第18話 勇者の村(2)
「勇者?」
ゲームの中の世界でもあるまいしなんて思いつつも、俺は経堂刑事と峰刑事の話をいったん聞いてみることにした。日焼けのせいで背中と頬がひりひりと痛い。もっとあの無人島に滞在したかったが、千尋がどうしてもと聞かないので2日も早く切り上げて本土に戻ってきたのだ。
「えぇ、富山県の山奥でね。勇者を探してる村があるの」
わけのわからんことを言っているが経堂刑事の顔は真剣だ。
「それの何が問題なんすか」
「峰」
峰刑事がバッグの中から何枚かの書類を取り出し、テーブルに広げる。完全個室の高い店に呼び出されたのはこんなふうに機密情報を取り扱うからか。
<
<
<吉田栄吉>
<舞原悠/三木あいか>
「この人たちはみな熟練の冒険者です。鴨志田レオンに関しては2人もご存じかと思いますが……」
鴨志田レオンは有名なダンジョン配信者だ。登録者数は800万人前後で中堅といったところだろうか。圧倒的な身体能力と甘いマスクで人気を博し、たしか大手の事務所に所属していて色んな番組なんかにも出演していたはず。実際に会ったことはないが、配信をチラッと見た感じかなり強い冒険者だとわかる。
並大抵のダンジョンでは死なないはずだし、そもそもダンジョン配信者の多くはロケハンをして自分が攻略できるダンジョンをしっかり見極めてから撮影画角や構成をざっくり決めるものだ。
「そのほかの三人も配信者ではないものの、日本冒険者協会の情報によればかなり上位に位置する実力者だったようですね。ですが、この1ヶ月で次々と死亡しています。それがこの勇者を探しているという村のダンジョン……」
富山県の山奥ある小さな村は冬になると雪が降り積もってほとんど行き来ができなくなると言う。
そのダンジョンはダンジョンがこの世界に現れ始めた頃から存在するかなり古いダンジョンで、獣系のボスが救う難易度の低いだったというデータが残っているそうだ。
「なるほど、最後に出たデータっていつです?」
俺の質問に経堂刑事はタブレット端末を操作しながら
「10年前ね。最後のデータ更新は……ボスはカラスと蛇のキメラ」
と答えた。
キメラというのは獣系ダンジョンのお決まりボスだ。その情報であれば、バケカラスと毒蛇が蔓延るダンジョンとかそんなところだろう。そもそも、ダンジョンの難易度は中に生息するボスモンスターの種類によって多くが判断される。
モンスターが人型に近ければ近いほど難易度が上がる。前回、俺たちが倒した人魚なんかはその類に入る。幻獣・神獣と呼ばれるモンスターは知性があり、神に近い存在で生命をも操るとされているからだ。
一方で動物に近い容姿をしているモンスターというのは知性がないため難易度がぐっと下がる。キメラの一番強いやつだとしても底が知れているのだ。
「そんなのに、鴨志田レオンが負けるとは思えないが……見つかった時はどんな状態で?」
「ボスのいる下層で、スキル結晶を手にした状態で死亡が確認されたらしいわ。あまりにも数が多いということで私たち0課も調査に入ったわけ」
タブレット端末で彼女がこちらに見せてくれたのはSNSの広告画像だった。
========<勇者求む!>========
日本に古くからあるダンジョンを攻略できる人を探しています。
言い伝えによればダンジョンの中には村の宝である
「
それを探し出せる方、探索や討伐が得意な方はぜひご応募を!
ご応募はフォームまで。
※ナビゲーターと宿泊先の関係で1パーティーずつのご案内になります
========================
つまり、強い冒険者を探している村で次々と冒険者が死んでいる。
経堂刑事たちはそれを調査するために俺たちをここに呼び出したってことか。これだけ相手側が大々的にSNSで広告をしているんだし、千尋のチャンネルでダンジョン配信をして俺がこっそり<検知>でこの「
「なるほど……では、俺たちはただの冒険者として村に潜入します。ダンジョンの中は生配信で見ていただければ……、もしも、その仮に? 変なことがあれば連絡します」
「そういってくれると信じて、勝手に予約……してたんだけどね」
(この女……)
待ち合わせの日は明日。
経堂刑事は頼んだわよと真剣な瞳でこちらに言うと峰刑事と一緒に店を出て行った。
***
富山県の山奥、これまたバス停から数時間歩いた先にある村は限界集落のようだった。限界集落なんて見慣れた光景だが、こんなところにSNSを使いこなす人が本当にいるんだろうか。
「こんにちは」
「おやまぁ、こんにちは」
第1村人発見。優しそうなおばあちゃんに声をかけるとにこやかに笑顔を返してくれる。年寄りはこうやって優しく見えるが、千尋の村といいこの前の村長といい腹の中は憎悪や欲望で真っ黒だったりする。優しそうなお年寄りだからといって信用してはいけない。
「すみません、えっと山中さんという人を探していて……」
千尋の質問におばあちゃんはにこやかなまま
「あぁ、山中さんのね。ここを真っ直ぐいった先に小さな平家があるわ。そこが山中さんのお家よ」
と答えてくれた。おばあちゃんは「平家は山中さんのお家だけだから」と付け加えた。依頼人は
「あそこじゃない?」
おばあちゃんの案内から数十分歩いた先に本当に小さな平家が見えてきた。俺は念の為、マスクをくっと上げて変声スキルを展開する。
「そうだ。メールで配信してもいいって許可が出てるからもう動画回しちゃおっか。ひっさびさに予告動画からの配信でがっつり! 視聴者の心をつかむわよ〜」
「はいはい」
俺はサングラスをかけてスマホを構える。まずは村の一望、それから千尋が諸々のアナウンスをする。数多くの千尋ファンに向けて俺は彼女の足から顔までを舐める様に写す。
「それでは、勇者を求む! あの怪しい広告の真相を探っていきたいと思います!」
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