第二話 ……お腹が空いたのかい?
静かな朝の時間は役割を終え、正午を回り昼の時間が訪れる。
窓の外からは、外来に訪れた子供の声だろうか、元気な声が聞こえてくる。
「あにくん。お腹が空いたかい?」
「そうだね。ご飯にしようか」
少女が横に置かれていた鞄を手に取り、中から弁当箱を取り出す。
「大丈夫。お医者様に了解は貰っているさ。『少しだけなら』と、言われてしまったけどね」
ふたを開ける少女。
「ほら見て。あにくんの大好きなハンバーグを持ってきたよ」
「じっくり煮込んで作った、私の自信作だよ」
「食べてくれるかな?」
――。
「おはし? あるけれど……」
「ダメだよあにくん。まだ体が思うように動かないだろう?」
「安心して。私がちゃんと食べさせてあげるからね」
「まずは、野菜からにしようか」
不意に、少女の手が顔に伸びる。
少女の顔が更に近くなり、艶のある声で耳に語りかけてくる。
「ほらあにくん。恥ずかしがらずにこっちを向いてよ」
「アボガドとトマトとパプリカのサラダだよ。ドレッシングはオニオンにしてみたよ」
「アボガドはハンバーグに入れようか迷ったんだけどね。あまり味が混ざりすぎるのも好みじゃないかなとおもってさ」
「はい。あーん」
――。
「どうしたんだい? 恥ずかしいのかい?」
――。
「あにくんが、どうしても恥ずかしいっていうのなら……」
少女の声が、先ほどまでよりも更に艶を帯びる。
頬を紅潮させながら、期待するような声を出す少女。
「私の指で、あにくんの口を開いてあげる必要があるみたいだね……?」
――!
「あにくんの上唇と下唇の間に、私の右手の人差し指を入れてまずは隙間を作ろうかな」
「出来た隙間に、今度は私の左手の人差し指を入れて、同じようにあにくんの唇にもう一つの隙間を作るね」
「あにくんが溜まらず口を空けたら、そこに私の人差し指と中指を入れて……」
首を振り、困ったようなジェスチャーをする青年。
「あれ。そうかい? 残念だなあ」
「はい。それじゃあ改めて」
「あーん」
青年にサラダを食べさせる少女。
「ゆっくり食べてね」
「あにくんが私のお弁当を食べている所をこんなに間近で見られて。うん。幸せだよ」
――。
「そうだね、次はパスタにしようか?」
「だーめ。メインディッシュはもう少し待ってね」
少女がスプーンの上に蝶々のような食べ物を乗せる。
「これかい? ファルファッレというリボン型のパスタだよ」
「可愛いよね」
「ちょうど一口で食べやすいかなと思ってね」
「クリームパスタにしてみたよ。体調も考えて、少し薄味だけどね」
「はい。あーん」
――。
「今度は素直に食べてくれたね」
「ふふ。可愛いよ。あにくん」
少女が何かに気づいたように声をあげる。
「おや?」
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