第26話 スキルガチャ配信(2) 阿修羅様 前編


「夏樹くん! 予告動画の再生数がすでに100万突破してる! ショート動画もSNSの引用も最近で一番の数だよ」

 スマホを見てみるとまだ配信前なのに千尋のありとあらゆる投稿がバズっていた。やはり、この前の悪狐を倒した時の切り抜き動画の影響が大きいらしい。

「なんか、嫉妬しちゃうな〜。だってだって、みんなが待ち望んでるのはフユくんなんだもん」

「まぁ、俺も一応昔はトップ配信者だったもんでね」

 千尋が「ムキーっ」と冗談で言いつつも、可愛く口を尖らせてダンジョン潜入への準備を始める。

「予約は?」

「1日間とれたよ。阿修羅様ってクールタイムないんだね……」

「あぁ、阿修羅様はなんというか本当に神様に近い存在って感じだ。自分を打ち負かした人間にスキル結晶を与える。阿修羅様は複数の神獣の集合体なのか、それとも本当に神に近いものなのか……研究が進められているらしいな」

 というわけで阿修羅様は非常に好戦的だが人間とは友好関係にあるとも言える。まぁ、冒険者を躊躇なく殺すんで友好的ではないかもしれないけど……。

「すんごい人気なんだってね、阿修羅様のダンジョン」

「あぁ、だから俺が教えた裏窓口からの予約が必須ってわけだ、1日500万円。賄賂で」



 阿修羅様がいるダンジョンは京都の山奥にある。ただ、山奥と言っても千尋の出身の村とは違って周囲に村などはない。

 というか、阿修羅様のダンジョンを管理している企業によってその付近の土地が買われてしまっているのだ。

 阿修羅様のダンジョンはまるで冒険者用のレジャー施設の様に管理されていて、普通の冒険者であれば1時間2500円で挑戦が出来る。出来るんだけど、死ぬ可能性もある。このダンジョンに入るのは自己責任、ただ死体の回収費用の前払いとしての料金なのだ。ま、生きて戻ったとしてもお金は戻ってこないけど。

「1日500万円。まぁ、後々のことを考えるとすぐに元が取れるだろう……、あっ、どもです」

 俺は受付の女性に頭を下げる。ダンジョンの入り口の前にある大きなゲート、その脇には小さな受付ルームがあった。

「ご予約の坂牧千尋さんですね。本日は1日貸切とのことで承っております。つきましては、明日のお昼12時までにはご退出をお願いします。こちらにサインを」

 同意書にサインをして、俺たちはゲートを潜る。重々しい電動ゲートを潜ると千尋がふぅと息を吐いた。

「このダンジョンは入ってすぐに下層に続く階段がある。道中に戦闘やモンスターはなし。阿修羅様がいるフロアに直通だ。撮影はダンジョン入り口からはじめようか」



***



「さ、始まりました。最高レアスキル結晶が手に入るまで帰れまてん! 今日は傭兵フユくんのスキルガチャ配信〜! ダンジョンボス阿修羅様のレアスキル結晶を手に入れるまで帰れない企画です!」

 俺はカメラを向けられてぺこりと頭を下げた。

「リクエストで送ってくれていた人も多かったよね! 阿修羅様VSフユくんの戦闘をとくとお楽しみくださいね!」



 阿修羅様は大きなコロシアムのようにすり鉢上に広がったバトルフロアは芸術的だ。

「よもや、今日も挑戦者か」


阿修羅 Lv999

固有スキル:斬撃、高速殴打、真空波動、音波、復元、瞬間移動

その他スキル:(冒険者から受けたスキル全て)

弱点:それぞれの首


 がしゃんと音をたてて黄金の阿修羅像が座禅の姿勢から立ち上がった。阿修羅様は5mほど、しかし動きは俺たちと同じ様にかろやかだ。

 阿修羅様の顔は3つあり怒り・微笑み・哀しみ。6本の腕には今までの冒険者から奪ったさまざまな武器を持っている。

 俺は腰に携えていた新品の剣を抜くとすぐさま阿修羅様の間合いに入り、彼の腕の上を走って頭の付近まで飛び上がった。そのまま体を反転させて「怒り」の頭を落とす。


「ぎゃぁぁぁ」


 怒りの頭はその名の通り、一番気性の激しい頭だ。攻撃すると大きくよろける。そのスキに俺は大きくのけぞった「哀しみ」の首を落とした。哀しみおん首はごろんと床に転がると大量の涙を流す。その涙に滑って阿修羅様がすっ転ぶと同時に俺は「微笑み」の頭を落とした。


