第20話

 小説の棚へ移動した俺は錐人を睨む。錐人は澄まし顔をしているが顔がにやけるのを隠しきれていない。

「何だよ折角文字通り背中を押してあげたってのに。おっと、あったよ。これが狂言シリーズ一作目の『狂言使いとむじなの子』だ」

「むじなって穴熊だっけか?」

「そうだね、地方によっては狸を指す事もあるけど。化けるとされる妖だ」

「俺は狐の方が好きだな」

「狐は三作目で出てくるよ」

「詳しいな」

「一応このシリーズは読破しているからね。独特の台詞回しが癖になるんだ」

 御影と話が合いそうな錐人に思わず嫉妬してしまいそうになる。すると錐人は俺を見て笑った。

「心配するなよ。僕は勿朽さん以外は興味無いから」

「俺ってそんな分かり易いか?」

「ああ、筒抜けだね。だからこの本の感想を彼女に話す時も正直に言えよ。お為ごかしは見破られるからね」

 それから錐人はいくつも小説を持って来てくれた。その中から俺はあらすじを読んで興味が湧いたのを選ぶ。

「こんなものかな。じゃあそれを借りてこいよ」

 錐人は言って、俺が選ばなかった本をテキパキと戻している。

「本が元あった位置を全て覚えているのか?」

「蔵書には番号が添付されているからそれを見れば場所が分かるんだよ」

 そういえば委員会でそんな事を説明された気がする。なんでこいつは図書委員でも無いのにそんなの知っているのだろう?

 受付に行くと御影が対応してくれた。

「沢山借りたね」

「錐人が選んでくれたんだ。面白かったら御影さんにも紹介するよ」

「ええ、是非」


 6月2週目の月曜日、一年白虎組の教室に入ると座って本を読んでいる御影を見つけた。

「おはよう、御影さん」

「折霜君、おはよう」

「お勧めされた本読んだよ。少し難しかったけれど面白かったね。でも最後のむじなの行動がよく分からなかったな」

「それは芥郎あくたろうへの照れ隠しだと思うよ。捻くれ者のむじなが感謝の意を示したの」

「ああ、そういう事だったのか」


 そんな感じで御影と本の話をするようになった。少しずつだけど仲を深められていると思う。

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