第四話 運動しようか
病室の扉が音を立てて横にスライドして開く。
扉の先には、今日も少女が立っていた。
「やあ、あにくん。今日も来たよ」
「元気かい?」
――。
「それは良かった」
返事をしながら、少女が病室の扉を閉める。
「飲み物を買ってきたよ」
少女が鞄からスポーツ飲料を取り出し、机の上に置く。
青年がスポーツ飲料を思わず見やる。
「スポーツドリンクが気になるのかい? もう、のどが渇いたのかな?」
「あにくんがご所望なら、今日も飲ませてあげようか……?」
少女が自分の唇に指を当てる。
――!
少女は愉快そうに笑いながら。
「あははは。冗談さ!」
「あにくんで遊ぶのは楽しいなあ」
「あにくんの体も、順調に良くなっているみたいだからね」
「今日はリハビリをしようかと思って、スポーツドリンクにしたのさ」
――?
「素人がやっても問題ないのかって?」
「あにくんも、昨日から看護師さんと一緒にリハビリを始めたそうじゃないか」
「安心して。お医者様にも許可は貰っているよ」
「私が横で支えながらであれば、歩く練習ぐらいはオーケーとの事だよ」
――。
「うんうん。そうだね、思い通りに体を動かしたいよね」
少女が、青年に聞こえない様に言葉を零す。
「……私としては、今のままでも全然構わないんだけどね」
――?
「いやいや。なんでもないよ」
「私も、あにくんには早く元気になって欲しいからね」
「大丈夫。私がリードするから、あにくんは全身を私に委ねてくれていいよ」
「全部。私に任せてね」
「それじゃあ、まず上半身を起こそうか」
少女がベッドの上に膝を乗せ、寝ている青年の背中に腕を回す。
先ほどよりも、少女の顔と口が青年の近くに来る。
「あにくんの背中は私が支えるからね」
「……うん、大丈夫」
「今度は、足をベッドの外に向けるように回転しようか」
少女の声が耳元で聞こえる。
「ん……。落ち着いて。ゆっくりね」
「ゆっくり……。ゆっくり……」
「よし。それじゃあスリッパを履こうか」
少女が屈み、青年の足を撫でる。
「え? 自分で履けるって?」
「大丈夫さ。ここは私に任せてほしいな」
「……うん。オーケー。それじゃあ立ち上がってみようか」
「スリッパを履くだけなのに、なんだか凄く足を触られた気がするって?」
「いや、他意はないさ」
「あにくんの足も、立派な男の人の足だなあと思ってね」
「それじゃあ。隣に失礼するよ」
ベッドに座った状態の青年の横に、少女が同じように座る。
少女の左腕が青年の腰に延び、青年の顔の少し下に、少女の顔が来る。
「ん? どうしたんだい?」
「もちろん。支えるのだから、あにくんの横につかないとね」
「――え、近すぎるって?」
「ふふふ。あにくんはいつも恥ずかしがってるね」
「……ほんとに、可愛いなぁ」
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