第31話 暴露女(4) 真相解明 前編



妖精女王クイーンーニンフの治癒の力の根源はその心臓にある。心臓の中にある治癒の核で生成される生命の力を高速で体に循環させることで妖精女王クイーンーニンフは圧倒的な再生能力を再現し、さらに魔法を循環させることで人間ではなし得ない力を持っている神獣だ。

 それを、美咲は利用したのだ。彼女は固有スキル<針千本>で毒針を妖精女王クイーンーニンフの核に突き刺して毒を循環させた。

 そんな自作自演をして俺たちに妖精女王クイーンーニンフを殺させようとしたのだ。もし、俺が針に気が付かなければ妖精女王クイーンーニンフは毒の苦しみに冒されながら、俺たちに殺されスキル結晶を吐き、再生を繰り返す地獄の苦しみを味わっていたに違いない。


 こんなこと、どんな生命体にもしてはいけないことだ。戦いが好きだろうが、嫌いだろうが絶対に。


「あなたは、俺たちにスキルガチャをさせるため、妖精女王クイーンーニンフに毒の針を仕込みましたね。それを変異だと偽って俺たちを騙そうとした」


 図星だったのか美咲はプルプルと震え、すごい形相で俺を睨んだ。可愛い顔が台無しだ。


「綺麗事いわないで、みんなモンスターを殺してるじゃない。何が悪いっていうのよ!」

「嘘をついて人を騙すようなことはしてない。俺は一度だって嫌がるモンスターを追いかけて殺す様なことはしてない」

「なによっ……」


 俺は千尋に三日月のスキル結晶を渡すと、早速もらったスキルを展開する。俺は自分にもこの能力が効くことを考えて、より深くフードを被り、マスクを絶対にずれない様に粘着スキルで顔にくっつけた。


「真実の月光」


 俺が手をかかげるとダンジョンの中に優しい淡い光が差し込んでくる。その美しさはヒステリーになっていた美咲も見惚れるほどだ。しかし、すぐに美咲は悲鳴をあげることになる。

 フロア中に行き届いた月光は、その名の通り「真実の姿」を照らす。月光に照らされた美咲は体中からしゅうしゅうとまるで焼かれているように煙を上げる。

「いやっ……どうして、いやぁ!!」

 美咲は顔をかきむしりながらよたよたと後ろずさった。痛みがあるのか、それとも羞恥心かはわからないが美咲は月光から顔を隠す様に手で覆うと前屈みになって唸る。

「やめ……なさい」

 明らかに少女の声ではないソレに千尋が「えっ」と声をあげた。

 美咲グラムが「不老」にこだわる理由、彼女がナツキダンジョンチャンネルを踏み台にしてまで有名になり、冒険者の男たちに媚びてでも手に入れたかったもの……それは「若さ」だ。


 真実の月光によって本来の姿になった黒澤美咲は40代後半くらいの女性だった。多分、若い頃からずっと美人だったんだろうと思わせる様な顔つきだが、年不相応なメイクのせいで下品に見えた。

「ふざけるんじゃないわよ」

 唾を撒き散らし、ヒステリーに騒ぎ立てる美咲はもう完全に別人だった。自分の老いを受け止められない痛々しい若作り、プライドの高そうな濃いメイク。

「こっちのセリフだ。俺はお前の私利私欲のために戦いの意思がない神獣を殺すつもりはない」

「綺麗事いわないでよ、ダンジョン配信だって私利私欲じゃない。あなたは、そこの 妖精女王クイーンーニンフの見た目が美しいから倒したくないんでしょう? もしも美しくない神獣なら問答無用で殺してるんでしょう?」

 美しさや若さのみが価値だった女の成れの果て……というのだろうか。自らの美しさや若さにかまけて努力をしなかった結果、彼女には何も残らなかったのだ。いや、もともと何も持ってない人間だったのかもしれない。

「違う。見た目は関係ない」

「男も社会も……みんな若くて美しい女が好きなの。ずっとちやほやしてたくせに年を取れば誰も見向きをしなくなった!」

「それはお前がなんの努力もしてこなかったからだろ! 美しさと若さにかまけて楽をして自分の価値を磨かなかったのはお前だ!」

「うるさい、うるさい、うるさい!!」

 美咲はこちらを睨み付けると針千本のスキル展開しようと左手を妖精女王クイーンーニンフに向けてかかげる。

「させない!」

 千尋が咄嗟に妖精女王クイーンーニンフに防御魔法をかけ、スキルを弾いた。

「ちっ、お嬢ちゃん邪魔しないで! あなただってすぐにわかるはずよ。美しさを失った女は何の価値もないってこと!」

「そんなことない……! 私のおばあちゃんはずっとずっと素敵な人だった!」

「うるさい……小娘が!」


 美咲の声に驚いた動物たちが一斉に逃げ出した。美咲はものすごい形相で俺と千尋を睨み、何度も針を飛ばしてくる。俺たちの体の中に針を出現させようとしたらしいが防御スキルに阻まれて諦めたらしい。

「くそっ……なんなのよ、あんたの強さは」

「諦めて……騙した人たちに謝って償え!」

「絶対に嫌……! 私はなんにも悪くない! 悪いのは社会だ!」

 美しさに特化したスキルが使い物にならずイライラを募らせていく美咲、真実の月光のおかげで幻惑魔法は使えない。


「もうやめなさい!」

 千尋が針千本の技を跳ね返しながら叫ぶ。

「いやよ、絶対に諦めない。不老のスキルを手に入れるまで諦めない! フユくんだって私が可愛いJKの時はあんなに話を聞いてくれたのに!」

「違う、俺は最初から疑っていた。お前が可愛いから聞いていたんじゃない」

「嘘よ、美咲グラムが若くて可愛い女の子だから、協力しようって思ったんだわ!」

 だめだ、話にならない。

 俺の母親とそう変わらない年齢なのになんでこんなにも話が通じないんだ?

 彼女が誰にも相手にされなくなったのは若さや美しさを失ったせいじゃなくて元々の性格のせいじゃないか?

 俺は自分を陥れた女のあまりにも浅はかで自分勝手な理由に呆れ果ててしまった。


 声を少し変えて出すのも疲れるし早いところ気絶させて……経堂刑事たちの応援をこのまま待つか?

 俺たちの足元には無数の針が散らばって嫌な音を立てる。経堂さんたちが地元の警察に応援を頼んだとしてあとどのくらいかかる? いや、こっちは配信もしてるし正当防衛だ。やり返してもかまわないよな?

「仕方ない……」

 俺は防御を解いて針千本を交わしながら一気に美咲との距離を詰める。しかし、俺は千尋の悲鳴で動きを止めることになった。


「フユくん!!!」

「千尋!」


 振り返ってみると、千尋は無数の針で構成された大きな牢獄の中に入れられていた。中に浮かぶその牢獄はまるで、中世の拷問器具……のようだった。


「そうよ……血を……あびればいいんだわ。あの時みたいに」


 ブツブツと呟きながら千尋の真下にいくと、不意に大きな声を出す。


「千尋ちゃん、あなたって……」

「な、何よ! 出しなさいよ!」

「処女?」

「はぁっ?! こんな時になんてこときくのよ〜!」

「あなた、あんまりモテなさそうだものね、ふふふ……いいわ、いいわよ」

「な、な、なんなのよ〜!」



 美咲は大きく手を広げてニンマリと笑う。


「私の針を組み合わせたアイアンメイデン……あの伯爵夫人の話って本当なのよ?  あの時のように処女の血を浴びて私は美しくなるの……」


 美咲はぐっと目を見開いた。

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