大文字伝子が行く149

クライングフリーマン

 ===== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士。伝子に時々「クソババア」言われる。学を「婿殿」と呼ぶ。

 藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。

 大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・EITOシステム部長。

 本郷隼人二尉・・・海自からEITOに出向。事故で療養中だったが、EITO秘密基地勤務で復帰。

 須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

 森淳子・・・元依田のアパートの大家さん。

 山下いさみ・・・オクトパスの「枝」だった。拘置所に入っている。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁からEITO出向。

 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁からEITO出向。

 新町あかり巡査・・・丸髷署生活安全課からEITO出向。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。色んな部署に配置されていたが、今はEITO準隊員扱いである。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。馬場と結婚した。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。

 柴田管理官・・・立てこもり等の交渉役を主に担う管理官。久保田管理官と責任を分担している。

 久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。久保田警部補の叔父。

 久保田誠警部補・・・久保田管理官の甥。あつこと結婚した。

 須藤医官・・・陸自からのEITO出向の医官。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午後1時。EITO本部。会議室。

 「まずは、火事の方だ。一ノ瀬。報告を。」と、理事官は、なぎさを指名した。

 「葡萄館の方も、テレビ2の方も早く鎮火しました。MAITOが早く来てくれたこともありますが、夜中だったので、避難誘導に手間を取れませんでした。増田班の報告を受けて、火事は陽動だったのかと思いました。おねえさまの方が本命だったと思います。」と、なぎさは語った。

 「うむ。大文字君の方は?」「自宅を出た時は、気配はありませんでした。高速に乗ってすぐ、追いかけて来ました。葡萄館もテレビ2も近くに高速がありますから、待ち受けていたのでしょう。詰まり、複数の場所に待機していたものと思われます。銃を撃ってきましたが、走行中だし、ハンドル部に防弾シェードを取り付けているので、助かりました。それと、本郷君のマセラティが追いついて来たので助かりました。」

 「皆も知っての通り、本郷2尉は、大蔵君に代わってエンジニア兼工場長として秘密基地に昨日から詰めている。運が味方したな。で、賊の方は?渡辺。」

 「暴走族でした。普段は湘南とかに出没している奴らです。捕まえた3人以外も共犯ですが、追っていません。狙われた、おねえさまが何者かという問題に発展してしまいますから。本郷君の証言で、トラックの積み荷の『突っ張り棒』が落下した事故に巻き込まれた、という処理にしました。本郷君は改造したマセラティから『EITOハープーン』をバイクに打ち込みましたが、今回のような緊急避難的な武器として開発したようです。ハープーンというのは、銛(もり)という意味だそうです。で、誤魔化し用の『突っ張り棒』も用意していて、白バイ隊やパトカーが来る前にすり替えたそうです。事実と違うと被疑者の1人が取り調べ中に抜かしやがった・・・失礼。言い出したので、『算数は出来るか?拳銃不法所持たす殺人未遂ひく殺人未遂は?』と言ったら、拳銃は拾ったもので、殺人未遂は犯してません、と『素直に』自白しました。」

 「素直に、は引っかかるが、久保田管理官に提案して司法取引をしたことは聞いている。」と、理事官は相槌を打った。

 「ええ?暴走族の仲間は?追いかけないんですか?」と、小坂が発言したので、隣にいた、あかりが足を踏みつけて言った。「泳がすということですよね、警視。白バイ隊は追いかけなかっただけですよね。」

 「分かってるじゃないか、新町。賢いぞ。その通りだ。おねえさまを襲った本命のチームだから、『枝』の元に戻る。追跡装置は着けることは出来なかったが、いずれボロを出す。」と、あつこは満足そうに言った。

 「警視が言った通り、オクトパスは、すぐに失敗の報告を受けた筈だ。挽回作戦を枝がするかどうかは分からないが、大文字君が襲われた事実は隠す必要がある。小坂は知らなかったかも知れんが、大文字君は『死んだ』ことになっている。葬式もあげたし、墓もある。」夏目の言葉に小坂や下條は、かなり驚いた。

 「大文字君を守る為、仕方が無かった。マスコミに知られる訳にはいかないからね。尤も、敵のダークレインボーには、ある程度のことは既に知られている。大文字君の事も高遠君のことも。本当なら、『幹』が挑戦してくる時に世間にばらされてもおかしくはない。が、デメリットの方が大きい、と計算しているのだろう。」

 夏目が、話を締めくくったところで、理事官は「藤井さんは、どうなのかね、大文字君。」と言った。

 「一週間は入院する、とのことです。それで、森さんを臨時監視隊員に推薦しました。」と、伝子は応えた。

 「新しい者も多いから、説明を補足すると、藤井康子さんは、EITO監視隊員、準隊員待遇だ。藤井さんのところには、大文字家監視システムが引かれている。それは、さっき言った敵に所在地を知られている可能性があるから、些細なアクシデントでもEITOに通報し、防犯システムを稼働する事になっているからだ。藤井さんは、言ってみれば警備員室の警備員的な役割をお願いしている。森さんは、その代行だ。」

