第25話

 亜妻雷哉は平凡な少年である。忍者という時点で非凡という向きもあるが、ここは忍術学園、在籍する生徒は全て忍者である。

 故郷から離れ、忍術という個性も埋没してしまった今、僕は自己を見失いかけている。

 

 6月4週目の日曜日、訓練場にて僕は風見と向き合っていた。

「行くよ」

 そう言って風見は距離を詰める。彼の忍者刀から繰り出される連撃を僕は双剣で弾く。

 しかし風見の斬撃は速く、防ぎ難い場所を的確に突いて来る。直ぐに姿勢を崩され、気付いた時には首元に刃を当てられていた。

「参りました」

 僕は手を挙げて降参する。

「風見君は凄いね」

 初めは彼がよく分からなかった。出力訓練ではそよ風程度しか起こせ無い。と思ったら竜胆先生に一矢報いた。にも関わらず対人戦で負け続ける。

 しかし大型連休が明けた辺りから彼の雰囲気がガラリと変わった。毎日遅くまで訓練に明け暮れ、対人戦もあまり負けなくなった。

「どうしてそんなに頑張れるの?」

 僕の問いに一瞬考える様な素振りをしてから風見は言う。

「何が何でも超えたい人がいるからかな?」

「そっか」


「超えたい人ね」

 お昼になり風見と別れ食堂へと僕は来ていた。シチューの載った盆を持ち席を探す。

 今日は混んでいるな、ほとんどの席が埋まっている。あっ空いている席があった。なんだろう示し合わせた様に誰も座らない。

 僕はその席の向かいに座っている人物に声を掛けた。

「ここ座っていいですか?」

 亜麻色の髪を持つ青年は僕を見る。目付きが非常に悪い、勿朽以上だ。

「構わない、どうせ誰も座らないからな」

「ありがとうございます」

「ん?貴様、演習で取り逃した一年だな」

 彼のその言葉に僕も気付く。この人、確か笹舟先輩だったか。

「何か悩み事でもあるのか?」

「えっ?」

 笹舟先輩のそんな指摘に僕は困惑する。

「浮かない顔をしているな。私で良ければ話を聴くぞ」

 予想外の展開だが無下にするのも悪い。僕は内心を吐露する。

「兄さんがいるんです。僕と違って優秀な」

 超えたい人。その言葉に僕が想起したのは兄の姿だった。

「兄というと、亜妻光夜あづまこうやか?」

「知っているんですか?」

「ああ、一度戦ったこともある。確かに奴は優れた忍びだ」

 笹舟先輩は続ける。

「それで劣等感を感じてしまっていると。陳腐な悩みだな」

 そうなんだけど、僕の悩みを陳腐とか言わないで欲しい。

「貴様は貴様だ。他の誰と比較するものではない」

「比較せずにはいられませんよ。兄さんがあっさり習得した忍術『電光石火』だって僕は未だに使えない」

 あれが使えれば風見にだって対抗できるかもしれないのに。

「電光石火か、確かにあの技は難しいな。私も習得してはいるが実戦では殆ど使わない」

 笹舟先輩が僕をじっと見る。

「そうだな、口先だけでは何とでも言える。私が手伝ってやろう。貴様が電光石火を使えるようになるのを」

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