「これは友達から聞いた話しなんだけど……七年くらい前、小学校の六年生七人と顧問の先生で山奥の研修所に天体観測に行った時の話しなんだって……」

 四人は思い思いの飲み物を口にしながら、わたしの話しに耳を傾けた。


 小学校の天体観測クラブは、わたしも含めて全員で十二名の六年生が入っている部で、顧問は担任の松崎美里まつざきみさ先生が務めていて、今回その中の七人が泊まり込みの天体観測に参加することになったんです。

 

 山科由美(やましなゆみ)ユミ

 柳はるか(やなぎはるか)ハルカ

 東野ひとみ(ひがしのひとみ)ヒトミ

 小野健一(おのけんいち)ケンちゃん

 石田北斗(いしだほくと)ホクト

 田中二郎(たなかじろう)ジロー

 竹田吾郎(たけだごろう)ゴロちゃん

 松崎美里(顧問の教師)


 わたし達七人は美里先生の運転するワゴン車に乗り込み、遠足気分で賑やかに山奥にある研修所へと向かいました。

 研修所は山をかなり登った場所にあり、自然に囲まれた静かな場所でした。

 クルマから荷物を降ろしたわたし達は、早速周辺を散策したり、思い思いに大自然を満喫して、夕飯はみんなでカレーを作って食べて、目的の天体観測を危うく忘れてしまうくらい楽しい旅行になったんです。

 空気は綺麗で空は澄み渡っていて、これなら夜の天体観測はきっと素晴らしいものになるとみんな期待していたんですけど……。


 予定が狂ったのはここからなんです。夕飯の片づけが終わって、さて、これからお目当ての天体ショーと思った時に、美里先生が忘れ物に気が付いて、慌ててふもとのコンビニで買ってくると言って車で出て行ってしまったんです。

「ゴメンね! すぐ買って戻って来るから、みんなは戸締りをきちんとして、大人しく待っていてね」

 あたふたと、先生は車のキーと研修所の鍵を持って入口にむかいました。

「戸締りをしっかりして、わたし以外の人は入れちゃあダメだからね!」

 可愛くウインクしながら念を押して美里先生は出ていってしまったんです。


「どうする?」

 不安げに先生を見送ったゴロちゃんは男子のリーダー格のケンちゃんに聞くと、「まあ、先生が帰って来るまで天体観測は出来ないから。戸締りしたら、何かして遊ぼうぜ!」

 ケンちゃんがそう提案しました。

「それなら、カードゲームやろうぜ! どうせみんな持って来たんだろう?」

 お調子者のホクトはすぐにカードを取り出して、早速床に広げようとしたので、「ダメよ! ケンちゃんも言ったでしょう。まずは、戸締りが先なんだから!」

 わたしは当時一番小柄だったのですが、女子のリーダー的な存在で、女子を代表して大きな声で主張したんです。

「ホクト! 戸締り早くやってから遊ぼうぜ」

 ケンちゃんが間に入って話をまとめてくれ、

男子四人はカードゲームやりたさに、そそくさと戸締りを始め、「わたし達も手伝おう」 女子三人も加わりすぐに戸締りは終わりました。


 ☆ ☆ ☆


 それから、男子四人は持って来たカードを広げ夢中になって遊び始めました。

 わたし達は大広間に置いてあるものを色々見て歩いたのですが、トランプ、オセロ、将棋、どれもやりたいと言う気が起きないで迷っていた時、ヒトミがリビングボードのスライドドアの開閉ボタンを見つけたんです。

 そのスライド式のリビングボードを開けると、そこには沢山の童話や絵本が綺麗に並んでいました。

「わあ、こんなにたくさん。綺麗に並んでいるね!」

 いつも大人しく読書好きのヒトミは目を輝かせました。

 それからしばらく女子三人は本探しに夢中になっていましたが、飽きてきたハルカがこう提案してきたんです。

「ねえ、みんなで童話を読みあいっこしない? 自由に話は変えても良いの、どう?」

 得意げに言うハルカの提案にちょっと面白そうだったので、わたしも賛成して読みたい本を探し始めました。

 わたし達三人は、今度はそれぞれ読みたい本を夢中になって探しました。

「今日は友達七人での旅行だから、白雪姫? そうだ、わたしはこれに決めた!」

 わたしは同じ七人だけど「狼と七匹の子ヤギ」を選んで、ヒトミもハルカもそれぞれ気に入った本を選んだようでした。

 ヒトミは「シンデレラ」お姫様と王子様の出てくるいかにもヒトミの好きそうな本で、ハルカはと言うと「桃太郎」これまた、元気いっぱいのハルカらしい選択でした。

 わたしはまずはお手本を示すとばかり、率先して一番手に名乗り出ました。


「えっへん。まずは、わたくしユミがお話しさせていただきます」

 おどけた様に挨拶をしてから、男子たちにも聞こえる様に大きな声で、わたしは本を読みだしたんです。

 

「ある雌ヤギに、子ヤギが七匹いました。お母さんヤギは、子ヤギたちをとてもかわいがり、狼に食べられないように、気を付けて育てていました」

 みんなが聞いているのを感じたわたしは、そこから少しづつ話を変えていきます。

「ある日先生ヤギは忘れ物を買うためにコンビニに行かなければならなくなり、子ヤギたちを呼び集めて、言いました。『かわいい子どもたち。わたしは忘れ物を買ってこなければならないんだよ。おまえたち、狼には用心して、けっして家にはいれるんじゃないよ。それから、油断しちゃだめだよ。あいつが、いったん家に入ったら、おまえたちは次々に食べられちまうんだからね』……」


「ふっ、何だそれは!」

「変なの!」

 みんなが反応した。その反応が嬉しくて、さらに話を変えようと話し出した、その時です。


「ドン! ドン!」

 と、玄関のドアを乱暴に叩く音がしたんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る