第23話
6月4週目の月曜日、風見錐人は授業を終えて帰宅の準備をしていた。
「かざみん、いるー?」
教室の外からそんな声が聞こえてきたので視線を向けると、斑らな髪をした小柄な少年が立っていた。
「八溝君、どうしたの?」
彼の名前は
「りょーちん知らない?昨日から帰って無いんだよね」
「涼が?」
そういえば彼は涼と同室だったな。
「うん、同じ班の御影さんも欠席しているし心配だよ」
昨日は二人で出掛ける予定だった筈。何か事件に巻き込まれたのかもしれない。
「確かに心配だね。探しに行こう」
数時間後、僕と八溝はある書店の前に来ていた。
「かざみん、二人は昨日ここに来たのか?」
「この辺りで本屋といえば此処くらいだからね、さてどうしようか」
「俺っちに任せろ。『獣化の術』!」
八溝はそう言って地に手を着く。すると彼の顔の毛が濃くなり鼻が黒くなる。
「すんすん、りょーちんと御影さんの匂いだ。辿るよ」
八溝は地面の匂いを嗅いで言う。
八溝の後を追って辿り着いのは古びた小屋だった。
「間違いない、ここだね」
言って八溝が扉を開ける。
「りょーちん!大丈夫⁉︎」
僕も彼に続いて小屋に入ると、中にはベッドに横たわる涼がいた。手錠で両手を拘束されている。
「八溝、錐人。どうしてここに?」
「俺っちの鼻は一級品だからね。どしたのその手錠?お楽しみ中?」
「違うわ!これは御影さんに」
そこで僕は殺気を感じる。振り返ると御影が立っていた。
「風見君と八溝君。なんで?」
「それはこっちの台詞だよ」
僕は御影の剣呑な雰囲気に呑まれない様に返答する。
「そうか、そうだね。うん、私から涼君を奪うなら、例え彼の友人でも、容赦はしない」
御影が懐からドスを取り出す。引き抜かれた刀身は黒い光沢を湛えていた。
「落ち着いてよ、御影さん。こんなってうわっ!」
僕の言葉を遮り、御影が斬りかかって来る。それを僕はなんとか躱わす。
「しょうがないなぁ」
返す刀で斬り込む御影に、僕も忍者刀を抜いて応戦する。
鋭い斬撃の応酬を刀でいなす。彼女の攻撃は速く重い。しかし頭に血が昇っているのか軌道が単純だ。
危なげ無くドスを捌いていると、身体に違和感を憶える。変だな、これくらいで疲れる筈は無い。
「錐人、気を付けろ!彼女は力を吸い取るぞ」
涼の言葉に僕は苦笑する。
「言うのが遅いよ」
御影の袈裟懸けの一撃を受け切れずに僕の体がふらつく。その隙を彼女が見過ごす筈も無い。
「貰ったよ」
しかし勝利を確信した御影の斬撃は空を切る。
「風見屍這。トドメを刺す時が一番脆いよね」
僕は御影の背後に周り彼女の首筋に忍者刀の刃を添えて出来るだけ冷たい声で言う。
「手錠の鍵は何処?」
「…鞄の中」
御影が渋々答える。
「八溝君、探して」
僕は呆けていた八溝に声を掛ける。彼はハッとして御影の鞄を漁る。
「おっ、あったぞ」
八溝が鍵を取り出して涼へと駆け寄る。
僕はそれを見て御影の首から刀を外す。すると彼女はへたり込んでしまった。
「うっ、ひっぐ、ぐすっ」
途端に彼女は泣きだす。
「嫌だよ、涼君。居なくならないで、私を独りにしないでよぉ」
僕が途方に暮れていると、手錠から解放された涼が歩み寄って来た。
そして泣きじゃくる御影をそっと抱きしめた。
「涼君?」
「大丈夫、居なくなったりはしないよ。俺は紫苑さんを独りになんてさせない」
そう言って涼は御影を優しく撫で続けた。
御影が落ち着いた頃、四人で学園へと帰った。僕と八溝は涼からこの一件を口外しないように頼まれたので、了承する。
「世話をかけたな」
涼が殊勝な態度で言う。
「それは構わないけど、いいのか?」
「どんな重い愛情でも受け止めるのが漢の甲斐性ってものだぜ」
「そう、また監禁とかされるなよ。次は助けないからな」
「気をつけるよ」
こうして涼と御影は付き合う事となった。
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