 理事官の説明に、高木が「じゃあ、アンバサダー、隊長達は敵の囮にもなっているということですか?」と言った。

 「その通りだ。大文字家には、DDメンバーだけでなく、EITOのメンバーも時折訪ねる。藤井さんのところから、パーティーの準備をしたり、食事を運んだりしているが、敵にとって『ただの隣人』と思わせる誘導でもある。」

 「そうだったんですか。」と今度は馬場が声を上げた。

 「結果的に、藤井さんが襲われたのは、別件だったから体制を変えなくて済むが藤井さんの所が無人でも困る。EITOの交代待機も無理がある。」という伝子に、「それで、DDメンバーの依田君が以前住んでいた大家さんの森さん、登場だ。不自然ではない人選だな。そう言えば、襲った犯人はコンビニ近くの住人だそうだな。」と筒井が言った。

 「藤井さんは、コンビニのゴミ捨て場に落ちていた『星の砂』を見付けたんだ。そこへ、犯人が戻って来た。その男は妻と夫婦喧嘩をして、腹いせに星の砂を捨てた。反省して、拾いに来たら藤井さんがいた。取られると思い込んでつい殴ってしまい、気が動転したまま、星の砂を奪って逃げ帰った。そのカップルの星の砂も、藤井さん同様、沖縄に新婚旅行に行った際の記念の品だった。藤井さんは示談で済ましたい、と言っている。」

 「よし。今日はこれで解散だ。トレーニングする者以外は帰れ。但し、大文字君は医務室。」

 理事官の言葉に、筒井は「地獄が待ってるぞ、大文字。」と伝子をからかった。

 「うるせえ。」と伝子は呟いた。

 午後3時。伝子のマンション。

 伝子が帰宅すると、森が、もんじゃ焼きを作っていた。

 「藤井さんみたいに、本格的な料理は出来ないけど、家庭的料理は出来るわよ。お帰り。」

「いい匂いね。」と、奥の部屋から綾子が出てきた。

「いたのかよ。脅かすなよ。」「須藤先生に叱られた?」と、高遠が言うと、「うーん、殴られたあ。学、痣になってなあい?」と伝子は甘えた。

 「大丈夫みたいだよ。グーパンチ?」「平手打ち。男子だったらグーパンチらしい。」

 「平手打ち?伝子さん、何か悪いことしたの?」と、もんじゃ焼きを焼きながら、森が尋ねたので、高遠は簡単に経緯を話した。

 「妊婦だから、自重しろってことね。でも、隊長さんだしねえ。」綾子は早速食べ出した。

 高遠がテレビを点けると、夕べの火事のニュースを報じていた。

 「臨時ニュースです。今朝午前10時頃、廃工場で火災があり、7人の焼死体が見つかった模様です。」「泳がしたのは、甘かったみたいだな。」と高遠が呟いた。

 午後6時。

 なぎさが、寿司を持ってやって来た。少し早いが4人で寿司を頬張った。

 「おねえさま。あつこがね。」「落ち込んでいるのか。」「うん。おねえさまからも慰めてやって。」「分かった。」

 「戯けた話し方するけど、非情なのね、婿殿。オクトパスって。」「そうですね。まあ、仕方ないかな。闇バイトで釣った暴走族だし、直属の部下じゃないし、ってとこかな。直属なら、挽回のチャンスを与えれば、忠誠心を利用出来るけどねえ。」と、高遠は応えた。

