第26話
昼食を終えた後、僕と笹舟先輩は図書室に来ていた。
「それで、何故ここに?」
僕は笹舟先輩に尋ねる。
「貴様は電光石火の原理を知っているのか?」
「ええと、身体に電流を流して反応速度を高める術ですよね。神経回路は電気信号だから」
「そうだな、ではどうやって神経に電気が流れるか知っているか?」
それは電流を操作して、いや違うほとんどの人はそんな事出来ない筈だ。
「分かりません」
「理論を学ばなければ成長は望め無いぞ。何事も理解する事が重要なのだ」
確かに。そういえば風見や傷代もよく専門書を読み漁っている。
「だから図書室に」
「ああ、今から私が人体生理について叩き込んでやる」
「まず神経系の基本構造から始めよう。神経系は中枢神経系と末梢神経系に分かれている。中枢神経系は脳と脊髄からなり、末梢神経系は脳と脊髄から枝分かれして全身に広がる神経を含む」
「はい」
「神経細胞、つまりニューロンは電気信号を伝達するための基本単位だ。ニューロンは細胞体、樹状突起、軸索から構成されている。樹状突起は他のニューロンからのシグナルを受け取り、軸索を通じて電気信号を送る」
「なるほど」
「電気信号、つまり活動電位はニューロンの膜電位の急激な変化によって発生する。安静時のニューロンは内側が負に帯電しているが、刺激を受けるとナトリウムイオンが流入し、膜電位が正に変わる。この脱分極が活動電位を生じさせ、信号が軸索を伝わる」
「ふむふむ」
「ニューロンの電気活動を制御するためには、イオンチャネルの働きを理解する必要がある。電位依存性ナトリウムチャネルとカリウムチャネルが重要だ。ナトリウムチャネルが開くと脱分極が起こり、カリウムチャネルが開くと再分極が起こる。これにより、活動電位が形成される。ここまでは大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃないです」
いや、無理だって。そんなのべつ幕なしに説明されても分かる訳が無い。
「分からないか、ならばもっと簡単に説明しよう。まず、ニューロンは電気信号を伝えるための細胞だ。それには、ナトリウムとカリウムというイオンが重要だ。ナトリウムはプラスの電荷を持ち、カリウムも同じだが、通常の状態ではナトリウムが細胞の外に多く、カリウムが細胞の中に多く存在する。これを分極状態と呼ぶ」
「それなら少し分かります」
「よし。ニューロンが刺激を受けると、ナトリウムチャネルが開いてナトリウムイオンが細胞内に流れ込む。これで細胞内が一時的にプラスに帯電する。この状態を脱分極と言う。そしてすぐにカリウムチャネルが開いてカリウムイオンが外に出ることで、再び細胞内が元の状態に戻る。これを再分極と言うんだ」
「なるほど、ナトリウムが入ってきてカリウムが出ていくんですね」
「そうだ。この脱分極と再分極の過程が電気信号、つまり活動電位を生み出しているんだ」
「むっ、もう閉館か」
蛍の光が聞こえてくる。僕は脳が焼き切れそうな錯覚から戻って来る。
「ここまでだな、明日の放課後も空いているか?」
笹舟先輩の質問の意図は分からないが僕は答える。
「空いていますが」
「第一訓練場で待っていろ。次は実践だ」
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