第27話 スキルガチャ配信(3) 阿修羅様 後編



 あれから5時間。俺は阿修羅様と戦い続けていた。阿修羅様は俺との戦いでどんどん強くなっていた。中途半端な斬撃では効かなくなっていたし、こちらの動きも読まれつつある。

 ガンと攻撃を弾かれて腕がじんじんと痺れる。


「よもや、これまでか?」

「まさか」

「ふん、骨のある男よ」


 阿修羅様の攻撃をかわしつつ、「復元」のスキルはどうやったらドロップするかを考えていた。今までのスキルは全部ナツキダンジョン時代に所持済み。ここでスキル獲得の演出を配信することで徐々にフユとして使えるスキルが増えていく。

 ナツキ時代に行ったダンジョンをいくつかこうやって回ってスキル獲得演出でもするか。


「よそ見をするなよ、小僧」


 左から来た矢の雨を簡単に払い落として、阿修羅様の足元に水魔法をぶちまける。泥に足を取られているスキに俺は3つの首を同時に落とした。


「見事なり」


 阿修羅様がころんと落とした小さな結晶はもう見飽きた「真空波動」のスキル結晶だった。


「フユくん、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。でもまた同じスキル結晶だった」

 俺はわざと肩で息を切らして見せる。帰れない系の企画に求められるのは姿である。配信者が苦し目が苦しむほど視聴者は応援し、成功を祈る。

 だから実際は全然疲れていなくても疲れているフリをする。

「みなさん、もう500回以上の先頭を繰り返していますがまだレアスキルは手に入っていません。本当に帰れなくなっちゃうよぉ」

 千尋が一部の需要に応えて顔面をドアップで写している間、それは画角から外れて水を飲んだ。

 にしても「復元」はどうやって手に入れるんだ? ありとあらゆる倒し方をしたし、わざと時間をかけたりもした。瞬間移動や音波、斬撃(強)、斬撃(速)など阿修羅様の一般的なスキルしか落ちない。


 俺がやってないこと……俺がやってないこと……


「フユくん、視聴者さんからコメントがたくさん! 頑張って!」


 俺は立ち上がると阿修羅様の待つフィールドへ向かった。阿修羅様は俺がやってくると微笑みの顔をぐるりと向けて俺を迎える。


 それからまた俺は数時間、阿修羅様を倒し続けた。何度も何度もスキル結晶を拾っては倒し、拾っては倒しを繰り返す。しかし、どれもこれも見覚えのある形ばかりだ。


「疲労が見えるぞ。小僧」


 阿修羅様は6本の腕を大きく広げ拳を握った。打撃か……めんどくさいぞ。俺は瞬殺で片付けようと剣を握って飛び掛かるが、阿修羅様は俺のクセを読んだのかがっしりと剣を掴んだ。

 まずい。

 俺は剣を離して思い切り飛び退く。火の魔法で阿修羅様の攻撃を防ぎ、距離を置く。炎に煽られた阿修羅様がギラギラと輝き、微笑みの顔からぐるりと怒りの顔に変わった。

 眉間に皺を寄せた怒りの顔は俺を睨みつけると不敵に笑った。


「小僧。お前の持つあまたの技がほしい。気が変わった」


 なんだ……空気が変わった。阿修羅様の3つの顔がぐるぐると回ると次第に一つに融合していく。怒ったり笑ったり悲しんだり、まるで人間の様に表情が豊かになる。そのうち6本あった腕も気がつけば2本に融合し、筋骨隆々の腕には日本刀が握られていた。黄金に輝く日本刀は美しいが恐ろしい気配を漂わせ、紫色の瘴気が上がっている。


「この姿になるのは久々よのぉ」


 完全に変化した阿修羅様は薄ら笑いを浮かべると二刀流の構えで真空波動を繰り出した。大きく開かれた阿修羅様の口から放たれる空気の波動でビリビリと身体中が震え、視界がぼやける。

 俺は咄嗟に波動無効スキルを展開して、阿修羅様の両腕から繰り出される無数の斬撃を交わした。

 ピュン、と耳元で音がしたと思ったら、キンとした痛みが俺の肩に走った。

(そうか、俺が避ける軌道も読まれ始めている……!)

 間合いをとって、息を整える。大丈夫、マントは切れているが俺の正体がバレるほどではない。最悪のことも考えて顔も変えてある。


「小僧、逃げてばかりじゃ我は倒せんぞ?」


 不敵な笑みを浮かべた阿修羅様は日本刀を振り回し、瞬間移動を繰り返す。俺はそのすきを見逃さず、首を切り落とした。ごろん、と阿修羅様の首が転がって溶ける……。

 と思いきや転がった首は「くくくく」と笑いを浮かべている。

「なんだ……?」


「フユくん!」


 千尋が悲鳴を上げた。千尋の方を振り替えって俺はことに気がついた。

 ブシューっと音をたてて左肩から血が噴き出した。

(ちょっとまずいな……BANされるかも……)


「今、治療を!」

「くるな!!」


 俺が叫ぶのが遅かった。

 首のない阿修羅様の体がフィールドの中に入ってきた千尋の方へすっ飛んでいく。 

 阿修羅様の鋒は確実に千尋の喉笛に向けられていた。

「千尋! 防御だ!」

 千尋は動きを止めて自分の危機を感じ取ったが、死の恐怖に目を見開いて固まる。俺は咄嗟に転がっていた阿修羅様の首を風魔法で持ち上げると千尋を庇う様に間に入り、阿修羅様の首を盾にする。

 繰り出された突きは阿修羅様自身の脳天を貫き、千尋は勢いでおもいっきり後ろにすっ飛んだ。俺は、残った腕で剣を取ると動かなくなった阿修羅様の胴体、人間で言うとちょうど心臓あたりをぶすりと刺した。


 その瞬間、阿修羅様はボロボロとメッキでも剥がれる様に崩れ出した。そして、大きな金粉の山になってしまう。


「フユ……くん」

「千尋」

 金粉の山が風でさらさらと舞う。その中に、蓮の花のような形をした一際大きなスキル結晶が残っていた。


<スキル結晶:復元>


「や、や、やった〜〜〜!!!!」


 こうして俺たちはレアスキル「復元」を手に入れ、配信後にちゃっかり左腕を「復元」し、予定よりも3時間早く配信を終了した。



 ピロンッ



「夏樹くん、DM……来た」

「は? 配信すげーバズってるとか?」

「バズってるよ。ネットニュースにもなってるし、日本のダンジョン配信者の同時接続者数最多更新したし」

 あれ今なんかさらっとすごいこと言った様な……?


「ちがくて、DM」

「だから、なんのDMだよ」


「美咲……美咲グラムから」


——私、ナツキダンジョンチャンネルのナツキくんにダンジョンで襲われたんです!


 俺は数ヶ月前のあの配信を思い出した。根も葉もない噂、俺っぽい男に襲われる動画、メッセージ機能の偽造。

 そして、あの配信をきっかけにインフルエンサーになった女。


「左腕落とされたかいがあったぜ」

「だね……、DM読むよ」

「おう」


 

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