「そして最後の子ヤギは、柱時計の中」


「おや? いない?」

 どうしてここに居ないのか不思議だとばかり首をひねっている黒フードであったのでしょう。わたしは別の場所で息を殺し聞き耳を立てながら隠れていたんです。

「どこ? 何処に隠れた?」

 そう言いながら辺りを探す黒フードの足音と、どこかの扉を開ける音、それにブツブツとつぶやく独り言だけが部屋に響きました。

 どれだけの時間がたったのでしょう? わたしはいつしか息を殺して隠れながら、眠り込んでしまいました。


 やがて懐かしい声で目を覚ましたのです。


 ☆ ☆ ☆


「……だれか? ……」

「……これは、なんてひどい……」

「ゴロくん? ケンイチくん? みんな…… そんな……」

 泣き叫びたい気持ちを抑えて美里先生は子供たちを呼び続けました。


「先生? 本当に先生なの……」

 わたしはまだ信じられず、恐る恐る顔をのぞかせました。

 そこには確かにいつもの美里先生が居たんです。


「先生!」

 わたしは本棚の本の中から飛び出して、思いっきり先生に飛びつきました。


「ユミちゃん! あなたは無事なのね? 怪我はない、何処か痛いところは?」

 心配する美里先生にわたしはただ泣きじゃくる事しか出来ませんでした。

「とにかく、ここから逃げましょう!」

 先生は、わたしの手を強く握って外へと向かいました。

「ダメ! 周りを見ちゃあいけない」

 そう言われて、わたしはなるべく見ないようにして外へ出ました。そして先生の乗ってきた車の助手席にすぐに座ったんです。

 運転席に座った先生は警察に連絡をしようとしたのですが、

「ダメね! ここじゃあ、スマホも通じない……。麓まで行くしかないわね」

 そう言って、車をバックさせようと車を動かしたその時、ちょうど月明かりで二人の姿がはっきりと映しだされたんです。

 わたしは本棚に隠れていたせいで埃だらけ。美里先生は、みんなを介抱しようとして、手や膝が血で汚れていました。

「ごめんなさい、みんなを抱きかかえたから、こんなになっちゃった……」

 寂しそうに美里先生は血で汚れた手や服を示しました。

 その時、初めて、わたしは正面から先生を見て気がついた事がありました。

「先生、何でに血が付いているの? それじゃあまるで……」

その後の言葉をわたしは飲み込みました。

 ほんの少しの沈黙の後、美里先生が言ったんです。


「そう! ユミちゃんは頭が良いのね。大正解よ!」


 シートベルトを付けていて、すぐには動けない、わたしの首を馬乗りになりながら締め、美里先生は嬉しそうに声色を変えました。


「これはね、他の子を殺した時に付いただよ!」

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