第27話 止まって
七畳ほどの部屋に四人の男女が集まり、その内の一人である
「……ん、大丈夫そうね、今日はもう休みなさい」
「…ありがとうございます…灯黎さん…」
「それだけ?」
「…え?」
「約束破って、それだけ?」
「…あぅ、ごめんなさい…もうしません…」
「本当に?」
「はい」
「本当の本当に?」
「はい、今度こそ約束します」
「よろしい、今度倒れたら承知しないから」
「…はい」
「二人にはもっと感謝しなさいよ」
「
「…私からも感謝するわ、二人共ありがとう」
「ふっふーん!どういたしまして!」
「いやまぁ…一生は長いから適当な所で忘れてくれて良い…」
麗は得意げに、辰之助は少し困りながら返すのを見届けた灯黎が立ち上がり、二人に呼びかける。
「…二人共、少し来て頂戴」
その言葉に反応した二人は灯黎に付いて部屋を出る。
軽く手を振りながら見送った千彩は自嘲の溜息を付きながら布団にくるまり眠る為に目を瞑った。
三人は玄関の廊下に集まったのを確認すると、灯黎が声の大きさを抑えて話し始める。
「ごめんなさい、二人に頼みたい事があるの」
「何ですか?」
「あの子を…時々で良いから見に来てほしい」
「…!」
「今は試験中、それが終われば二人は兆邸の一部屋に行く事になる、毎日は無理でも行ける時だけで良い、時折千彩を…」
「あー、その話なんだが…」
「?」
「千彩の家に俺と麗が住むとかは…どうだ?」
「……………何ですって?」
「えぇ!?聞いてないよ!てか私も!?」
「お前手伝いありとはいえ、一人暮らし出来るか?」
「…………………………無理!」
「そういう事だ、一応千彩からは許可を得た」
「…あの子が良いっていうなら良いけど、いきなりは大変じゃ無いかしら?知り合って間もない人達と同棲なんて…」
「それは俺も思ったから撤回しようとしたが千彩が良いといった、俺も正直…まだ心配だ、焦ったら何をするかも分からない」
「…本当にそれだけ?」
「どういう意味だ?」
「……いや、大丈夫そうね…いいでしょう、私が許可します」
「?」
「諸々は私に任せて、貴方は試験の報告をしなさい」
「あ、あぁ…」
(……よく考えたら…俺は千彩をどうすればいいんだ…あの二人もどうしろとは言ってなかったし…)
「えぇ!?辰之助の試験これで終わり!?早くない!?」
「……じゃあ、貴方には私からお願いしようかしら、付いてきてくれる?」
「やったー!!ありがとー!」
「じゃあ私は虚様を呼びに行くから、あとは任せるわ」
「分かった」
「さ、行きましょう…あぁ、それと…」
「何だ?」
「あの子にもっと私を頼りなさいって伝えて」
「分かった…」
「じゃあね!辰之助、行ってくるね!」
「あぁ、迷惑かけるなよー」
ガラガラ……ピシャン!
(どうするか…下手に何かするよりは…適当に道場の掃除でも…)
ぁぁ…ぅぁぁぁぁ…ぃ…ゃぁ…!
「!!」
辰之助が巡らせた考えを全て吹き飛ばすように千彩の部屋から苦しそうな泣き交じりの呻き声が聞こえ、それを聞いた瞬間、辰之助自身も意識する前に千彩の部屋へと向かう。
ガラ!!
「千彩!!」
「……っはぁ…!はぁ……………はぁ……!」
「大丈夫か…!?」
「……辰之助…さん…また…夢……皆、殺されて…! また一人…!うっ…!」
汗を大量に流し、荒い息のまま目覚めた千彩が潤んだ瞳で辰之助を見て安堵の声を漏らす。
「大丈夫か?とりあえず水飲め、ほら」
「……ん……んくっ…………」
軽く体を起こさせ、水筒を口に近づけて千彩にゆっくり飲ませる。
「ぷはっ………はぁ……はぁ…」
「落ち着いたか?」
「っ…ふぅぅ………はい、ありがとうございます、すみません…」
「謝らなくていい…怖かったな」サスサス…
「…………」
「……?」
「あ、もう、大丈夫です…ご迷惑をおかけしました…」
「……」
「私は平気ですので…良ければ外に出て町の散策などに…」
「……いや、ここに居る」
「…いえ、本当に気を使わなくても…!」
「お前が泣き止むまで、ここに居る」
「………え?」
驚きの表情を浮かべる千彩の瞳から零れた大粒の涙が、紅潮した顔に滲んだ汗と混じりながら頬を伝ってポロポロと落ちていく。
「あぁ、すみません…多分夢のせいです…すぐに止めます…よくある事…なので…」
袖で頬を拭いつつ目元を軽く擦るが涙は止まらない。
「……あれ…おかしいな……いつもなら、すぐに…止まる、のに…ぐす…」
鼻水も垂れそうになる度に啜って何とか塞き止めようと堪える。
「………待って…ズッ…くだ…さい……とめます……ぅ…とまってよ…なんで…!」
だが、涙は絶えず洪水の様に溢れ出し、それにつられる様に嗚咽交じりの謝罪が口から洩れていく。
「ごめん…グス…なさ…い……っ…ごめん…なざい…!どまらないよぉ…何でぇ…!!」
「言ったろ、甘えていいんだ」
「…ぅう……あぁぁぁあぁぁ…!!」
「……頑張ったな…」
「うぁああああぁ…ん…!」
――――気が付けば千彩は辰之助の胸に体を預け、泣き続けていた。
そんな千彩を咎める事も慰める事もせずに彼女の涙が止まるまで、静かに彼女の涙を受け入れ続けた。
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