第21話 勇者の村(5) ボス討伐編
下層にたどり着くと大きな広い空間のみが目の前に広がっていた。その中央には大きなキメラが大きないびきをかけて眠っている。キメラは先ほど中層にいた鴉天狗の胴体、顔は小鬼、尻尾は魔蛇の立派なキメラだ。
???? Lv999
固有スキル:???
弱点:???
なるほど。
俺は検知スキルを使って全てを理解した。理解した上で刑事さんたちから頼まれている件もあってわざとこいつをキメラだと認識する。
「あれが……キメラ?」
俺の問いに山中拓馬は「はい」と答えた。千尋の方は困惑した顔でキメラの方を見ている。
「あっ、あそこを見てください! あのキメラの後ろに
山中拓馬が指差した先に大きな鏡と千手観音像が目立つ様に置かれていた。いや、実際には置かれている様に見えているだけだが……。
「千尋、しっかり写ってる?」
「う、うん」
千尋は困惑した表情でこちらに配信画面を見せてくれる。コメントは大盛り上がりだ。
<和風キメラやば>
<フユくんなら余裕っしょ>
<ってかお宝えっぐ……!>
<お宝発見ってヤホオニュースも速報してるぞ!>
話題性があったのかネットニュースが即時に立ち上がり、今までにない数の閲覧が稼げている。すでに投げ銭も数百万を超えている。1人で配信していたよりも稼げている様な気が……。やはり、ストーリー性がある配信の方がいいのか。
「今回は少し手こずりそうだ」
千尋が俺の言葉を聞いて息を呑んだ。
というのもこの言葉は配信を見ている刑事さんたちへの合図だからだ。この空間は強力な幻術空間に包まれている。幻術無効スキルのある俺には別の景色が見えていて、防幻術魔法のかかっている千尋にも……だ。
ただ、俺の検知スキルにも影響のでる幻術を使うボスを俺は知っている。あぁ、またこんなところで会うことになろうとは。
「キメラの弱点は各種の頭をです。俺が同時に落とすので2人は離れていて!」
俺は騙されたフリをして一旦幻術無効スキルを解除して目の前のキメラを目視する。起き上がったやつはこちらに向かって神経毒や風斬撃をぶつけてくるが、俺は全てを避けきってしまう。まずは風斬撃を利用して浮き上がってから尻尾の蛇の頭を、尻尾を掴んでそのままやつの体に駆け上がって小鬼の首を切り落とした。
崩れ去る体から飛び降りてくるっと受け身をとって体を起こすと、やつの崩れた体から羽の形をしたスキル結晶が現れた。
「やりましたね! フユさん!」
山中拓馬がわざとらしく拍手をするとこちらへ駆け寄ってくる。
「ささ、スキル結晶を手に取って」
彼がそう催促するが、俺は動かずに彼を見据える。そして、そのまま千尋の横に移動するとカメラをスキル結晶の方へ向けた。
「見えてるぞ、
そういって俺は水魔法でスキル結晶をびっしょりと濡らしてから氷魔法で凍らせてしまう。すると、ぐにゃりと空間がまがり、みるみるうちにスキル結晶は大きな黒い狐に姿を変えた。
おまけにさっきまでそこにあった
固有スキル:変身、幻術、読心
その他スキル:狐火、洗脳、
弱点:氷、尻尾
「くっそ! 聞いてないぞ! 効いてないぞ! なんでバレたんだ! そもそも毒をかける約束だろう!」
悪狐がぎゃぎゃあと騒いで文句を垂れた。
やつは神獣と呼ばれるモンスターの中でも上位に所属している。前回戦った幻獣との違いは出現するダンジョンを選べる生き物であり倒されたあとも記憶を引き継ぐ生き物だからである。つまりこいつは倒されれば倒されるほど経験を蓄積するし、自分好みのダンジョンを移動するのだ。
神獣という言葉には「神」という文字が使われているがまさに神に近いものなのかもしれない。
「毒……ねぇ」
振り返ると山中拓馬は焦りきった表情で口をぱくぱくさせた。
「申し訳ない。千尋と俺は中層の前に体に異変を感じて解毒魔法で解毒してたんです。あぁ、あなたが振る舞ってくれたお茶の中に遅れて効く毒でも入っていたんでしょうね。例えば、中層にいた魔蛇の神経毒とか」
「おいおい! 俺を無視するなやい!」
そういうと悪狐は大きなドラゴンに変身して、まるで俺たちに見せつける様に火を吹き付けてくる。いつもいつもこいつは撮れ高を考えてくれるいいモンスターだ。そんでもっておばかで最高だな。
とはいえ、こいつがいる状態だと後々面倒になりそうだし、先に退治するか……。
「へっへっ、この姿になったら俺は負け知らず! 幻術が効かなくても物理で勝てるもん……へ?」
ドラゴンの姿だった悪狐は切り取られた自分の尾っぽが俺の手の中にあるのを目視して絶句した。ドラゴンの姿だった尻尾は真っ黒い9つに分かれた尻尾に変化し、しゅうしゅうと音をたてて崩れる。
「なんで……貴様……反則だ……ろ」
ぎゃあぎゃあと声を上げながら悪狐が絶命し、今度こそキラキラ光る丸い水晶型のスキル結晶がごろんと転がった。
スキル結晶を拾い上げると
スキル結晶
スキル:狐火
(一番のハズレじゃねぇか……!)
千尋にも一応スキル結晶を渡して、俺は呆然と立ち尽くす山中拓馬の方に歩み寄った。彼は千尋がスキル結晶を手放してふわふわと光になっていくのをみて膝から崩れ落ちた。
「父さん……」
やはり、そうか。
「さて、みなさん。キメラに化けていた神獣……悪狐を倒しました。村のお宝は悪狐の見せた幻だった様ですがこれ以上犠牲者がでないのならそれでよいのかなと思います。投げ銭ありがとう! じゃあ今夜はここまで。それじゃあまたねっ!」
千尋が配信を切ってカメラを下げると、俺は呆然とする山中拓馬の腕をつかみ、ダンジョンの外まで連れて歩いた。
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