第39話 笑顔の村(3)
商店で俺たちはお金を崩し(大量のお菓子を千尋が買い)、今度はUターンして龍神様が祀られているという神社へ向かっていた。
もちろん、途中でとっ捕まえた村の少年を連れて……。
少年は
「お前の保護者は?」
「僕は、中学校で馴染めなくて……ここのばあちゃん家に預けられてたんだ。みんな、こんなんじゃなかったんだ!」
颯太はぐっと涙を堪えてぎゅっと手を握り締めた。その隣で同情したのか千尋も涙を浮かべている。
「にしたって、どうして急に? んで、なんでお前はなってないんだよ?」
山中兄妹といい、美咲グラムといい、最近はこういう俺たちに頼ってくるやつが諸悪の原因だったりしたから疑ってしまう。
山口颯太
固有スキル:打撃Lv5
その他スキル:なし
打撃か。育てれば良い戦士にはなれるだろうが、こういうレベルスキルというのは相棒や冒険者の先輩に恵まれないと育たないハズレスキルである。多くの敵からドロップするスキルだし、こういうのが固有能力となると冒険者には不向きだろう。
となると、この子がこの付近のダンジョンに潜ってあーだこーだできる余地はなさそうだ。ということはこの子の話は信頼してもよさそうだ。
「数ヶ月前にダンジョンが出現したとかそういうことは?」
「ううん、ない。一個変わったところといえばみんな龍神様へのお参りをやめちゃったんだ」
「やめた? 熱心になったんじゃなくて?」
「元々は熱心だったのに、あの変なニコニコ顔になってからはめっきり。だってほら……」
颯太は足を止めて目の前を指差した。
俺と千尋は目の前のボロボロになった鳥居とお社を見て顔を見合わせた。狛犬も灯籠も横倒れになっていたし、お社はカビが生えていたり、朽ちていたり……。
「なぁ、本当にお参りをやめただけか?」
「えっ、どうして?」
「数ヶ月やそこらでこんなにカビだらけになってボロボロになるかなと思ってさ」
颯太は少し考え込むと
「僕……おばあちゃん家でも引きこもりで……だからおばあちゃんとか周りの人がお参りに行かなきゃねって言ってるのを聞いただけだから詳しいことは知らなくて」
俺はじっと颯太を見つめる。
颯太は申し訳なさそうに目を逸らすと黙ってしまった。
「どうして引きこもりに?」
「そりゃ……程度の低いいじめだよ。よくあるだろ。俺はスキルが打撃だから……ハズレだって。にいちゃん、ナツキダンジョンと千尋さんだろ。あんたたちみたいになりたいって言ってたのにいざ、スキルがわかったら<打撃>だなんて笑い物さ。それで行きにくくなって……」
しばらく日に当たっていないのか颯太の肌は真っ白で筋肉もほとんどついていない。
「嫌なこと聞いて悪かった。で、話を戻そう。村の人たちが行っていて、颯太が入ってないところはどこだ?」
颯太はしばらく考え込んだが
「僕、引きこもりだし……でもおばあちゃんとおじいちゃんは僕の同じところにいてもあぁなった。2人が僕を連れて行かないところ……うーん」
といいつつ他の村人も行くところだ。公民館? いや、あそこの周辺に異常はなかった。もしも公民館や旅館の中にダンジョンがあれば俺の検知スキルがもっと詳しく発動されているはずだから。
「うーん、颯太くんが行かなくて、村の人たちが行く場所……」
千尋が空を見上げて考えるも何も浮かばなかったのか「だめだ〜」と両手を広げた。
俺たちが考えても考えても共通点は見つからず、一旦神社を出て宿に戻ることにした。颯太を送ってから……。
「なぁ颯太。学校なんか行けなくても大丈夫だぞ。俺もほとんど言ってないし」
「ほんと? でも、ナツキくんは最強チートスキル持ちじゃん」
「確かに、俺のスキルはモンスターのスキルや弱点がわかる。正直いってかなりのチートだが、その他のスキルは全部努力で集めたんだ。もちろん、戦闘に必要な魔法なんかも。だから最初は逃げ回ってばっかだったんだぜ?」
颯太は俺の言葉を聞いてちょっとだけ元気になった。いじめられて学校に行けない時、絶対に本人は悪くないのに自分を責めてしまう。そうなると悪いループにハマって最終的には自分で自分の個性を殺してしまうのだ。
俺も、そうなりかけたことがあったっけ。
「あ!!」
俺と颯太が感傷に浸っていると千尋が大声を出した。
「ナツキくん! 空き家だよ!」
「空き家? なんだって村人が空き家に入るんだよ」
「空き家ってね、手入れが必要なのよ。こういう田舎の場合、空き家を壊すにも壊せないし、そもそも所有者がいなかったりするから近所の人が適当に手入れしちゃったりするんだよね……。それこそ週1で持ち回りとかでさ。もちろん、都会の孫とかが所有してると入れないけど、本当に天涯孤独の住民が死んじゃった空き家とかは、村のみんなで手入れしたりするんだぁ。だから、みんなが共有で入っている空き家があるんじゃないかな」
なるほど……それは一理あるぞ。
ダンジョンというのは基本的に
「颯太。持ち主のいない空き家……いや、お前のばあちゃんたちが掃除にいってる空き家とかあるか?」
颯太は、ハッと目を見開くと
「ある……。3年前……一家心中した
なるほど、あり得るぞ……。
「千尋、動画の準備だ!」
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