第3話 今回来てもらったのは現在北海道を中心に活動してもらっている異世界生物対策課の職員たちです。

――天原衛


 そんなわけで俺達は異世界生物対策課の黒幕ともいえる環境大臣と初顔合わせすることになった。

 途中大臣秘書にTPOをわきまえない怪しい集団とみなされ不審な目で見られたが、由香が身分証を見せアポイントを取っていることを伝えると渋々であるが俺達を大臣室へ通してくれた。


「皆さん、遠路はるばるおつかれさまです。さあ、かけてかけて」


 気さくな口調で俺達を出迎えてくれた環境大臣は、当たり前と言えば当たり前だが電話会議で見たときと同じ顔の人物だった。

 確か今年で41歳だったと思うが、叔母様のアイドルと呼ばれるだけあって実年齢に比べて若々しくさわやかな印象を抱かせる顔立ちをしている。

 部屋に居るのは大臣だけではない。

 いかにもエリート官僚って感じの中年男性や、由香と同じようにブランド物のスーツを着た女性、あと金髪碧眼の明らかに日本人ではない女性などバラエティに富んだ人々が10名ほど大臣室の会議テーブルで俺達を待ち受けていた。


「今回来てもらったのは現在北海道を中心に活動してもらっている異世界生物対策課の職員たちです。先日、異世界生物と融合して強大な力を持つマジンと化したヒグマを制圧するという功績をあげたことは記憶に新しいと思います。本日は、彼ら異世界対策課の今後の活動について環境省内で情報共有をしたいと思いこの場を設けさせてもらいました」


 意外なことに会議の司会を大臣自ら務めるらしい。

 大臣というと雛壇席でドーンと座っている印象があるが、自分で場を仕切るのが好きな性格のようなので司会をするというのも自分で言い出したのだろう。


「まずは、今日来てもらった異世界生物対策課の職員を紹介します。左から、異世界生物対策課の課長をお願いしている中島由香さん、彼女の部下である牙門十字君、天原衛君、天原恵子さんの4人です」


 環境大臣が俺達のことを紹介してくれると、会議テーブルに座ってる人々がパチパチと歓迎するように拍手を返してくれた。

 どうやら服装がTPOにそぐわないという理由で怒られる心配はないらしい。

 環境省幹部への照会が終わると、俺達は大臣に促されてプロジェクターを背にする壁際、いわゆる雛壇席に4人揃って座らされた。


「ここからは現在起こっている事態について簡単に皆様に説明したいと思います」


 大臣に続いて立ち上がったのは30代くらいのいかにもエリート官僚って感じの男性だった。

 彼はプロジェクターにパワーポイントで作った資料を投影して、現在異世界対策課がやっている仕事の内容について説明し始める。


「皆さんもご存じだと思いますが、5年前海上保安庁巡視船さどが異世界から来たマモノ『キリサキザメ』に撃沈された事件を契機として、ニビルからやって来るマモノを含む異世界生物から日本人の生命安全を守るために立ち上げたのが異世界生物対策課です。

 そして、先日対策課は5年ぶりにキリサキザメに匹敵する強力なマモノと対峙することになりました。

 この個体、元は体重400キロを超える巨大なヒグマだったのですが、このヒグマが異世界からやってきたノウウジというマモノに襲撃されたときに、方法はわかりませんが自分の脳を守るためにノウウジを自身の右肩に封印しマジン化したとのことです」

「さどを沈めた『キリサキザメ』と同等のマモノとおっしゃいましたが、どの程度の戦闘力があったんですか?」


 真っ先に挙手して質問してきたのは金髪碧眼の外国人だった。おそらく、アメリカから来たゲストなのだろうが、この辺の積極性はさすがアメリカ人って感じだ。


「それは、中島課長に説明をしていただいてもよろしいですか?」


 マイクを持っていた男はあえて由香に花を持たせるようにマイクを手渡す。

 あらかじめ、マモノについて詳しいことを聞かれたら由香が答えることになっていたのだろう、由香は特に動揺することもなくキュウベエのスペックについて説明を始めた。


「この個体、我々は現在彼のことをキュウベエと呼んでいるんですが、私達はキュウベエに対して105mm榴弾砲で攻撃を行いました。着弾観測員から2発命中弾があったと報告を受けているのですが、キュウベエはこの105mm砲による攻撃を第1射は無傷で、第2射は自身の右前足と引き換えに迎撃することに成功しています」


 由香の言葉を聞いて会議テーブルに座っていた人々は一斉に押し黙り、沈黙が部屋を支配した。

 無理もない、105mm砲は今でも自衛隊で使われている口径の大砲だ。

 射程距離はおよそ10キロ、人間が喰らえば、肉体は砲弾のソニックブームに引き裂かれてミンチどころか肉片一つ残らないだろう。

 そんな強力な砲弾を2発も食らって生きてる生物がいるなんて言われたら、冗談か何かだと思いたくなるのも無理はない。


「ヒグマが105mm砲が2発命中して生きてるなんて、そんなこと現実に可能なんですか?」

「着弾観測をしていたのは、ここに居る天原衛君なので我々は彼の報告を信じるしかないです。ただ彼の報告によると、第1射は着弾の直線に獣魔法≪ホウコウハ≫で撃ち落とし、第2射は迎撃した際に右前足の肘から先が吹き飛んだらしいのですが、草魔法≪ジコサイセイ≫を使用することで一分とかからず損傷部位を再生したそうです」


 キュウベエの恐ろしい戦闘力を目の当たりにして環境省の幹部の皆様は言葉を失う。

 まあ、キュウベエの砲弾迎撃は俺でも驚くほどの離れ業だったので、一般人が驚くのは無理ないだろう。


「皆様が驚くのは無理もありませんが、マジンやマモノは肉体強化の魔法で脳の思考速度と、神経の信号伝達速度を強化することが出来るので、マッハ3くらいで飛んでくる砲弾なら十分に反応が可能です」

「いま、マジンやマモノは肉体強化の魔法が使えると言いましたが、もしかしてあなた方がキュウベエと呼んでいるマモノが特別なのではないのですか?」

「強化の度合いに強い弱いはありますが、全てのマモノとマジンは肉体強化が可能です。こう見えて私もマジンなので拳銃で撃たれたくらいでは傷一つつきません」


 環境大臣は、先日由香がやって見せたエア拳銃自殺の事を思い出したのか苦笑いを浮かべていた。

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