第18話

〜勿朽流華と劔楓〜


 ある日の放課後、楓は当直のため保健室に来ていた。

 部屋に入ると焦茶の髪をポニーテールに纏めた少女が座って本を読んでいた。

 名前は知らないが見た顔だ。保健委員の一年、彼女も当直だろう。そう当たりをつけ声を掛ける。

「初めまして、あたしは劔楓。今日はよろしく」

 本を閉じ彼女は顔を上げる。蛇のような吊り目が印象的だ。

「…勿朽流華。よろしく…」

 …勿朽、成る程、この娘が錐人の想い人か。

「何?」

 じっと見ていると勿朽が睨む。整った顔をしているのに不機嫌な表情が全てを台無しにしていた。

「あなたの事は少し聞いていてね。風見錐人はあたしの従兄なの」

「風見君の?…ねぇ、彼は一体何者なの?」

「何者って?」

「いきなり氷盾さんに決闘を挑んだと思ったら、負けても心が折れていない」

 あたしもその事には驚いた。楓の知っている錐人はあまり人に興味を持たない少年だった筈。

「それに氷盾さんの背後を取ったあの技、防がれはしたけど確かに彼の意表を突いた。風見君は気付いて無いと思うけど、氷盾さんの足を動かした」

「正直な所、錐人君の事はあたしもよく分からないよ。でも勿朽さんの為に必死に努力したんだと思う」

「そこが一番分からないのよ。何で私なんかの為にそこまでするの?」

「好きな人の為に何かしたいってのは自然な事じゃないかな。勿朽さんは錐人君をどう思っているの?」

 勿朽は一瞬目を見開いた後、いつもの不機嫌な表情に戻り

「別に何とも思っていないよ」

 と言った。

「それはちょっと可哀想だよ」

「劔さん、ありもしない希望を魅せるのはとても残酷だと思わない?」

 勿朽の冷たい眼差しにあたしは何も言えなかった。

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