第34話 最強の男

「…というか、そのじんって奴は本当にどこに居るか分からないのか?」


弥宵やよいさんの言った通り、凄く自由なんですよ…跳吉とびきちさんと釣りに行ってたり、一人で山篭りしてたり…と思ったら灯黎あかり隊長と将棋してたり…かく言う私も中々会う機会が無くて…たはは…」


「……そいつ…どんな見た目だ?」

「…えーと…凄く綺麗です、体とか顔とか髪とか、何と言うか…完成?されてるみたいな…一目見ただけで「強い!」と思わせる雰囲気があります」

「……髪の毛は…ちょっと褪せてる肌色か?」

「…はい」


「服は羽織とサラシだけか?」

「…普段は…そうですね…はい」


「…目付きが灯黎みたいな感じか?」

「……確かにちょっと似てますね…幼馴染だと聞きましたからその影響でしょうか」


「……マジか…」

「もしかして…知り合いですか?」

「……というより、ここに来た日にちょっとだけ話した…」

「えぇ!?何処でですか!?」


「………何処だったか…客間から出た後は適当に歩いたせいで覚えてないな…」

「んもー!唯一の証拠なのにー!」

「…悪い…その時はちょっと色々考えてて…」

「念の為…一度客間の方にも行ってみましょうか」

「…そうするか、れいー、行くぞー」


 シーン…


「…あれ?麗さーん!!」

「…あいつ…!あのままどっか行きやがったな…!」

「そんなに遠くには行ってない筈です!探しましょう!」

 タタタタタタ…




 ――兆邸の何処か

「…迷った…二人がどっか行った…」

(…さっきまで後ろに居たよね…辰之助たつのすけに怒った後…そのまま歩いて…気が付いたら迷子…私そんなに歩いて無いよ!?何かされた!?怖いんだけど!!…と、とにかく…来た道…)


 麗が来た道を振り返るが、その視線の先には通った覚えのない正体不明の十字路が広がっていた。


(どっちから来たのぉ!? 詰んだ!? 終わり!? ここで野垂れ死ぬのぉ!? というかこんな道あったっけ!? 迷路過ぎるよ!!)

「…あわわ…どうしよう…どうしよう…!」オロオロ


 麗が不安と恐怖に押し潰されて、挙動不審な動きで辺りを見回している中、完全に意識外の背後から突然声をかけられる。

「…どうした?」

「びゃっぁいっ!!!!」

 間抜けな声と共に飛び跳ねた後に尻もちをつき、その姿勢のまま高速で十字路の真ん中まで後退する。


「ほひぃ!ほひぃ!ごめんなさぃひい!」

 麗が怯え散らかしながら誤っていると誰かが走ってくる音が廊下の方から聞こえてきた。


 タタタタ…


「あ!居ました!!」

「おーい!! 大丈夫かー!?」

「辰之助!! 碧良あおいざぁーん!!」

「…良かったです、近くにいて…」

「勝手に先行くなよ…ったく」


 出会えた安堵から辰之助にしがみつき服を引っ張りながら、大泣きする。

「良かったぁー!! もう居なくならないでぇー! ずっと傍に居てぇー!!」

「はいはい、一回涙拭こうな…服濡れるから」


 碧良が懐から取り出した布で麗の顔を拭っていると、麗に声を掛けた男が三人の元へと近づいてくる。


「その娘、お前の知り合いか? 碧良」

「!!」

「あ!!」

 碧良と辰之助はその男の顔を見た瞬間、驚きの表情へと一変する。


「迅さん!あー、良かったぁ!早めに見つかったぁ…!!」

「…急ぎの用か?」


「あぁ、いえ…この二人に貴方を紹介したくて、辰之助さん!麗さん!この人が我らが誇る最強の伐魔士ばつまし鉄切 迅かなきり じんさんです!拍手―!」


「おー!!」パチパチパチ!

「…拍手の必要あるか?」

「気分ですよ、運良く会えたので」

「……そうか…お前が件の男か…」

「……」

「…どうだ?答えは見つかったか?」

「そんな…一日二日じゃ…何も見つかるわけないだろ…」

「…ふっ、それもそうか…早計だった」


「………だが…守りたいものは少し増えた…」

「…ほう」

「それでも俺の目的は変わらない」

「………」

「その為に十年、戦って来たんだ…赤の他人にとやかく言われて変わる程、まだ腐っていないんでな…」

「…そうか」


 スタスタ…

 迅は背を向け、静かに歩いていく。


「…待て、あんたは何だ?」

「……何だ、とは?」

「何の為に、戦っているんだ?」

「…………」

「……おい…!」


「人の為」


「…え?」

「…俺が友と呼び敬愛する者達、民と呼ぶ非力で善良な者達」

「………」

「それら全てをこの命が許す限り、守る為」

「……」


「…答えはこれで十分か?」

「………っ…」

「……では…」

「…じゃあ、その守りたい人…全員が居なくなったら…!?」

「……」

「…全員…殺されたら…?」

「………」

「…お前は復讐を…選ばないのか?」

「……愚問だ」

「……っ…」


「そうならない為に、俺が居る」


「……はぁ…!?…いや、答えになってないぞ!!ちゃんと答えろ!!おい!!」

 今度は振り返ること無く歩いていき、いつしか姿が見えなくなっていた。

「はぁ……はぁ……意味…分からねぇ……なんだあいつ…」

「…辰之助?大丈夫?」

「…あ、あぁ…悪い…思わずムキになっちまった…」

「…違う」

「……え?」

「…泣いてるけど…大丈夫?」


 麗の言葉で、頬を一筋の涙が滴り落ちている事をようやく認識した。


「…………っ…本当だ…何で…」

「…はい、どうぞ…」

碧良がそっと別の布巾を渡す。

「……ありがとう…悪い」

「…いえ」

 それを受け取り、涙を拭っていく。

「………これ…麗のと一緒に洗って返す…家、何処だ?」

「あ、全然お気になさらず!ここに住ませて貰ってるのですぐに洗えます!それに、お二人は任務も近いですし…!」


「…そういえば、いつ出発なんだ、そこまで分かるのか?」

「明朝に任務地へ物資を輸送する為の馬車が出ますのでそれに護衛と言う形で」

「えぇ!? 早くない!?」

「だから急いで迅さんを探していたんですよ、出会えて本当に良かった」

「…輸送ってことは…任務地は街なんだな」

「あれ?虚さんに教えられてないんですか?」

「猫の事しか…な?」

「うん」


「…駄目じゃないですか……えー…他に何か分かることありませんか?」

「…言ったと思うけど、猫と一緒に大きな桜の木が見えて、花びらも舞ってて綺麗だった!」

「……桜の木…花びら…あ!むっふっふ、分かりましたよ!!」

「本当!?」


「それはこの国に存在する、最も発展している九つの都…九大都が一つに名を連ねる街!!」


(聞いた事ある言い回しだ…)


「”最も華やかで最も美しい”と謳われる絢爛豪華なその都の名はぁ!!」


桜都おうと華舞奇かぶき”!!

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