 「何か矢継ぎ早に事件が起こりそうな気がするが・・・。」伝子が言い終わらないうちに、EITOのアラームが鳴り、EITO用のPCが起動した。

 「大文字君。銀座で強盗、立てこもりだ。犯人の要求は、EITO隊長だ。」と夏目が緊張した面持ちで言った。

 伝子は寿司を頬張りながら、準備に入った。高遠も台所の準備をした。なぎさは、 どこやらに連絡を始めた。やがて、オスプレイの音がしてきた。

 伝子となぎさは、台所外のベランダから、いつものように出撃した。

 まるで、SF映画のような光景に、森は綾子と感心して見ていた。

 「伝子、また怒鳴られるわね、鬼女医に。」と綾子が言うと、森と高遠は頷いた。

 午後7時。銀座。宝石しまむら銀座本店。

 少し離れたビル前に設置された、前線本部に柴田管理官がいた。

 エマージェンシーガールズ姿のなぎさと伝子が柴田に尋ねた。

 「状況は?」「さっき、伊地知隊員が言ったら、お前じゃない、と言われて帰って来た。替え玉がバレた。でも、ダメ元ということで、日向隊員が今向かった。」

 ガラスのショウウインドウ越しに、中の様子が窺える。

 間もなく、日向が帰って来た。首を竦めて手を広げた。まるでアメリカ人がお手上げの時にするポーズのようだ。

 伝子は、日向の肩に手を置き、ポンポンと軽く叩いた。

 「後は頼む。」と、なぎさに言い残して伝子は店に向かった。

 午後7時10分。宝石店の中。

 「遅いぞ。」「すまん。ウンコの切れが悪くてな。」「本物だな。」とリーダー格の男が、ある機械を見ながら言った。

 「何だ、それ。」「声紋分析器だ。どうだ。組織の技術も大したもんだろう?」

 「この間、SUNYの研究所から盗まれたブツか。私の声紋は登録済みということか。恐れ入ったよ。で、本当の要求は?」「流石隊長さんだ。話が早い。総理とお友達なんだろ?」「お友達でなくて、知り合いだな。で?」「ある人物を釈放させろ。総理の指示で。」

 午後7時半。前線本部。

 伝子は、宝石店から出てきた。柴田に、事の経緯を伝えると、「前代未聞だな。私たちの対応範囲外だが・・・。」と柴田は渋った。

 だが、伝子は総理に連絡をした。15分後。柴田に副総監から連絡が入った。

 「大文字君には、何か勝算があるのだろう。犯人には、『逃走車は用意した』と応えろ。山下は、久保田管理官が連れて行く。」

柴田は、メガホンで「お前達の要求は呑んだ。逃走車が到着するまで時間をくれ。」と言った。

 午後9時。前線本部。

 前回の『枝』、山下を乗せた自動車が到着した。

 マスコミには、人質交換の話は知らせていないので、ざわつきだした。山下は警察官達に囲まれた状態で、前線本部の陰に連れて来られた。

 エマージェンシーガールズ姿の伝子は、山下に声をかけた。「こんな形で再会するとはな。」「ああ。運動したいとは思っていたが、想定外の展開だな。大抵は刑務所に服役中の大物を開放要求するもんだが。」「大物かも知れないな。悪いが、これは万一の保険だ。」

 伝子は、さっと山下の肩を脱臼させ、指手錠をした。いつもは、ヘアゴム等でくくるだけだが、今回は、ダイヤル錠だ。山下本人は元より、強盗立てこもり犯人にも外せない。

 伝子と山下は、警察官が囲んだ状態で、店の前まで進んだ。

 「人質を開放しろ。全員開放した後で無いと、こいつは渡せない。全て私が判断する。」

 店の中の連中は、暫く話し合っていたが、1人ずつ開放し始めた。

 宝石店の店長が全員の無事を完了した、と、なぎさがイヤリングで話しかけて来た。

 エマージェンシーガールズのイヤリングは受信専用の通信装置だ。なぎさは、臨時通信用のガラケーでオスプレイに連絡し、オスプレイで中継して伝子のイヤリングで音声を受信したのだ。

 伝子は、深呼吸すると、山下と共に店に入って行った。

 「こいつをどうする積もりだ。」「廃工場の死体と同じさ。」と、リーダーは言った。

 「こいつ、俺がサツにペラペラとしゃべるかも知れないのが気に入らないようだな、隊長さん。」「そのようだ。」

 伝子はDDバッジを押し、長波ホイッスルを吹いた。

 店の裏側から侵入していた、増田達が強盗団を取り押さえた。

 ほどなく、警官隊がなだれ込んで来た。

 「付近の不審車両を3台発見、逮捕連行しました。」という、あつこの声がイヤリングから聞こえた

 山下が、強盗連中が連行されていく列に突っ込み、外に出た。

 途端に、あかりの投げたシューターが山下の靴の爪先に刺さった。

 シューターとは、うろこ形の手裏剣で、エマージェンシーガールズは主に靴のつま先を目がけて投げ撃つ。シューターの先には、痺れ薬が塗ってあり、文字通り的を足止めする。

 そして、金森の投げた、2つのブーメランが山下の頬と股間を直撃した。山下は、その場に倒れた。

 「残念だったな。」と久保田警部補は、山下を立たせた。

 午後10時。EITO秘密基地。

 伝子となぎさがオスプレイで到着すると、高遠と本郷隼人と大蔵が待っていた。

 午後11時。

 「じゃ、出来る事から着手します。しかし、アンバサダーの慧眼には驚かされるばかりです。」

 隼人が言った『慧眼(けいがん)』とは、物事の本質を鋭く見抜く洞察力のことであり、『えげん』と言われる仏教用語が元になった言葉である。伝子は急いで打ち合わせをした。

 午前0時。伝子のマンション。

 帰って来た伝子達を迎えたのは、森だった。「おにぎり、台所にあるからね、お疲れさま。」と、隣から顔を出して、森はにっこり笑った。

 「おねえさま。頼もしい、新隣人ですね。」と、なぎさは伝子に言った。

 「ああ。今日は泊まってくか?」「はい。もう一ノ瀬には連絡してあります。」  「こいつ、計算高いな。」「きゃあ、おねえさまに褒められた。」

 高遠は、首を振りながら、風呂の準備をした。

 ―完―

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