オオカミと7匹の子ヤギ
prologue
(現在)
警視庁内の資料室で膨大な資料から捜査一課の石川は数冊の重たそうなファイルを選びテーブルに積み上げた。
「七年も前だと探すのに時間がかかっちっまうな……、サッサと済ますか……」
独り言を言いながらも、石川は手早く目当ての資料を探していった。
「石川さん、こんな所に居たんですか? 班長がお呼びですよ」
静まり返った資料室に慌ただしく入って来たのは後輩の陣内であった。
「すまんな! もうチョット掛かりそうなんで、お前が付いて先に行っててくれ」
「了解です! でも、石川さんがそんなに真剣になる昔のヤマって何なんですか?」
気になって陣内は資料を覗き込んだ。
「いや、
「七年前ですか、俺はまだ高校生ですね!」
「俺も当時はお前ぐらいの駆け出しでな、容疑者の取り調べにも立ち会ったが、今でも鮮明に覚えているよ。あの犯人の言葉を聞いて……」
石川は自分の両手の感覚を確かめる様に強く握ってからぽつりと言った。
「震えが止まらなかったんだよ」
(七年前)
取調室に入ってから犯人は石川の質問に全く反応せず、うつむいたままで時間だけがむなしく過ぎていった。
「ここではだんまりは通用しませんよ。正直に話して下さい」
石川は少し強い口調で言った。少しの沈黙の後、信じられない事が起こる。
「ふっ、ふっ、ふ、はぁ、はぁ」
「あはは、あはははーっ!」
犯人が突然肩を震わせて大声で笑い出したのだ。
「どうしたんだ?」
驚いた石川の顔を覗き見るように、今までの大人しい人物ではなく、もう一人の人物がきつい口調でこう言い放った。
「殺した子供たちはみんな良く覚えているよ。最後の断末魔の感触まで……」
そう言って歌うように口ずさむ。
「一匹目はテーブルの下」
「二匹目は暖炉の中」
「三匹目は寝床の中」
「四匹目は台所」
「五匹目は戸棚」
「六匹目は洗い桶の下」
「……」
少し考えてから、再び口ずさむ。
「七匹目はプールの底? でも、ホントはこの子が一番目なんだけどね……」
「でも刑事さんが聞きたいのは違うよね、山科由美? 誰だっけ、それは?」
しばらく考えるポーズをしてから、今思い付いたとばかり手を叩いて笑顔になった。
「思い出した! わたしが殺し損ねた損ねた子だね! あの子は賢かったよ」
そう言いながら犯人は恍惚と両手を掲げ首を絞めるポーズで笑った。
「車のシートベルトで動けない所を、馬乗りになって首を絞めたんだ。もう少しで他の子のところに行けたのにね……。かわいそうに、一人残されちゃって……」
「それが唯一のわたしの心残りだね!」
そう言って、青ざめる石川を愉快そうに見つめたのだった。
☆ ☆ ☆
「あの時、俺のそんな表情を楽しむかのように、あいつは笑ったんだよ……」
思い出すように、震える両手を見つめてから、石川は後輩の陣内に向かって言った。
「殺人鬼なんてもんじゃない。あれは……、死神だった!」
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