第22話

 気がつくと俺は薄暗い部屋にいた。カビ臭い匂いが鼻につく。

「起きた?」

 御影が俺の顔を覗き込む。咄嗟に目を逸らすとガシャリと音がした。

 見ると俺の両手首には手錠が掛けられていた。

「えっ?この手錠は何?」

 御影が俺の頬に手を添えて微笑む。

「涼君が逃げ無いように私が付けたんだよ」

「御影さんが?」

「紫苑って呼んで。これでずっと一緒だね」

 どうしてこうなった?俺は記憶を探る。確か御影と出かけて、抱きつかれて、口づけされたんだ。そこから先は憶えていない。

「あの時に薬を盛ったのか?」

「違うよ、私の忍術『吸魂の術』。普段は武器や手を介して発動するんだけど、口同士が一番効果的だね。あっ勿論試すのは君が初めてだよ」

 御影が唇を舌で舐める。その妖艶な仕草に俺はゾッとする。

「なんでこんなことを?」

 俺の問いに御影が目を伏せて答える。

「お父さんのこと少し話したよね。優しくて大好きだった。でもある日突然居なくなったの。涼君も私に優しくしてくれるけど、また居なくなるんじゃないかって不安になるの」

 そこで御影は俺の目を見て続ける。

「だから監禁するの。大丈夫、全て私がお世話してあげるから」

 その目は吸い込まれそうな程に黒かった。


 その後何度も説得を試みたがことごとく失敗に終わった。御影は宣言通り甲斐甲斐しく世話をしてくれた。食事は至福と呼べないことも無かったが、排泄は最悪だ。俺にそんな趣味は無い。

 彼女は今、俺の隣で寝息をたてている。可愛らしいその顔に全て夢なんじゃと思ったが、手錠の無骨な感触がそれを否定する。

 さて、どうしようか?

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