第15話 常人がマジンになれる確率は0.1%

――コクエン


 私は両腕に炎を灯して衛さんに擬態したカガミドロを追いかける。

 不幸中の幸いだったのは、カガミドロが姿だけでなく身体能力や魔法の力も、擬態をした相手に応じて変わる性質を持っていることだ。

 つまり、衛さんに擬態した今のカガミドロは普通の成人男性を少し魔法で強化した程度の力しか持っていない。

 魔力で身体能力を増強している私は、容易にカガミドロに追いつくことが出来た。


「コイツ、よくも衛さんをッ!!」

「コクエン、大技は使うなよ。コアを潰したら元も子もないぞ」


 カゲトラの警告を聞いて私は少しだけ冷静さを取り戻す。

 彼女の言う通り、このカガミドロは生きたまま確保して衛さんのところに連れて行く必要がある。

 私は腕にまとわせた炎でカガミドロの右肩を狙う。

 生きたまま確保するなら四肢を潰してダルマにしてしまうのが手っ取り早い。

 肩を狙って突きを放った私の顔面をパンッ!とカガミドロの拳がカウンターで届く。

 拳を強く握らず素早く振りぬくことを優先したジャブパンチ、ダメージはない。

 しかし、ジャブで突進の勢いを止められた私の突きはカガミドロの左肩に届かず空を切る。

 意外な反撃に動揺した私に、カガミドロは足払いを仕掛けてくる。

 右足を払われて体制を崩したところで間髪入れずに飛んできた前蹴りをまともにくらい、私は尻もちをついてしまった。


「甘く見るなよ、衛は自衛隊で格闘技の訓練を受けている。人が相手ならけっして弱い相手じゃないのだ」


 確かに強い、カガミドロは私とのリーチの差を生かして的確に反撃してくる。

 それなら、リーチの差を生かせないように攻撃すればいい。

 私は顔の前に両腕をクロスさせて盾をつくりカガミドロに突撃する。

 カガミドロはパンチで迎撃して来るが私は意に介さず特攻する。

 体格は小さくてもパワーは私の方が上。虚を突かれなければ動きを止められたりはしない。

 カガミドロに抱き付くように取りついた私は力任せに持ち上げて地面に押し倒した。


「カゲトラッ! コアの位置は!?」

「右胸、コアが心臓の代わりをしているのだ」

「オーケーッ!!」


 私は両腕に炎をまとわせカガミドロの太ももに突き刺し足を焼き焦がした。

 これで移動力は奪った。

 あとは一刻も早くこいつを、衛さんのところに連れて行かないと。



 身体にマモノのコアを融合させ、マモノの能力を使えるようになった人間をニビルではマジンと呼ぶ。

 マジンになるために必要なものは二つ。

 一つ目は、マジンになりたいと思う生きた人。

 二つ目は、元の身体から引きはがされ死にかけたマモノのコア。

 死にかけたマモノのコアを別の生物の身体に埋め込むと、コアは生き残るために魔力で周囲の肉体を浸食して同化しようとする。

 マモノの魔力に肉体を侵食された人間は、肉体の性質が変質しマモノの能力を使用できるようになるという理屈だ。

 こうして説明すると比較的簡単な方法でマジンになれるように聞こえるが、ニビルでもマジンの数はとても少ない。

 理由は単純で、成功率があまりにも低すぎるのだ。

 肉体にマモノのコアを埋め込んだ人間が1000人居た場合。

 980人は激しい拒絶反応により即死する。

 運良く拒絶反応が少なかったとしても、19人はコアの魔力に精神を侵食されマモノそのものになってしまう。

 マモノのコアに肉体が適合し、その上で元の自我を残せる人間は千人に一人。

 マジンと呼ばれる超能力者になれる確率は0.1%。

 だから、まともな人間は決してマジンになろうなんて考えない。


「だけど、致命傷を受けた衛さんが生き残るには千に一つの可能性に賭けるしかない」


 由香は手を鋼鉄の刃に変え、カガミドロの胸切り裂いてコアを取り出し、続けて衛の胸を切り裂いて心臓のある場所に強引に押し込んだ。

 激しい出血で衛の意識がもうろうとしていたのは、むしろ幸運だったかもしれない。


「大丈夫だよね。これで、衛さん助かるよね」

「期待しないでください。常人がマジンになれる確率は0.1%。逆に言えば、99.9%の確率で衛さんは死にます」

「そんな……」


 死ぬ。

 衛が死ぬ。

 三日前に会ったばかりだというのに、衛が死ぬという事実に私は信じられないほど激しい衝撃を受けた。

 それは脳天から脊髄を通じで電流が駆け抜けるような衝撃。


「あ、……あ……」


 過去の思い出が早送りの映画のようにフラッシュバックする。

知ってる。

 私は、この人を知っている。

 この人は世界で一番大切な人、世界で一番大好きな人、自分の命よりも大切な人だ。

 無意識のうちに私は絶叫していた。


「いやだああああ、マモちゃん、死んじゃイヤだあああッ!!!!」

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