第40話 笑顔の村(4)ダンジョン潜入編

 

「うぅ〜」

「ナツキくん、大丈夫?」

「いや、久々にナツキで配信に参加するのはなんかちょっと緊張するんだよなぁ」

 なんて俺たちがほのぼのと話しているのは一家心中があった幽霊屋敷である。綺麗に掃除されているが、どこかどんよりと湿気が満ちていて重い空気だ。日本家屋であることも相まって冷静になってみると恐ろしい場所だ。

「んで、なんで颯太までいるんだよ?」

「俺……、引きこもりやめたい。ナツキさんみたいに強い人間になりたいから」

 颯太の目を見ていると「足手まといだ」なんていえなかった。俺も中学生の頃、いじめられて不登校だったし、それは高校生になってもあまり変わらなかった。だから、ただ1人でダンジョンに潜ってコソコソスキルを集めて、それから配信を始めたらバズって……。

「ナツキくん? 配信つけちゃうよ?」

 千尋に声をかけられて俺は我に帰った。嫌なこと思い出してしまったじゃないか、クソ。

「おう、はじめようぜ」



「みなさん、こんばんは。千尋チャンネルです。予告動画は見てくれたかな? 今日は傭兵のナツキくんとそれから地元の少年と一緒に住民が笑顔になってしまった謎を解いていくよ!」

 俺はペコっと頭を下げる。コメント、ちゃんと盛り上がってるかな。

 俺の心配もよそに千尋は幽霊屋敷のレポートを始める。俺は検知スキルでダンジョンの入り口を探した。

「千尋、ダンジョンの入り口は……ここだ」

 土間の台所の一角が大きな板で覆われている。その板につけられた手作りの取手をもって引き上げてみるとそこは半畳で屈んで入れるほどの空間があり、糠味噌が入っていたであろうタルが放置されていた。冷暗所で野菜なんかを保存しておくスペースだったようだ。

 しかし、今はそこにぽっかりと大きな穴が空いて、その奥にはダンジョンらしき空間が広がっていた。

「よーいしょっと」

 俺が穴に飛び込むと上の方で千尋がきゃいきゃいと騒いでいた。

「躊躇ない! ナツキくーん! 中はどうなってる?」

 飛び込んだ先はそんなに高さはなく、怪我の心配はない。ただ、そんな段差が下へ下へと続いている。

 スキルで明かりをいくつか出現させると、目の前に見えてきたのは井戸の中に螺旋階段を作ったような縦長のダンジョンだった。

「大丈夫、降りてこい」

「はーい、颯太くん。先にどうぞ」

 颯太が「わっ」と小さな声をあげて飛び降りてきたので俺が受け止め、その後悲鳴をあげながら千尋が落ちてくる。

「きゃっ」

「千尋、瞬間移動あるだろ?」

「あっ」

 ぽっと赤くなると千尋はカメラに向かって「てへっ」とサービスをする。顔面が可愛いから需要があるんだぞ、それは。

「ナツキくん、ボスの予想はつく?」

「いいや、こんな形のダンジョンは初めてだ。下の方に何もいないから、多分ここは上層。とりあえず、下に降りようか。颯太、捕まって」

「えっ?」

「いいから、しっかりな」

 颯太が俺の腕にぎゅっと掴まると俺は瞬間移動で螺旋階段のようになったダンジョンの一番下に移動した。雑魚モンスターはおらず、ただぽかんとした空間だけが広がっていた。

「千尋〜! 瞬間移動できるだろ〜」

 千尋はやいやい言いながらしばらくすると瞬間移動で俺のそばに現れた。


「あれ、本当に何にもないね。幻獣のダンジョンかな?」

「そうかも、とりあえず中層に降りてみようか」

 上層の形は初めてみるタイプだったが、中層はそうでもない。緑が生い茂り、獣型のモンスターが次々に襲いかかってくる。

 

イノブタ戦士 Lv150

固有スキル:突進切り

その他スキル:獣系スキル、剣術


ヘビ魔道:Lv150

固有スキル:呪い

その他スキル:魔法(中盤)


 そこそこの雑魚モンスターだな。別にスルーしてもいいが、せっかくの復帰配信だし少し手慣らしにやってしまおう。


「ちょっと離れてて」

「おっけい。颯太くん、私の後ろに隠れてて」


 千尋がカメラを構えたのを確認して俺は検知スキルで俺の前方にモンスター以外が存在しないことを確認する。


スキル:真空斬撃


 俺は剣をゆっくり真一文字に動かすと真空斬撃のスキルを展開した。俺が唯一攻略したあのダンジョンでもらったこのスキルはダンジョンの壁まで貫通する斬撃が剣からほとばしる。俺たちに迫っていたモンスターたちは俺の斬撃によって真っ二つになりしゅうしゅうと煙になって消えていく。

 久々にこのスキルを使ったがやはり圧巻。格好つけて一太刀にしたがナイフなんかで発動するともっと派手でかっこいいんだよなぁ。

 とはいえ、俺1人なら無作為に打ちまくっても問題ないが、千尋もいるし間違ってもそっちに撃つことはできない。


 なぜなら、この技はほとんどのバリアを貫通するからだ。


 だから、仲間がいる場合に狭い場所では使えない。仲間を殺しかねないからな。


「すげぇ〜……」

 颯太の新鮮なリアクションに嬉しくなって俺は後頭部をかいた。

「よし。モンスターも倒したことだし親玉に会いに行こうか」



 やっぱり、フユくんとして隠れながら動くよりも、こうしてナツキとして好き放題スキルを使える方が楽しい。

 やっぱ、ダンジョン配信って最高だ。



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