第27話

 翌日、授業を終えて僕は第一訓練場に来ていた。

「まずは昨日の復習だ。神経伝達で最も時間がかかる場所はどこだ」

 笹舟先輩の問いに僕は答える。

「ニューロンを繋ぐシナプス間隙です。神経伝達物質の放出と受容体との結合に時間がかかるので」

「そうだな、故にそこを短縮すれば劇的な速度上昇が期待できる。電気信号を直接次のニューロンに伝えるのだ」

 笹舟先輩の言う通りに電流を操る。シナプスをショートカットするイメージ。うーん。

「…出来ません」

「当然だ。人体に幾つシナプスがあると思っている。一朝一夕で身につくものでは無い」

 途方も無さに僕は弱気になる。

「ではどうすれば?」

「先ずは体の一部分からだ。右手の神経で試せ」

 そう言って笹舟先輩は僕の右手を掴んだ。

「えっと?」

「前にも言ったが私は生物の微弱な電磁波を捉えることが出来る。貴様の電流の様子を逐次観察してフィードバックする。これが一番手っ取り早い」


 それから僕は笹舟先輩に師事して訓練を続けた。授業が終わると訓練場や図書室で笹舟先輩に教わる日々。彼は厳しくも真摯に僕と向き合ってくれた。

 一度何故ここまでしてくれるのか疑問に思って訊いてみた。

「先輩が後輩に優しくするのは当然の事だ」

 笹舟先輩は素っ気無く答える。

「それだけじゃない気がします」

 僕がそう言うと、彼はこちらをじっと見て続けた。

「劣等感に押し潰され無い為には、進み続けることが必要なのだ」

「先輩もその様な経験があるんですか?」

「昔な。だから同情したのも確かだ」

 この先輩、見た目は怖いが実は良い人なのかな。

「前風紀委員長は非常に厳格な人と聞いていたので意外です」

「ふん、真面目な生徒に厳しくする意味はあるまい」

 そんなものか。

「ところで笹舟先輩、師匠と呼んでいいですか?」

「断る」


 僕が笹舟先輩に教わって2週間が経った。

「電光石火!」

「だいぶ形になって来たな」

 言いながら笹舟先輩が距離を詰める。十手を駆使して猛攻を仕掛けくる。

 僕は電光石火で加速された動きでそれを捌く。

 笹舟先輩の攻撃を双剣で捌き終えると僕の身体は限界を訴えてふらつく。

 そんな僕を笹舟先輩は粗雑にだがしっかりと支えてくれた。

「よく頑張ったな。後は自力で精進しろ」

「ありがとうございました」


 こうして僕は電光石火を修得した。劣等感はまだある。だけど気分は不思議と悪くなかった。

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