第五話 運動……しちゃったね
「よし。それじゃあ立ち上がろうか」
「左手は杖を持って。右側は私が支えるよ」
――。
「大丈夫。私も鍛えているからね。安心して」
「それじゃあ。さん・に・いち でいこうか」
「いくよ。はい」
「さん」
「に」
「いち」
「……っと」
青年と少女がベッドから立ち上がる。
「オーケー。よく出来たねあにくん」
「脚は大丈夫かい?」
――。
「うんうん。問題なさそうだね」
「よし。じゃあ少し歩いてみようか」
――。
「いち・に」
「いち・に」
「いち・に」
「ん。だいぶ良くなってきているみたいだ」
「ふぅ……」
「うん。あにくんは頑張り屋さんだね」
成人男性を支えているのだ、少女も体力を使うのだろう、少女の声からは自身も運動しているような熱を感じる。
――。
「私かい?」
「大丈夫だよ」
「私の事は心配しないで」
「今は自分の事だけ考えていてほしいな」
■
「……うん。良く歩けたね」
「それじゃあ。ここまでにして、ベッドに戻ろうか」
「もしどこか痛かったり、キツいようならすぐに言うんだよ?」
「方向転換するよ。ゆっくりね」
「ゆっくり。ゆっくり……」
「よし。それじゃあこのままベッドまで行こうか」
「いち・に」
「いち・に」
「いち・に」
「いち・に」
「もう少しだよ。あにくん」
「そのままベッドに座ろうか」
ベッドに着いた所で、青年がベッドの脇にひっかかって倒れ込んでしまう。
「あにくん!」
とっさに青年を支えようとする少女も、一緒に巻き込まれてしまう。
「あにくん! 大丈夫かい!」
少女の声は青年の耳元から聞こえた。
――。
「良かった。痛い所はないかい?」
問いかけてくる声は、青年の真下から聞こえてくる。
倒れ込んだ拍子に、青年が少女に覆いかぶさるような形になってしまっていた。
――!
「無理しないで。私は大丈夫さ」
「あにくんが上に乗っていても、潰れてしまうような弱い妹じゃないよ」
「うん。あにくんが大丈夫なら良かったよ」
心底安心したという声で少女が言葉を発する。
「ごめんね。無理させちゃったね」
――。
「自分の方こそ、巻き込んでしまって申し訳ないって?」
「ううん。私が無理させたのは事実だから」
「しかし、この体勢は、あれだね」
――!
「ふふ……。あにくんの心臓の音が聞こえるよ」
青年の下からしっかりと掴む少女。
耳元で少女が熱っぽく囁く。
「でも、こうやってあにくんの体を掴んでみると」
「逃げられないよね」
「どうなるのかな? 下にいる私は何をされちゃうのかな?」
「ふふ……。でも、この状態もね」
「……よっと」
少女が体を上手く回転させる。
少女と青年の上下が逆転し、青年が下に、少女が上になった。
少女が上から青年の顔をのぞき込む。
「これで、あにくんが私の下になったよ」
「……さっきとは逆だね」
「この状態で、体の自由が効かないあにくんは逃げられるかな?」
少女の髪が、青年の頬を撫でる。
「……ああ、あにくん……。そんな顔をしないでおくれよ」
「……余計に興奮してしまうじゃないか」
「これから、あにくんは私に何をされてしまうのかな?」
少女の手のひらが、青年の手のひらに合わさる。
「それとも、こう聞いた方が良かったかな?」
少女が耳元に唇を近づける。
「あにくんは、これからどうされたいのかな……?」
「ほら、お願いしてごらん……?」
「どうして欲しいんだい? あにくん……」
息遣いの荒くなった少女の吐息が、青年の耳元に当たった。
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