今日の事件もどうにか片付いて、現場からの帰り道に、手持ち無沙汰でハンドルを握る陣内は、資料室で聞いた児童惨殺事件の話を再び持ち出して聞いてきた。

「その先生はどうして捕まったんですか? 聞いたところでは、そんなへんぴな山奥じゃあ、警察だってすぐには呼べないでしょう? 」

「ああ、確かに。この事件だけなら分からなかっただろうな……ただ、前があったんだよ」

「前科がですか?」

「いや、前の学校でも不審死の生徒がいたんだ。その先生が担任でな」

 石川はタバコに火を付けてから、その時の話を始めた。夕方の渋滞の時間つぶしには丁度良いかもしれなかった。

「その事件の半年ぐらい前に、その先生のクラスの子供が事故死したんだ。それも、丁度その先生の当直の日にだ!」

「怪しいですね」

「そう、夜のプールで溺れてな! 先生は飛び込んで必死に助けたそうだ」

「え! それじゃあやっぱり事故ですか?」

 陣内は驚いたように隣の石川を見た。


「よく考えろ、当直の先生がそう都合よくプールを見まわるか? おびき寄せられて沈められたって事だってあるんだぞ!」

「そうか、助けるも沈めるも同じようにプールに入って、持ち上げるか沈めるかですものね!」

 そう言って、陣内は頷いた。


「そこで当時、俺とペアを組んでいたベテランの野口さんと二人で事情聴取をやったんだ」

 石川の話に視線だけは前を見ながらも、陣内は俄然興味を示した。

「それで、どうなったんですか?」

 食いつくように話の先を急がせる陣内に、石川はゆっくりタバコを吸ってから話を続けた。

「俺は、全く分からなかった……。その先生が嘘をついているとは、全くな!」


「これっぽちも?」

「そうだ! これっぽちもだ!」

 ふて腐れ気味に石川は窓を少し開けて、タバコの煙を外に逃した。


「ただ、先輩の野口さんがこう言ったんだ」


「あいつの目は、人を殺した人間の眼だ! それも楽しんでいる殺人鬼のな!」


「それから、俺達はその先生の行動をチェックしたんだ。そして、半年後。生徒の引率で出かけることを突きとめた……」


 ひと呼吸入れた石川をじれったそうに陣内は、せっついて聞いた。

「待ち伏せして張り込んだんですか?」


「おい、あくまで疑わしいだけだからな。そう簡単に張り込みの許可は下りない。俺たちはどうにか午後に時間を作って山奥の研修所へ向かったが、あいにく事故渋滞で現場近くにたどり着いたのは夜になっちまったんだ」

「それじゃあ……」

「ああ、六人はすでに殺され、最後の一人にその先生が手をかけているところだったんだよ」


 ☆ ☆ ☆


 七年前、野口と石川の二人の刑事が現場に着いた時、美里先生は由美の首を締めているところだった。

「警察だ! 動くな!」

 石川の警告など見向きもせず、ただひたすら由美の首を締めている。ベテランの野口が車のドアを開け美里を引きずり出したが、引きずり出された美里は、狂ったように暴れ二人がかりでようやく取り押さえることが出来た。


「大丈夫か?」

 野口が優しく由美を介抱する。

「おじさんたちは警察官だ! もう大丈夫だからな。安心しろ!」

 野口の笑顔を見て、由美は堰を切ったように泣きじゃくった。

「先輩! 泣かしちゃいましたね……」


 気まずそうに頬を掻きながら野口は空を見上げた。

 雲ひとつ無い、星が降り注ぎそうな綺麗な夜空だった。

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