第2話 ④
「ひなた!!」
私は看護師さんに連れられ、ひなたが眠っている病室に駆け込む。
部屋に入ると、そこにはベットで寝ているひなたの姿があった。
「お姉ちゃん」
部屋に入った私に気がついたのか、ひなたは私の方を振り向く。
「ひなた、本当に良かった」
私はベッドの横にあった椅子に腰をかける。そして、ひなたの手を強く握り、安堵する。
「お姉ちゃん、痛いよ」
「あ、ごめん。つい」
ひなたに言われて、私は手の力を緩める。
「でも、本当に無事で良かった」
そして、あらためてひなたを見る。
本当に良かった。もしひなたがあのまま目を覚まさなかったらと思うと、私の胸には不安しかなかったのだ。
「ねぇ、神社で何があったの?」
「あまりよく覚えていないんだけど、黒い霧みたいなのが包み込んできたの。そしたら、だんだん眠たくなって、気がついたらお姉ちゃんが」
「そうなんだ」
良かった、ひなたはタタリ神を見ていない。
もし、ひなたがタタリ神を見ていたら、ひなたの心の傷になりかねない。
もう、ひなたが傷つくのはもう見たくない。
「胸が苦しいって言ってたけど、大丈夫なの」
「もう平気だよ。少し胸のあたりが痒いかな」
すると、私の言葉にひなたは自分の胸あたりを触る。
だが、ひなたの言葉に疑問符がつく。ひなたは、あれだけ苦しそうにしていたのに、少し痒いだけなのだろうか。
ひなたはあくびをする
「なんだか眠たくなってきちゃった。私に寝るね」
「うん、おやすみ」
ひなたが目をつむったので、私はひなたにかかっていた掛け布団をひなたの首もとへ置こうと手をかけた。
「!?」
私は何か違和感に気づく。
ひなたの首元あたりになんだか黒いものが一瞬見えたからだ。
私はひなたの首元に近づく。
すると、ひなたの首元に何か黒いものがあった。
私は気になり、ひなたを起こさないように、服を少しあげてひなたの首元あたりにある黒いものを確認する。
「えっ!? なにこれ?」
私の目にはひなたの胸に大きくて黒いアザのようなものが写っていたのだ。
その黒いアザのようなものはひなたの心臓あたりにあり、黒い渦のような形をしていた。
なにこれ、まさか、ひなたが苦しそうにしていた原因?
早く早く、看護師さんに伝えないと。
私はナースコールの押しボタンを見つけて、ボタンを押そうした次の瞬間。
「!?」
誰かが私の手をとってナースコールの押しボタンを押すのを止めたのだ。
その手の主は鹿栖さんだった。
「鹿栖さん!?」
「照子ちゃん、静かに、妹さんが起きちゃうよ」
鹿栖さんは人差し指を口に当てながら、静かにするように言う。
そして、鹿栖さんは私を病室から連れ出した。
病室の扉を開けると、そこには月白さんがいた。
「ちょっと、離してください」
私は鹿栖さんの手を振りほどく。
「なんで止めるんですか? ひなたに黒いアザがあって早く先生に見てもらわないと」
「無駄だよ」
「えっ!?」
鹿栖さんの言葉に私は耳を疑う。
「無駄ってどういうことですか?」
「そのままの意味だよ。あの黒いアザは現代医療じゃ治すことができない。お医者さんたちもあの黒いアザを見ることができないんだ。巫女の力を持つ者以外はね」
「鹿栖さん!! あれは一体なんですか?」
「あれは、タタリ神の呪いだよ」
「タタリ神の呪い? なんでそんなものが、ひなたの体についているんですか?」
「おそらく、ひなたちゃんがタタリ神に連れ去られたときにつけられたんだと思う」
「そんな!?」
私は言葉を失う。
私が驚いていると、鹿栖さんがさらに話し始める。
「ごめん、照子ちゃん。驚かすつもりはなかったけど、照子ちゃん、ちょっと、これを見て」
すると、鹿栖さんは自分の黒のタンクトップの首元を少し開けて、私に見せる。
鹿栖さんの黒く渦のようなアザがあった。
「ひなたのアザに似てる!?」
「そうだよ。これもひなたちゃんと同じものなんだ」
