第2話 仕事
森の中をしばらく走っていると、開けた道に出た。
少し先でガヤガヤと賑やかな声が聞こえる、
どうやら近いようだ。
体中に付いた葉っぱを払いながら、道なりに声が聞こえる方へ歩く。
10分もしないうちに城が見え、どんどんと人の波が大きくなっていく。
人混みにのまれた時には、既に街の中へ入っていた。
少し当たりを見渡し、街の全体図を見つける。
街の名前は礎静町(いしずちょう)
「街」と呼ばれる都に属さない場所の中ではかなり大きく、発展している。
中心に城が立ちそれを囲うように丸い円形の大きな街が広がり、その中で様々な分野の技を持つ人がひしめき合い、織物や染物、陶器や歌舞伎、賭博、見世物小屋…数多の工芸品や趣向品、多くの娯楽がこの街一つに集まっている。
中でも驚きなのは、街の北東部、その半分程度の区画遊郭として機能させて、その区域にも一つの城が点在している事だ。
「……ふむ…」
軽く空を見上げる、日はまだ高い位置にある。
かなり広い町だがその分、仕事も見つけやすいだろう。
まずは街の看板やらを探して、仕事を募集しているか、それが無理なら片っ端から声をかける気でいる。
(今日は何がなんでも布団で寝る)
辰之助がそんな考えを巡らせていると…
「そこの兄ちゃん、旅の人かい?」
椅子に座っていた男に声をかけられる。
少ししんどそうに立ち上がった男は僅かに右足を引きずりながら、こちらに近づいてくる。
恐らく四、五十代やそこらの年齢、六尺は超えた上背に、服装は法被にふんどしだけつけており、ガタイは良く、腹が出ている、パッと見は力士の様な佇まいで、いかにも力仕事を生業としてそうな男だ。
例えるなら事故とかで足を怪我してしまった現場の親方、みたいな印象。
「まぁ、そんな所だ」
少しはぐらかす様に答える。
一部を除き、伐魔士という存在は世間にはあまり浸透していない、知る人ぞ知る、と言うと聞こえは良いが、裏を返せば普通の人はまず信じない。
1度聞いたらすぐに消える噂程度、面白くない都市伝説の様なもの。
少なくとも、今まで知っていた物に出会ったことは無い。
そんな事も知らず、その男は言葉を続ける。
「そうか、もしその辺の宿泊まるんなら気ぃつけろよ、何でも最近、刀を盗るくノ一とやらが居るらしい」
何ともふわふわとした警告の言葉に思わず疑問符が生まれてしまった。
「刀を…?」
「そうだ、太刀とかも盗むらしい」
盗っ人自体は珍しくない、特に地に足がついてない旅人だと、そいつが被害にあっても、あまり真面目に相手にされず、追われる可能性も低いからだ。
だが、刀だけを盗むのは聞いた事がない。
確かにそれなりの値が着くことが多い、だが短刀や懐刀ならまだしも、太刀なんかは盗むにしては重くて不便だし、何より目立つ。
そんな物を盗むのは、相当な馬鹿か余程腕に自信がある盗人だけだ
「だけど大マヌケらしい、盗られた刀が落ちてきて、結局盗まれた奴はいないってよ」
どうやら馬鹿の方らしい
「何人かは逃げる時「違う」とか囁いてたのを聞いたって話もある」
「どういう意味だ?」
「さぁな、ま、気をつけるに越したこたぁねぇって事よ」
「…そうか、一応覚えとく」
「おう! 因みに何処泊まるか決めてんのか? ここで会ったのも何かの縁だ、幾つか紹介してやろうか?」
「…あぁ、その事なんだが…」
話の流れで、すぐに稼げる仕事と今夜泊まる宿を探している事を話す。
「って事なんだ、その口ぶり的にあんたはこの街の言葉良く知ってるんだろ? 良ければ幾つか教えて欲しい」
「うーん」
男は目を瞑って少し唸るように悩んだ後
「そうか、よし!」
ガシ!!
辰之助の肩を叩くように掴み
「!?」
「うちに来い! 今日だけでも面倒見てやるよ!」
まさかの答えを返した。
「え? 面倒?」
「実を言うとな、俺はその辺で人を集めて働かせる仕事をしてんだ、今日もそれなりに仕事が有り余ってるんだ、どうだ? やってみるか?」
願ってもない申し出だが、都合が良すぎて逆に不安になる。
「何の仕事だ?」
揺さぶりをかける意味も込めて、少し踏み込んで聞いてみる。
「色々してる、大工とか飛脚とか…まぁ、肉体労働が多いな」
「それは、素人が手を出して良い奴なのか?」
「何とかなる!出来る奴と出来ない奴に分けるしな!」
本当に何となるのかは不安が残るが、どうやら怪しい仕事ではないようだ。
「…そうか、確かに丁度良いな、体力には少し自信がある」
「言うじゃねぇか、期待してるぜ」
「今日だけだが、宜しく頼む」
「おう!」
差し出された手を握り返し、握手を交わす。
「お前さん、名前は?」
「
「
「……名前で呼ばないのか…」
騒がしい男だが、悪い奴では無さそうだ。
がっはっはっと大声で笑う男に肩を叩かれながら、街の中へと歩みを進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます