受け取って司会役を買って出た大臣が話始める。
おそらくここから先が、今回の会合の本題だろう大臣だけあって一番おいしいところは自分で持っていくつもりらしい。
「実はキュウベエのねぐらとして提供した鍾乳洞なんですが、異世界ニビルと行き来できるゲートになっていることが判明しています」
『ッ!!!!?』
声をあげるモノこそいなかったが、大臣の発言を聞いてその場にいる全員が驚愕の表情を浮かべた。
「あの、異世界ニビルと行き来出来るというのは過去に行き来出来たというわけではなく」
「ゲートは現在進行形で生きています。キュウベエをゲート付近で放し飼いにしておけば、仮にゲートを通じて異世界生物が地球に侵入しようとしてきても彼が侵入者を縄張りに入ってきたよそ者として排除してくれるというわけです」
「野生動物を番犬代わりに使うことを不安に感じる方もいると思いますが、侵入者への対処は異世界生物対策課から監視員を派遣して人による異世界生物の監視と排除も行っています。ただ、キュウベエに関しては捕殺するよりも生かして利用する方がよいという事は皆さまにも理解していただけると思います」
異論が上がらないところを見ると、キュウベエをゲート付近で放し飼いにすることが人間側にとってもメリットがあるということは理解してもらえたようだ。
「これで、異世界世物対策課が捕獲したキュウベエの処遇については皆さまにも理解していただけたと思います。キュウベエの問題が解決した今、私は次のフェーズに進むべきだと考えています。先ほども言いましたが現在キュウベエがねぐらにしてる鍾乳洞を通じて私達は異世界ニビルに行くことが出来ます。だから私は、ニビルに調査隊を派遣したいと考えています」
大臣の爆弾発言に再び場が凍り付いた。
例外なのは由香と、最初に質問してきた金髪碧眼の女、そしてその隣に座る青年の3人だけだ。
おそらく、この3人はニビルに調査隊を派遣する話を事前に聞かされていたのだろう。
「あの……」
場違いなのは百も承知だが、俺は挙手せずにはいられなかった。
「調査隊って誰が行くんですか? また、自衛隊や警察から有志を募るとか」
「マモノに関する知識のない素人を行かせても犬死するだけだからそれは無理だね。私は、君たちに行って欲しいと思っている」
大臣は確かめるように、俺、恵子、牙門の三人と目を合わせる。
「つまり、俺達が今回ここに来いと言われたのはそういう事なんですね」
俺、恵子、牙門の3人は環境大臣が発案したニビル調査隊の隊員としてここに呼ばれたのだ。
「ニビルに行かせる人員を誰にするか考えると、どう考えても貴方達以上の適任者がいないのよ。私とカゲトラは日本にマモノが入り込んだ時の防衛を考えると、日本から離れるわけにはいきません。そうなると、マジンである衛君と恵子さん、あとレンジャー徽章持ちで野外活動に慣れてる牙門君しか適任者がいないの」
「調査隊を出すことは総理にも了解を取ってるから安心してくれ。ニビルの現地調査は日本政府にとってもメリットの大きい話だから異世界生物対策課を増員することについても快く了承してくれたよ」
「確かに警察上がりの連中は、森の中で2,3日野宿したら根をあげそうですね」
逃げられないと悟ったらしく、牙門は深くゆっくりと息を吐いた。
こうして俺達は大臣と由香の仕掛けた罠にまんまとハマり、ニビルへと行くはめになってしまった。
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