「ということはあのアザのことを何か知っているんですか?」
「イザミが私の巫女の姿になる力を奪ったって言ったね」
「はい」
私はうなずく。
「これはそのときにつけられたものなんだ」
「ということは? つまりイザミがひなたにタタリ神の呪いをかけたってことですか?」
「その通りだよ」
「そんな、鹿栖さんはタタリ神の呪いを知っているんですか?」
「この呪いは、呪いをかけたイザミと呪いにかけられた相手との魂をつなげる効果があるんだ」
「魂をつなげる?」
「魂をつなげられてしまった者はイザミにどこにいるのか、どんな状態なのかを手に取るように知ることができるんだ」
「手に取るように知ることができる?」
「今回、イザミからひなたちゃんを守ることはできたが、イザミにひなたちゃんの居場所がわかる以上、またタタリ神の襲撃は続くだろう」
「またタタリ神が来るんですか!?」
「そうだよ。それにすごく言いにくいことなんだけど、ひなたちゃんを病院に連れて行く際、ひなたちゃんを少しだけ見て分かったんだけど」
「なんですか?」
私は鹿栖さんに言葉に恐る恐る聞く。
「もしかしたら、ひなたちゃんはタタリ神の呪いの影響で、年を越す前に死んでしまうかもしれない」
「えっ!?」
私は鹿栖さんの言葉を聞いて、何を言っているのかが分からなかった。
ひなたが死ぬ。あの子が。
「う、嘘ですよね。だってひなたは元気そうでしたよ。少し眠たそうにしていましたけど」
鹿栖さんの言葉が信じられず、私は顔をひきつりながらも声を出す。
「眠たくなったのはおそらく呪いの影響だろう。イザミは自分自身の体となるひなたちゃん自身を動けなくさせるために。あの呪いはおそらく私とは違ってひなたちゃんの魂自体を眠り殺し、イザミが乗っ取りやすくさせる効果があると思うんだ」
「じゃあ、このまま、何もできなければ、ひなたは、あの子はどうなるんですか!?」
「残念だけど、ひなたちゃんは死んでしまう」
「いやだ!!」
私は部屋中に響き渡るほど声を出す。
自分でも内心びっくりしていた。
でも、なんで、なんで、ひなたなの? この子は何も悪くない。
村の困り事や人助けをしてきたのも、全部ひなたが安心して暮らせるためにやってきた。
ただ私はひなたが幸せに生きてほしかった。
なんでよりによって、ひなたなの。
「鹿栖さん、ひなたを、ひなたを助けてください」
私は鹿栖さんの両腕を掴みながら懇願する。
「ごめん、私ではどうすることもできないんだ」
「そんな」
「ただ、ひなたちゃんを助ける方法がないわけじゃない」
「それは一体なんですか!?」
「イザミ自体を倒すか、君の巫女の力でひなたちゃんにかかった呪いを解く。この2つの方法しかない」
「2つ!?」
「君の巫女の力の話をしたね」
「はい」
「君の巫女の力はイザミにとって非常に相性が悪い。君が巫女の力を使いこなせるようになれば、イザミがひなたちゃんをかけたタタリ神の呪いも解くことができる」
「ひなたを救えるのは、私次第ってことですか?」
「そうだ」
「分かりました。ひなたを助けられるのなら、どんなことでもします。鹿栖さん、私に巫女の力の使い方を教えてください」
「それは良かった」
鹿栖さんは私の返答に対して安堵したかのような表情を見せる。
「ちょっと、千鶴さん!? まさか、朝日さんをイザミとの戦いに巻き込む気なんですか?」
すると、月白さんが千鶴さんを呼び止めた。
「でも、ひなたちゃんを助けるには照子ちゃんの力が必要だよ」
「私は反対です。朝日さんは一般人なんですよ。朝日さんを命がけの戦いに巻き込むのは。私と千鶴さんでイザミを倒せばいいはずでしょ」
月白さんは必死の形相で言った。
「朝日さん、やる気はあるのは嬉しいんだけど、イザミとの戦いはすごく危険なの。それも祠で戦ったタタリ神以上に強い。もうこれ以上、あんな危険な目に一般人の朝日さんを巻き込むわけにはいかない」
