第16話

 5月3週目の日曜日の朝、僕は第二備品倉庫に来ていた。扉の前に楓が眠そうに立っている。

「おはよう、錐人君」

「おはよう、楓も来たんだ」

「うん、手伝うって言ったし。彼に頼むのならあたしもいた方がいいと思って」

「?よく分からないけど、ありがとう。錬次は中かな?」

 そう言って僕は扉を開ける。倉庫の中は所狭しと武具が鎮座していた。奥の方から物音が聞こえる。音源に向かって進むと二つの人影が見えて来た。

「お、錐人おはよう」

 その片方、錬次が僕に気付いたが、もう片は一心不乱に何かを弄っている。

「おい深山、お前に来客だぞ」

「んー?」

 深山と呼ばれた人物は手を止め、僕の方を向く。かなりの背丈だ。錬次も背の高い方だがそれ以上ある。

「あぁ、君が穂月の言ってた錐人君?己は深山大樹みやまたいじゅ

「風見錐人です。あなたが僕の武器の相談に乗ってくれるんですか?」

「そういう話だっけ。どうしようかなぁ、気乗りしないなぁ」

 そこで楓が前に出て上目遣いで言う。

「あたしからもお願い、錐人君の力になってあげて」

 すると深山の態度が豹変する。

「女の子に頼まれたら断れないな。しょうがない、引き受けるよ」

「助かります、これが今使っている武器なんだけど」

 彼の軟派な物言いが少し不安だったが、ともあれ僕は忍者刀を差し出す。

「ふむ、汎用型の忍者刀だな。んー」

「どうかな?」

「武器だけ見ても君に合うかは分からないかな。ちょっと君の戦い方を見せてくれる?ここは狭いし外へ行こうか」


 四人は備品倉庫の外に出た。

「それで誰とやる?」

「あっ、じゃーあたしが。錐人君がどれだけ強くなったか確認したいし」

 僕の問いに楓が答える。

「僕は楓と戦った記憶は無いんだが」

「そうだっけ?まぁいいじゃん」

 楓は短刀を片手脇に構える。対して僕も忍者刀を片手正眼に構える。

「では、はじめ!」

 錬次の合図と共に僕は駆け出す。袈裟懸けの斬撃を繰り出すも楓はあっさりと避ける。

 その後も僕は攻撃を繰り出すも楓は避け続け、避けきれない斬撃は短刀でいなす。

 風見屍這も使えない。あれは相手の隙をつく技なのでこう受けに専念されると厳しい。

 剣戟に織り交ぜて竜巻を見舞うも、楓は同じ様に竜巻を生み出し相殺させる。

 次第に息が切れて脚がもつれる。その隙を見逃す彼女では無い。僕の首元に短刀の切先が向けられた。

「そこまで!」

 錬次の声が響く。

「まだまだだね、錐人君」

「ずるいよ楓、攻撃せずに僕が疲れるのを待つなんて」

「これも戦術だよ」

 それもそうだ。また一つ改善すべき点が見つかったと考えよう。

「成る程ね。君に適した武器がだいたい分かったよ」

 黙って見ていた深山が口を開いた。

「本当?」

「ああ、見繕ってやる。そうだな、来週末また此処に来てくれ」

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