Ⅰ
「うーん」
目的地近くのバス停で降りた山科由美と親友の
「さすが、避暑地だね! こりゃあ油断したら風邪引きそうだよ」そう言って、由美は楽しそうに湖畔を見渡した。一方のめぐみはラケットの入った大きいバッグとキャリーケースを交互に見て不安げに由美に聞く。
「ねえ由美、貸別荘ってここからどのくらい? ここからは荷物持って歩くんだよ」
パンフレットを見てから由美は指さす。
「あっち、歩いて5分だってよ!」
「うーん、あっちは登りだよ……」
「ホントだね……」
二人の笑顔が引きつっていった。
二人がどうにか重たい荷物を引きずって目的の別荘に到着した頃には、すでに他のメンバーは到着して荷解きも終わっていた。
「ようこそ、我がテニスサークルの夏合宿に!」
代表してコーチである
大学のテニスサークルの夏合宿に由美とめぐみの二人は、今回初めて参加することにしたのだ。
メンバーはいつもの顔ぶれ、コーチの大宮、部長の北山とその彼女の二条、一学年上の出川にあと、今回はOBの
由美は自然と目で一也を探していた。それに気付いためぐみは、由美の肩を軽く押して
小さく囁く。
「ほら、あそこだよ」
一也はもうすでに目の前のテニスコートで出川と二人でネットを張っていた。
由美の今回の参加動機は……、まあそんな所にあったのだった。
☆ ☆ ☆
「どうだった? 合宿って言ってもこんな感じだから」
大きい露天風呂で女三人が並んで湯船につかりながら、
「後輩の女子が二人も入ってくれて、ホント良かった! これからも楽しくやりましょうね」
「本当、楽しいが一番ですよね! これからもよろしくお願いします。穂香さん!」
その言葉によしよしと穂香は思わず由美の頭を撫でた。
「さて、これから夕飯の支度だからね。二人には頑張ってもらうからね!」
最初に湯船から上がった穂香は振り向いて二人に言った。
「めぐみの女子力に期待してください!」
「ちょっと、勝手に話し進めないで……」
慌てて二人も後に続く、楽しい合宿になりそうだ。
賑やかな夕飯も終わり、みんなそれぞれ好きな飲み物を飲みながらリビングで話し込む。
「さて、そろそろ合宿恒例の怖い話でも始めるかな!」
部長の
「健、今年もなの……、わたし苦手なんだから」
隣の穂香はジト目で北山に文句を言う。そんな批判も軽く受け流して、北山は強引に話を続けた。
「まあ、無理強いはしないから。楽しくやろう」
「それ本当に楽しいんですか?」
☆ ☆ ☆
話も残す所、あと女性陣だけになった頃。
「後はよろしく!」と北山に言って、コーチの大宮とOBの一也はお酒のボトルを抱えて部屋に移っていった。
「さて、後は女性陣の話だが……、どうする? これでお開きでも良いんだけど?」
北山は新人の二人を交互に見た。
由美は少しお酒が入っていたからかも知れないが、この仲間なら話しても良いかもと、ふと思ってしまった。
そして、友達の話として昔の事をためらいながらも話し出したのだった。
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