第12話 誘う村(4) ダンジョン配信編
「今夜はとある未開拓ダンジョンに潜入していきたいと思いまーす!」
千尋は衣装に着替え、俺はフード付きマント、マスク、ボイスチェンジャーで完全に身バレ防止の様相。今回はしっかりと装備を整えているので剣もナイフも鞭も新調した。麻痺、眠り、毒、いろんなモンスター用の矢、最高級の弓。大抵のダンジョンは攻略できるが……やっぱり情報のないところに入っていくのはワクワクする。
「今回も、傭兵はフユくん。よろしくね〜。10万人の視聴者のみなさん、たくさんコメントしてね!」
上層に足を踏み入れると、このダンジョンはかなり広いことがわかった。検知スキルによればパンサー系のモンスターがうようよといるようだ。
「千尋、幻惑スキルを展開しよう」
先日のサキュバスを倒して手に入れたスキルで俺たちは幻惑領域を展開していく。フロアはみるみるうちにピンク色の霧に包まれて、唸っていたパンサーたちが巣穴に戻っていく。
ダンジョン系の配信では暗黙の了解がある。
<その1>
ネコ科のモンスターを殺すと視聴者が離脱する
<その2>
成長を感じさせるために配信内で手に入れたスキルや技を使うと視聴者がつきやすい
言わずもがな、見た目が可愛い(とされる)モンスターにはファンが存在する。ネコ科のパンサーやイヌ科のコボルトなんかは「もふもふ」とかいう流行で倒す部分が放送されると一気に視聴者が減るのだ。
「かわいい……赤ちゃんもいますね」
千尋は幻惑にかかってリラックスしているパンサーの親子を写してコメント稼ぎをする。俺はそのスキにフロア中を隅から隅まで検知スキルで人間がいないか探す。しかし、パンサー系のモンスター以外、検知はできなかった。
やはり、ダンジョンには入っていないんじゃないか?
俺はカメラに映らない様に合図を出し、千尋と共に中層に向かう。中層では一気に湿度が増し、ぴちょりぴちょりと雫が天井から垂れ、草原が生い茂っていた上層と違ってまるで鍾乳洞のような作りだ。
不思議なのはこの鍾乳洞、下へ下へと向かう作りになっているがトラップもモンスターもいない。
「綺麗なダンジョ……、きゃっ〜!」
千尋は悲鳴をあげるとスマホを自分の胸に抱き込んで何も映らない様にすると鍾乳洞の中の先を指差した。腰を抜かし、プルプルと彼女の指差す先には小さい水溜まりがあり、そこに何かが……人間が浮いていた。
「死んでる……!」
高瀬美希
固有能力:透視
その他スキル:なし
状態:死亡 滑落死
「千尋……配信止めて。犠牲者だ。すぐに警察のダンジョン支部に連絡!」
***
「あなたが第一発見者の大野夏樹さん……ですね」
ダンジョンの入り口で俺たちは警視庁捜査0課 ダンジョン支部の刑事
経堂マリコは薄いフレームのメガネをかけた賢そうなお姉様で、THE刑事といった感じの黒いスーツがよく似合っている。
「元ナツキダンジョンチャンネルの夏樹くん、ねぇ」
「それは関係ないでしょ」
「そうね、ごめん。で、あなたたちはダンジョンで配信をしていたら中層の鍾乳洞で高瀬美希さんを発見した。と。嘘はないわね?」
俺は洗いざらい経堂刑事に事情を話した。元々は旅行で来ていたこと、旅館で清香さんに頼まれてダンジョンを捜索していたこと。
高瀬美希さんの遺体の傍らでは夫の健太が泣き喚いていた。
「美希〜! 美希〜! お前がいなくなったら俺と愛莉はどうすればいいんだ! あぁ、美希〜!」
健太は他の駐在さんに引き剥がされても泣き叫び続けている、経堂刑事はそれをチラッと見てから俺たちに何かを手渡してきた。
「被害者のそばにこれが落ちていたんだが……君たちのかな?」
証拠保全袋に入っていたのは小さな子供用の人形と子供用の服だった。おむつを変えたり、寝かせると瞼を閉じたりする人形だ。
「いえ、違います」
「そうか、ありがとう。息子の海斗くんだけが行方不明……か。何か見たものは?」
「その先には進まなかったので何も……」
経堂刑事は少し考え込んで、それから俺に
「一刻を争う。もし、海斗くんが水に流されて下層に落ちていたら……、大野夏樹、坂牧千尋。捜索を手伝ってほしい」
俺と千尋は目配せをして頷く。わかりましたと言おうとした時のことだった。
「清香さんが殺したに決まっとろう! あの女を逮捕しよったらええんじゃ!」
規制線の外側で叫んでいたのは坂本莉子だった。
「ちょっと待ってて」
経堂刑事は坂本莉子の方に行くと「どういうことですか」と声をかけた。坂本莉子は目を血走らせ
「清香さんは病気で街の病院に入院しよる間に健太くんを寝取られて恨んどったに決まっとる! 結婚もせんと旅館に住み込みで働いて未練があったんじゃろう? だから、美希ちゃんを……。美希ちゃんだけが私と同じだったのに」
経堂刑事はささっとメモをとると
「事実関係を確認します。ご協力ありがとうございました」
と冷たくいうと俺たちの方に戻ってきた。
「さ、ダンジョンに行きましょう。
峰と呼ばれた屈強なスキンヘッドの男性は「はい」と野太い声で返事をすると俺たちに会釈をした。強そう……。
「大野夏樹です。えっと……」
「知っています。ナツキダンジョンチャンネルの。心強いです」
俺は苦笑いをして千尋を紹介する。
「お二人のチャンネルは拝見していますよ。さ、無駄口を叩いてないでいきましょか」
経堂刑事に続いて俺たちは再度ダンジョンに足を踏み入れた。
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