第7話 記憶にない救い
「今は何も考えずにバッティングに集中しましょうね」
「まあそうだが.....お前が野球好きなの意外だな。それに女子は汗をかくの嫌がるかなって思ったんだが」
「そうですね。汗をかきますから。.....だからまあ野球もそうですが特段好きって訳じゃないです。.....でも今回は腹が立ったので来ました」
言いながら俺を見つつバットを構える美兎。
俺はその姿をベンチから覗く。
すると美兎は、ムカ、つく!、と言いながら野球ボールをかっ飛ばした。
その姿を見ながら俺は苦笑いを浮かべる。
それから俺は見ていると美兎がいきなりこんな言葉を発した。
「先輩ってもう誰かと付き合う事はないんですか」
と、である。
俺はその言葉に驚きながらも、まあな、と答えながら次々に目の前でボールをかっ飛ばす美兎を見る。
美兎は、そうなんです.....ね!、と言いながらボールに挑む。
それから何本かがバットに命中してホームランとなった。
俺は、意外な才能だな、と思いながら見ていると。
「私が先輩の傷付いた心を癒しますね」
「.....俺の傷付いた心?」
「はい。私思います。.....先輩は頑張りすぎだって」
「そんなに傷付いている様に見えるかな」
野球のキャップを取りながら。
バットを置きつつ、はい。見えます、と言ってくる。
それから真剣な顔で俺を見据えた。
私、先輩が傷付いている姿を見るのが辛いです、と言葉で言い表しながら。
「私は.....先輩を助けたいって思います」
「いや。良いんだけど.....何でお前はそこまで.....」
「私ですか?.....私が何故こんなにするか?.....簡単ですよ」
汗を手の甲で拭いながらニコッとする美兎。
それから俺に向いてきた。
そして、私が先輩に救われたからに決まっています、と答える。
は?俺が.....美兎を救った?
どういう事だ。
「.....美兎?俺はお前を救った様な事はしてないぞ」
「人違いだと?.....それはないですよ。先輩はあくまで私を救いました。だから私が今度は先輩を救う番です」
「記憶に無いのにそれでも俺を救うのか」
「先輩の記憶に無くても私の頭には記憶があります。.....それだけでもう十分ですよ」
美兎は言いながら微笑みを浮かべて俺を見てくる。
俺はその顔に衝撃を受けながら居たが。
そうか、とだけ返事をした。
俺は昔.....確かに図書館で絵を描いていた女子に声を掛けた事があるが、と。
まさかな。あれが美雨とは思えない。
だって陰キャの様な感じだったから、だ。
すると美兎はバットを置きながら、先輩。私は貴方から貰ったこの思いを少しずつ返しているだけです。.....私は貴方から貰った心はとても暖かいと思いました。.....本当に十分なぐらいに貰いましたから、と笑顔になる。
「美兎.....」
「先輩の先輩らしさは必ず壊させません。.....私が救って守ってみせますから」
「お前.....本当に良い奴だな。美兎。改めてお前の良さを知った気がする」
「まあこんな事をしていたら良い奴なんて言葉もそれなりに吹っ飛びますけどね」
正直私はかなり薄汚れていると自分で思っています。
だから決して良い奴では無いです、と自嘲な感じで言いながら俺にキャップとバットを渡してくる。
俺はその2つを受け取りながら美兎の頭を触った。
美兎はビクッとしながらいきなりの事に戸惑う感じで、ど、どうしたんですか、先輩、と聞いてくる。
その言葉に俺は、あくまでお前は薄汚れてないよ。.....俺のせいで巻き添えを食らっているけどな。お前はよく頑張ってる。.....だから有難いよ、と言葉を発した。
「しかしすまないな。こんな面倒ごとにお前まで巻き込んでしまって」
「何処が面倒なんですか?.....私は面倒とは思って無いです。.....先輩の為にやっているのと牡馬先輩への憂さ晴らし程度ですねやっているのは」
「.....まあそう思ってくれているだけでも有難いよ。.....んじゃ俺もかっ飛ばしてくるかな」
「そうですね。その意気ですよ先輩。頑張りましょう」
そう言われながら俺はバッターボックスに立つ。
それから構えてからそのままバットを振るが。
運動不足故にそのままボールには俺のバットは一回も当たらなかった。
まあ考え事をしていればこんなもんだろうな。
頭に張り付いている。
俺はそう考えながら苦笑いを浮かべつつ.....そのまま俺達は長い時間を過ごしたバッティングセンターを後にした。
で帰り道の事であるが。
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