第36話 正義のアマミヤ 没落編(3) 終
「私がリークしたに決まってるじゃん」
千尋は呆然としている俺の向かい側にするとヒナノさんに微笑みかけた。
「千尋? リークって……」
「そ。美咲グラムの暴露の後、私のDMにたくさんの被害者たちから告発がきていたのよ」
「告発?」
「も〜、ナツキくんったら察しが悪いんだから。正義のアマミヤの被害にあった女の子たちよ。未成年でホテルに連れ込まれた子もいれば、ハニートラップ……いわゆるやつの命令で配信者と寝た子もいた。でもみんな、あいつに暴露されたり悪いふうに晒されるのが怖くて泣き寝入りしてた……だからね、私は刑事さんを紹介してあげたの。それだけよ」
「へ、へぇ……」
「ナツキくんは優しすぎるのよ。あんな奴に人生をやり直すチャンスなんて与えることないわ。ナツキくんだけじゃなく、たくさんの女の子たちにしたことは償うべきよ」
「そうだな……ありがとう。千尋」
「ふふふ、私ってば頭は少しいい方なのよ」
そっか、俺……これでやっと前に進めるんだな。
「ありがとう千尋」
「えっ、どうしたのよ、急に」
「だから、その……」
「はいはい、いちゃちゃするのは他所でやりなさい。
***
俺と千尋はそのあと、軽井沢の奥地にある宿に宿泊していた。個室……というか部屋一つ一つが戸建てになっているタイプの宿で、グランピングのような豪華なBBQが楽しめるし、完全にプライベートな空間で過ごすことができる。
「正義のアマミヤの件、毎日報道されてるねぇ」
アマミヤは仮釈放になった際、まるで芸能人みたいに大勢の前で謝罪をしていた。やつれきった様子であたまを下げ、被害者の女の子の親に怒鳴られ、乱入してきた他の迷惑系配信者にコーラをかけられとんでもない大騒ぎになっていたのだ。
「TVもだし、やっぱり配信界はなーんにも変わってないな」
千尋は苦笑いをした。
あの後すぐに、アマミヤの被害にあった女の子たちがありとあらゆるところで同じような暴露系配信者の枠に上がっていた。今回は警察が介入しているから、美咲グラムのように嘘ではないだろうが、やっぱり後味は少し悪い。ネットで被害をベラベラ楽しそうに話している子を見ると……特に。
「でも、配信に出るような子じゃなくて本当に傷ついていた子たちがきっと救われてるって信じよう」
暴露している女どもはどうだか知らないが、アマミヤは数々の民事訴訟に加えて刑事告訴を受けているらしい。あれだけテレビで報道されてしまえば、刑期を終えようが、執行猶予がつこうが、罰金を払って自己破産しようが後ろ指を刺され続けることに間違いはない。
そして、俺との制約があるため彼は唯一の取り柄である「配信」ができない。つまりは、俺のあの甘々な誓約が彼の最後の道を絶ったのだ。
「ねぇ、ナツキくん。本当にこのままゆっくり旅を続けるでいいの?」
「あぁ」
千尋は心配そうにこちらを見ている。千尋に話すべきかどうか……
「あらナツキ、お母さんたちね〜。こっちの生活がすごく気にいったのよ」
「はっはっはっ、思い切って退職金で世界1周しようかと思ってな!」
「じゃあ、しばらくは帰ってこないってこと?」
「父さんたちのことは気にせずゆっくりしなさい。冤罪が晴れたんだ。これからはコソコソせずに、ナツキらしくやればいい」
と、うちの両親は避難先がずいぶん気に入ってしまったらしい。まぁ、今帰ってくると報道陣が押しかけてきて大変だろうしちょうどいいか……。それに、俺はともかくとして家族を失った千尋のこの先のことはしっかりと考えていかないと。
ってあれ……俺はなんで千尋のこと考えてるんだ? こいつは今や日本一の配信者アカウントの持ち主だぞ?!
「今度は傭兵ナツキとして千尋ちゃんねるに貢献させてくれよ」
「じゃあ、投稿しちゃっていいかな?」
「おう、俺たちの新しい始まりだな」
ポチッと千尋がPCのパットをクリックした。
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「こんにちは、お久しぶりです。ナツキダンジョンチャンネルのナツキこと大野夏樹です。この度は皆様にご報告とお詫びのため動画を撮っています」
「俺は傭兵フユくんとしてこちらのチャンネルの配信協力をさせてもらっていました。自分の正体を隠していたこと、この時期になるまで視聴者の皆さんを騙すような事をしていたことをお詫びさせてください。申し訳ございません」
「理由としては、美咲グラムこと黒澤美咲、そして正義のアマミヤの告発が嘘である事を証明するための準備をしていたからです。俺の無実を信じてくれた千尋さん、それからいまだにナツキダンジョンチャンネルの復活を応援してくれている視聴者の皆様には感謝しても仕切れないです」
「ただ、俺ではなく傭兵フユくんを好きでいてくれた皆様には夢を壊してしまうようなことになってしまい、本当に申し訳ありません。千尋さんと話し合い、今後は傭兵ナツキとしてこのチャンネルの配信に協力することになりました。今後はナツキとしての俺を応援してくれると嬉しいです」
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「ナツキくん、やばいっ!」
「え? 謝罪の仕方まずかったかな」
「いや、逆! 逆!」
たった5分弱の動画だが、プレミアム動画配信で数百万円の投げ銭、それから公開後すぐに数百万回の再生回数を叩き出していた。
「回りすぎてバグってる……」
「ツヨイッタートレンドも1位〜5位まで独占だよ!」
<ナツキダンジョン>
<復活>
<ナツキくん>
<フユくん>
<待ってた>
「そっか……俺、また戻ってこれたんだ」
「おかえり、ナツキくん」
「ただいま」
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