第12話 ゲートが作られたってどういう事よ!?

――天原衛


「私達も聞きたいことがあるんだけど、いいですか?」


 一通り自分達の素性を説明した由香は、顔をグッと近づけて俺に質問してくる。


「まず、あのデンコだけどコクエンさんが倒したんですよね」

「まあ、一応そうなるのかな?」


 コクエンはニビルでデンコ退治の依頼を受け、デンコを追いかけている途中で異世界転移に巻き込まれてしまったこと。

 デンコと戦闘になり、最終的に自爆を使われて逃げられてしまったこと。

 後日、俺と一緒に山を捜索してデンコの死体を発見したことを由香達に説明する。


「地球に来ただいたいの経緯は私達と同じですね」

「私達の場合は、キリサキザメの巣穴に飛び込んだら地球に転移していたのだ。だから、日本海にある海中洞窟がニビルと地球を繋ぐゲートになっていた可能性が高いのだ」

「もしかして貴方達、そのゲートを通ればニビルに帰れるんじゃないの?」

「それが無理なのだ。なにしろ海中に作られたゲートだからな、岩に刻まれた呪文が海流に削られて無効化されていたのだ」


 ん? いまカゲトラの奴、変なこと言わなかったか。


「ゲートが作られたってどういう事よ!? あれって偶然発生したものじゃないの」

「時空転移が偶然発生すると考える方が不自然ですよ。地球とニビルを繋ぐ道は何者かが意図的に作って地球とニビルの間を行き来してる可能性が高いです」


 由香は地球とニビルを繋ぐゲートを作った何者かの存在を指摘する。


「この推測、確証はないんでまだ政府には話していないんですが、コクエンさんの件、私は大チャンスだと思うんです。だって、あなたがニビルから地球に転移してきてまだ三日しか経っていないんですよッ!!」

「私が通ったゲートは、まだ生きてる可能性が高い」

「この辺の地図持ってくるッ!!」


 俺は慌てて二階に駆けあがり、俺の所有する山の地図と、それより少し範囲の広い足寄町全体が表示された地図を取って来る。


「俺の所有する山の位置がここ、そして山の中でコクエンとデンコが戦って場所がここだ」


 俺は事件に関係しそうな場所に赤ペンで印を付ける。

 

「この家を取り囲む三つの山が私有地ですか、思ったより広いですね」

「あとは、コクエンの記憶だよりになるんだが、デンコを追いかけている特になにか特徴にある地形に出くわさなかったか?」

「あの時はデンコの追跡するのに必死だったからなあ……でも、印象に残ってるところと言えば滝の裏側にある洞窟かな……滝つぼのところで匂いが途切れていて、何処に向かったのか探すのにすごく苦労したし」

「うわ、それすごく怪しいのだ」

「滝ねえ……滝つぼの地形ってこんな形だったか?」


 俺は地域観光サイトに掲載されているオントネーの写真をコクエンに見せる。

 滝はどこの地方でも観光地として整備しているのでインターネットを探せば景観を映した写真を見つけることが出来る。


「ここじゃないわね。こんな開けた場所じゃなくて森の中にある滝で、滝のある岸壁も岩肌がむき出しになっていたと思う」


 その言葉を聞いて俺は足寄町にあるもう一つの滝の姿を思い浮かべる。


「コクエン、ここはどうだ? デンコを追う途中でここに立ち寄らなかったか」

「うん、ここ、確かにここは通ったッ!!」


 俺が見せた写真は白藤の滝という足寄町にあるもう一つの滝の写真だった。

 キャンプ場のすぐそばにあるオントネー湯の滝の正反対の場所にあるせいであまり人気のない観光スポットだ。

 ただ、ここにニビルと地球を繋ぐゲートがあるとすれば大きな問題がある。


「ヤバイな、この滝、森の中にあるように見えるが国道から歩いて5分くらいしか離れていないぞ」


 由香と牙門が同時に苦い顔をする。

 国道との距離が近いということは、このゲートを通ってマモノが地球に来た場合、地球人と出くわす可能性が激的に高くなることに気が付いたんだろう。


「今すぐ調査に行きましょうッ! 衛さん、現地までの案内お願いできますか?」


 由香はスクッと立ち上がってそう宣言した。


「今からかよ、あの辺街灯ないから夜は真っ暗になる。滝に向かうなんて危険すぎるぞ」


 真っ暗闇の中でヘッドライトの明かりだけを頼りにぬかるんだ道を歩くなんて、普通の人間なら自殺行為だ。


「問題ない、私は夜目が聞くのだ。コクエンと由香もマモノ使いだから自前で明かり位用意できる」

「調査隊のメンバーは、私とカゲトラ、あと、衛さんとコクエンさんの4人でいきましょう。このメンバーなら多少のトラブルがあっても問題ないはずです」

「そのメンツなら、まあ、大丈夫か」


 人知を超えた力を持つマジンが3人だ。

 たとえ戦車が襲ってきても返り討ちにできる。


「課長、私も同行したいのですが……」

「牙門さんは装備無しでは危険なので、この家で待機してください」

「ダメですか?」

「ダメです。貴方はいま、戦うための装備を持っていないのだから出撃は許可できません」


 牙門は感情を殺しきれずに唇を噛む。

 比較対象がマジンだから仕方ないのだが、エリート自衛官にとって危険だから待機と命令されるのはとんでもない屈辱だろう。


「代わりに本部への連絡をお願いします。指示の内容は、指揮車とマモノ駆除班を何時でも出撃できるようスタンバイさせること。ちなみにマモノ駆除班は、2号装備で出撃できるよう準備させてください」

「指揮車を出撃させるんですか?」

「ゲート付近にマモノが居たら即退治できるよう備えておきたいんですよ」

「マモノに備えるなら今すぐ指揮車を呼び寄せた方がいいのでわ?」

「武装したマモノ駆除班を出撃させるときは、道警の許可取っておかないあとでこっ酷く怒られるんです」


 由香はうんざりした顔でため息を吐く。

 おそらく、由香が呼び寄せようとしているのは自衛隊普通課やSATと同レベルの重火器を装備した軍隊顔負けの集団だ。

 民間人の目線だと、そんな連中を動かすなら事前に連絡を入れろという、北海道警察の言い分の方が正しい気がする。


「それでは牙門さん、申しわけないですが本部との連絡役お願いしますね」

「イエス・マムッ! 本部への連絡受け賜わりました。指揮車は発進準備、マモノ駆除班は2号装備で待機するよう連絡します」


 牙門は自衛官らしく、啓礼したうえで由香の命令を復唱する。

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