第28話

 穂月錬次は焦っていた。5月下旬、中間学力試験の結果を受けてである。

 俺は昔から勉強が得意だ。生徒会長になるという目標の為に、入学してからも努力して来た。

 しかし結果は3位、上に二人もいる。槌屋という男子生徒と御影という女子生徒だった。


「3位でも充分凄いと思うけど。錬次は昔から完璧主義の気があるよね」

 ペンを弄びながら錐人が言う。

 7月1週目の土曜日、図書室の一角。俺と錐人は期末試験の対策をしていた。

「でも中学迄はずっと一位だったから落ち着かないんだ」

「贅沢な悩みだね」

「錐人は何位だったんだ?」

 上位10名は結果が掲示されたがこいつの名前は無かった。

「11位だよ」

「錐人らしいな」

 彼は文系科目があまり得意ではないのでそんなものか。

「どういう意味だよ、別に僕はそこまで良い点を取る必要は無いし」

「玄冬先輩は勉強もトップらしいぞ」

「ほ〜う?」

 俺の言葉に錐人は笑む。目に火が灯った気がした。

「それはそうと涼はどうしたんだ?」

 俺は錐人に聞く。いつも三人集まって勉強していたのだ。

「涼は話題の御影さんと乳繰り合っているよ」

 錐人がペンで指し示した方向を見ると、涼と黒髪の女生徒が仲良く勉強をしていた。

「へぇあの人が。だとしたら涼の成績も上がりそうだな」

「僕は浮かれて成績が落ちるに八溝の魂を賭ける」

「かざみん、勝手に人の魂賭けないでよ」

 そこで斑髪の少年が後ろから錐人にしなだれ掛かる。

「八溝君、何の用?」

 錐人が少年を払い除けながら言う。

「かざみんに勉強を教えて貰おうと思ってね。中間は83位だったしやばいんだよマジで」

 因みに一年生は全84人である。

「あのバカップルに教えを乞え。同じ班だろ?」

「そんな事したら殺されちゃうよ」

「錐人、誰?」

 戯れる二人に俺は割り込む。

「八溝白牙、涼の友人だよ」

「かざみん、自分は違うみたいな言い方は傷付くよ」

「八溝君、初めまして。俺は穂月錬次、錐人と涼は昔からの付き合いだ」

「そう、よろしくね、づっきー」

 八溝が謎の愛称で呼んでくる。

「後は任せたよ。八溝に勉強教えてあげてね、づっきー」

 何故か錐人もそう告げる。

「誰がづっきーだ。何で俺が」

「6歳の子供に説明できなければ、理解したとは言えない。って誰かも言っていたよ。人に教える事で見えてくるものがあるんじゃないか?」

「かざみん、6歳児に例えられるのは流石に凹むぞ?」

 錐人の提言に八溝が突っ込む。

「そうだな、教えやる。理数系は錐人のが得意だろ?そっちは頼むよ」


 そんな感じで俺達は勉学に励んだ。

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