第20話 勇者の村(4) ダンジョン配信編


 宿で俺たちは動画の編集やらSNSの投稿やらを済ませて、打ち合わせをしていた。

「明らかに、キメラがいるとされるダンジョンで死ぬはずのない手練れたちが死んでいる。そして、ナビゲーターとしてあの山中拓馬が帯同するところも怪しい」

「じゃあ、どうするの?」

「そうだなぁ、千尋精神にかかる魔法や諸々を弾く防御魔法で身を守っておいた方がいいかもしれない。それも、あいつに気が付かれない様にだ」

「夏樹くんは?」

「あぁ、俺は無効スキルがあるから大丈夫」

 千尋がじっと俺を見つめて

「夏樹くんってさ、ちょっと強過ぎない?」

 と目を細める。

「まぁ、昔は配信に夢中になっていろんなダンジョンに潜ってたからスキルがたくさんあるのはまぁ……うん」

「いわゆる、チートってやつだよね」

 スキルがたくさんあるのは別にチートでもなんでもない。どちらかといえば俺は固有スキルである<検知>がチートスキルだと思っている。生物であれば大体のことが検知スキルで何者であるかわかるし、力が強くなるダンジョン内においてはまるで透視でもしているようにどこに何かいるのかわかってしまうからだ。

 検知スキルを使えばあとは弱点をつくだけでモンスターを倒すことができる。モンスターを倒せばスキル結晶が手に入り、新しいスキルでまた強くなる……。これを繰り返してきただけだ。


「じゃあ、行こうか」



***


 ダンジョンの上層は山中拓馬の言う通り「迷宮」になっていた。迷路の様になっているダンジョンは数多く存在するがこのタイプの迷路は初めてだ。

「すごい、これ鳥居?」

 千尋は迷路の真っ赤な壁を触って大きくリアクションをする。山中拓馬は得意げになって

「えぇ、これはおそらく鳥居が連なってできていると思われます。父の研究によればですが、ダンジョンには複数のテーマ的なものが存在していてこのダンジョンは和風な景観、モンスターが集まっているんです」

「へぇ〜みなさん見てください、鳥居がいくつも連なってできている迷路です」

 俺は千尋がダンジョン内を写している間、検知スキルで中を詮索する。モンスターは彼の言う通り日本の妖怪が多い、化け鴉や小豆洗い、小鬼。

「ん?」

 俺たちのいく先に一つ、トラップを見つけた。

「どうしたのフユくん」

「いや、モンスターの仕掛けたトラップが」

「みなさん! トラップです!」


 簡単なワイヤートラップの先に魔力検知型の狐火と爆発札が貼ってあった。ワイヤーに引っかかって驚いた冒険者が魔法を発動すると一気に着火して爆発し、火に包まれる仕掛けだな。

 俺は丁寧にトラップを解除すると千尋に声をかけた。

「フユくん、今のトラップの解説をお願いします」

「簡単なワイヤートラップだが、このフロアにいるモンスターの特徴を使った精巧なものだった。狐火が見えるのが弱点だが……」

 と言いかけてカメラを向けた先にポツポツと狐火が浮かんでいた。

「あの、山中さん。もしかして正解の道はこっちですか?」

 俺は狐火が見える方を指差して質問してみた。

「え、えぇどうしてお分かりに?」

「いや、なんでもないです。複数の罠があるみたいなんで俺が解除しますね」


 いくつかのワナを解除し、襲いかかってくる小鬼たちを蹴散らしながら進むと中層への階段が見えてきた。階段の前には特大のトラップが仕掛けられていたので凍結魔法で無に機しておいた。

 口には出さなかったかこのトラップはダンジョンの中で生成されたものではなくだ。そのため、壊してしまっても問題がない。

(みたところ、仕掛けられたのは昨夜と言ったところだな)


 中層に入ると迷路とは違ってだだっ広い空間に出た。まるで神社の裏の森のような空間で針葉樹が無数に生えていて、化けガラスや鴉天狗が上から襲いかかってくる。


鴉天狗からすてんぐLv100

固有スキル:旋風

弱点:火


化け鴉Lv60

固有スキル:召喚の叫び

弱点:火


 化け鴉が次々に固有スキルで鴉天狗や化け鴉を呼び出し、上空にはモンスターの黒い塊ができるくらいに数を増やしている。

 流石にこれだけの量となれば1匹ずつ相手をするのは骨が折れる。その上あいつらの風魔法は鋭利で俺のマントやマスクを切り裂きかねない。

「千尋! 幻惑だ!」

「了解っ!」

 千尋の幻惑魔法に包まれた鴉天狗たちは明後日の方向に集まると同志打ちを始める。俺は鴉天狗からドロップする羽根をいくつか集めて火をつけると思いっきり空に向かって投げた。

 ぼぅっと大きな音を立てて羽が炎上するとパチパチと花火の様に弾けて空中にいるモンスターたちに引火する。さらに引火した羽が同じ様にパチパチと弾け、みるみるうちに上空は炎に包まれた。

 足元にぐにゃりとした感触、尻尾が3つ股にわかれた黒い大きな蛇だった。咄嗟に俺は後ろに飛び退いてその牙を避けた。

「2人とも足元の蛇に気をつけろ!」

「きゃっ〜!」

 千尋の方にいた蛇の首を落として彼女を大きな岩の上に乗っける。


魔蛇Lv99

固有スキル:毒無効

その他スキル:猛毒 マヒ毒

弱点:斬撃、炎、水

 

 寄ってくる魔蛇たちを何匹か切り倒すと(俺のスキル 波動斬撃で切り倒しても良かったが特定されかねないのでわざわざ1匹ずつ切り倒した)蛇たちが死に間際に出す神経毒を避けながら身を翻し、千尋や山中さんをカバーする。しばらくそうしていると上空から降り注ぐ炎に怯えて蛇たちは逃げて行った。


「さぁ、ボスのいる空間にいきましょう。中層は間も無く火の海になります」

 俺の言葉に山中拓馬が目を丸くした。

「えっ、でも」

「もしも、中層に千仏豊満鏡せんぶつほうまんきょうが隠されている場合、ダンジョン内の木々が燃えた方が探しやすいでしょう?」

 彼の表情が微妙に曇る。やはり、宝のありかを知っているな。こいつは。

「みなさん、千仏豊満鏡せんぶつほうまんきょうを探すため、私たちはボスを倒しに行きます。ボスのいる下層への階段が見えてきました」

 千尋がアナウンスと共に炎上するモンスター、木々を写した。チリチリと燃え盛る森林は非常に美しく、コメントや閲覧数が伸びているようで千尋がこちらに向かってにっこりと笑った。

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