第21話 威嚇射撃ってグレネード撃つんですか?

――天原衛


 トレーラーで移動すること4時間余り、夜が明けるころに俺達は足寄町に戻ってきた。

 デンコの死体が見つかったのは俺の所有する山の中なので、我が家の畑の前に14式指揮通信車を駐車する。


「すいません。軒先にこんな大型車両入れて」

「デンコの死体が見つかったのが俺の山だから、ここに停めるしかないですよ」


 指揮車は山中に入れないからここで待機するしかない。


「衛さん、この山の林道でハイラックスが入れるところはありますか? 隊員の負担を減らすためにも移動には可能な限り車を使いたいんですが」

「一応、間伐材を運ぶための林道がありますよ。ただし、山奥に行くとハイラックスじゃ通れなくなります」


 うちの山もそうだが、日本の山の中にある林道の多くは、軽トラやジムニーみたいな小型車がギリギリ入れる広さでしか整備されていない。

 対策課が用意しているハイラックスでは林道の中でも比較的広いところしか通ることが出来ないだろう。

 俺は地図を取り出して、林道の走っている道と、死体のあった場所にそれぞれ線を引いて印を付ける。


「一番効率的な方法は、死体の発見場所を中心にして林道沿いの対角線上に2班が移動。そこから下車して発見場所で合流できるよう、捜索しながら移動するって感じかな。ノウウジが何に寄生しているか判れば、その動物の足跡を追うのがもっと効率的なんだけど」


 そう、今回一番問題になっているのはノウウジがどんな姿をしているのか全く分からないということだ。

 だから、捜索と言っても実態は捜索班をエサにノウウジを釣り出すことを目的にした囮作成に近い。


「贅沢をいったらキリがありませんよ。衛さんの案を採用して、今日は捜索をしていきましょう。野生動物と出会った場合、逃げるようなら放置、向かってくるようなら威嚇射撃をしてください」

「威嚇射撃ってグレネード撃つんですか?」

「サクラでいいだろ、普通の野生動物なら銃声を聞いただけで逃げる」


 齋藤さんが、腰のホルスターに刺しているリボルバー式の拳銃を取り出す。


「拳銃はサクラなんだ。まあ、グロックやベレッタを用意してもマモノに効果ないもんな」

「サクラはいい銃ですよ。一日中持ち歩くということを考えると、軽くて扱いやすいというのは大きなメリットです」


 デンコの死体が見つかったポイントを中心として牙門が指揮を執る第1班が北側、齋藤さんが指揮を執る第2班が南側に車で移動を開始したところでノウウジの捜索作戦は状況開始となった。

 ちなみに、移動に使う車両の荷台で一番大きなスペースを取っているのは、先行偵察に使うドローンだ。



「GPS信号に問題無し。いやあ、文明の利器ってすごいですね、指揮官が兵士の現在位置を確認しながら指揮を取れるから安心感が段違いです」

「ニビルには、別れて作戦行動するときの連絡手段はないのか?」


 モニターに映し出されるGPS信号のマーカーを眺めることしかできない俺は、同じく暇そうにしている由香に問いかける。


「無いですね、別れて行動するときは別行動してる仲間が上手くやってくれることを祈るだけです」


 林道を15分ほど車で移動して、捜索班は予定していた降車ポイントに到着する。


『第1班、下車します』

『第2班、下車します』

「捜索班へ、周囲の状況はどうですか? 車が入れそうな道があれば引き続き車で移動してもいいですよ」

『こちら牙門、1班の進路は車での移動は無理そうです。目標までの進路は木が生い茂ってますし、かなり角度のある急斜面になっています』

『2班も同じく、車での移動は無理そうです気が生い茂っている上かなり角度のある上り坂なので車両では無理です』

「了解、じゃあ当初の予定通り徒歩で捜索を開始してください。道が悪いみたいだから怪我しないように気を付けてください」


 捜索隊はゆっくりとした足取りで、ノウウジの捜索を開始する。

 モニターに映る隊員達のマーカーは亀のようなスピードで移動を開始する。


「移動が遅い、恵子のやつイライラしてるだろうな」

「いや、武器や予備の弾薬含めると30キロ近い装備背負って移動してるんだから仕方ないですよ。おまけに1班は下り斜面、2班は急斜面を登攀してるんだからあれでも早いくらいですよ」


 オペレーターの一人が俺の軽口に反論する。

 いや、俺も元自衛官だから装備背負っての山登りが大変なのは知っている。

 しかし、恵子だけは軽装なうえに元体操選手なので人間の姿でも急斜面をスイスイ駆け降りる身体能力があるので、今ごろ齋藤さん達は度肝を抜かれているだろう。

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