——1戦目、終了



「スキル結晶を受け取るがよい、次の先頭の準備ができたら我のもとへ」



 倒れた阿修羅様のそれぞれの首がぶくぶくと熱した金属の様に真っ赤になって泡立っていく。

 転がってきたスキル結晶を拾い上げると俺は千尋の方に駆け寄った。千尋はぽかんと口を開けていて

「もう終わったの? ふ、ふゆくん?」

「あ、あぁ……スキル結晶、スキルは斬撃。正直一番多いスキルかな」

「え、あ……うん」

 千尋はスマホのカメラを俺に向けながら呆気に取られた様に目をぱちくりさせた。なんだ? 俺へんな動きしてたか?

「そろそろ、阿修羅様が復活すると思うから行ってくる」

「まってフユくん。コメントにリクエストがたくさんきてる、読んで」

 

<弓で倒すとレアスキルドロップするらしい>

<微笑みから倒すといいらしい>

<素手でいけるか>

<魔法で全身を溶かすといいらしい>

<千尋たんのおぱんつかぶれ>


(おぱんつ?!)


 とひさびさの配信画面で変なコメントも目にいれつつ俺は視聴者の願望をいくつかピックアップする。実際に、何人もの配信者が(ナツキダンジョンも含め)阿修羅様のスキルガチャ配信をしてきた。つまり、ここにきている視聴者たちは新しい展開を求めているのだ。

 一部は、千尋のことが見たいだけらしいが……。

「じゃあ、いってみよう! 引き続き、みんなは私と一緒に応援してね!」



「阿修羅様、よろしくお願いします」

「うむ。参ろう」


 俺は背負っていた弓を構えると矢にたっぷりと岩魔法を込めて放つ。怒りの顔の脳天に矢が突き刺さり、バコンと大きな音を立てて弾ける。他の顔のこめかみに刺さった矢も同じ様に弾けた。首から上を失った阿修羅様はがっしゃーんと大きな音をたてて崩れ落ちる。

 さっきとは違った星形のスキル結晶を拾い上げる。


<スキル結晶:高速移動>


 次は、「微笑み」の顔から切り落とす作戦だ。阿修羅様は初めに切り落とす顔によってその後の攻略方法が変わる。微笑みを切ると怒りの顔が激昂して攻撃が一層激しくなる。


(ここらで阿修羅様の派手な攻撃で尺稼ぎでもするか)


 阿修羅様の6本の腕が常人では見えない速度で斬撃を繰り出してくる。俺はスキルで時間間隔を緩めて一つ一つ交わしていく。カメラにはとんでもない速度で俺が待っている様に写っているだろうから盛り上がっているに違いない。


「おぬし、よい手捌きだ」


 お褒めの言葉をいただいたところで俺は阿修羅様の腕を一本切り落とし、相手がよろめいたスキに残りの首を切り落とした。


「がっはっはっ、微笑みのいない状態で我を倒したのは何年振りかな? このスキル結晶を持っていくといい」


 そういうと阿修羅様はぶくぶくと溶けた金属の塊になって復元を始める。


 阿修羅様がさっきまでいた場所に一際大きな星形のスキル結晶が落ちていた。拾い上げてみるとずっしりと重たい。


「すごい! これはレアなんじゃない?」

 千尋の黄色い声が響き、俺はゆっくり彼女の元へ戻る。

「すごかったよ、フユくん。すんごい早くてなにしてるのかわからなかったけど」


<スキル結晶:瞬間移動>


「これってレアなんじゃ? ね、コメントさん」


<いや、これはレアだけどレアじゃない>

<レアは「復元」スキルだぞ、いまだに出たことないらしい>

<瞬間移動もやばいからな>



「さて、いきますか」


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