しかし、その反面、月白さんは私の方を向くと、優しく私を気遣うように言う。
「ありがとう、月白さん、心配してくれて」
「でも、もう照子ちゃんは無関係とは言えないでしょ」
鹿栖さんはボソッとこぼしながら口を開く。
「千鶴さん、それはどういう意味ですか?」
月白さんは鹿栖さんに言葉に対して少し怒った反応をした。
「ひなたちゃんがタタリ神に呪われてしまった以上、イザミは今回だけじゃなく何度も襲ってくる。そのときに、ひなたちゃんにとって唯一の肉親でお姉ちゃんの照子ちゃんを人質に取られたらどうするの?」
「それはそうですけど」
月白さんは言葉を濁らせる。
「それに、照子ちゃんがタタリ神に戦っていたところを見たけど、すごく筋が良かった。もし照子ちゃんが戦ってくれたら、人手が増えるし、何より守らないといけない人がひなたちゃんだけになる」
「まあ、それは一理ありますね」
鹿栖さんの考えに少し納得する月白さん。
「でしょ」
鹿栖さんはニッと笑顔で月白さんに話しかける。
「でも、これからどうするつもりなんですか? 今回はなんとかなりましたけど、いつまたタタリ神が襲ってくるか分かりませんよ。私の力で病院の周辺を監視して、タタリ神の気配は感じませんけど」
「そこなんだよね。タタリ神が次来たとき、今日みたいにひなたちゃんを助けられる保証はない。照子ちゃん、そこで提案なんだけどいいかな?」
「はい、何ですか?」
私は鹿栖さんの問いかけに返事をする。
「照子ちゃんが良ければ、一時的とはいえ私の実家の方に来ない? 当然ひなたちゃんを連れてね」
「鹿栖さんの実家!?」
「ちょっと待ってください千鶴さん。まさか朝日さんにここから遠い茨城まで来いっていってんですか!? そんなことしたら、朝日さんが通っている高校の休学手続きや村の人たちの説明やいろんなことをしないといけないんですよ」
「あくまで、一時的だよ。それにお金のことは私がなんとかしてあげるから。冬至のイザミとの決戦までってこと。もし私たちがイザミに負けたら、その時点で世界が終わっちゃうんだし。細かいことは気にしない、気にしない」
「千鶴さん、あなたって人は!! いつも、いつも人の気も知らないで」
鹿栖さんの言葉に月白さんは、ぐぬぬっと歯を食いしばりながら、怒っている。
「もうもう葵、怒らない怒らない。この話は照子ちゃんが良ければってだけなんだから。ねぇ」
「そうですけど」
月白さんは鹿栖さんの言葉に納得できないでいた。
「葵が納得できなんだったら、葵が照子ちゃんにイザミとの戦いがいかに危険なのかを説明して、これからどうするのかを照子ちゃんに決めてもらおうよ」
「それだと不公平になりませんか。私が一方的にネガティブに話しちゃうことになりますよ」
「それだけ危険であることは変わりないことだし。それに葵が言いたいことまでいえば、葵も納得できるでしょ」
「分かりました、千鶴さんがそこまで言うなら。ごめんなさい、朝日さん、さっきから私が千鶴さんに話しすぎちゃった」
月白さんは私の方を向いて言う。
「うんうん、気にしないで、月白さん。それに月白さんからも巫女のことやタタリ神のことを聞きたかったし」
私は月白さんに対してそう言った。
そして、私は鹿栖さんの方を向いて、鹿栖さんにお願いをする。
「鹿栖さん、今から月白さんと2人で話したいので、ひなたを見ていてもらっていいですか?」
「いいよ。2人で話してきて。何かあったら、私が責任をもって、ひなたちゃんを守るから」
鹿栖さんはそう答える。
「それじゃ屋上にでも行こっか、月白さん。ちょっと外の空気も吸いたし」
「わかった、行きましょ」
私たちは病院の屋上に向かうのだった。
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