第3話 人助け
俺達は、初めてニードルテリスを狩った後、森の少し奥へ進んだ。
適当に木の実を集めたりしながら歩いていると、ニードルテリスが突っ込んで来ることがあったが、第三の腕の自動迎撃システムにより
3匹目を沈ませた時に「俺もやりたい!」とデュアンが駄々をこねたので、頭に被っている魔導具の自動迎撃を解除した。
「これで5匹目だね!」
デュアンは、剣に突き刺さったニードルテリスをこちらに見せながら嬉しそうに語り掛ける。
俺は、まだびくびくと動いている串刺しになったニードルテリスを眺めながら返事をする。
「俺は突っ立ってるだけなのに、もう五匹か」
「ニャータが反応できないからじゃん」
「は? で、できるし」
実際、見えないことはない。
ただ、俺が反応するよりも早く第三の腕が動いているのだ。
「少し大きい魔獣も狩りたかったなー」
「どんな生態なのかわかってない内はダメだ」
何度かサイズが大きめの魔獣も見かけたが、森に入る前に"ニードルテリス以外は狩らない"と決めていたため、その場にかがんで魔獣が去るのを観察していた。
その時は、涎を垂らして剣をカチャカチャさせているデュアンを押さえつけるのが大変だった。
何度も言っているはずなのだが、どうしてもニードルテリスでは満足できないらしい。
確かに、一突きで終わってしまうのは物足りないと思うのも無理はないが、一突きでやられるのが楽しいとも思うまい。
「そういうのが冒険心をくすぐられるんじゃん~」
デュアンが俺の指示に不満の意を示す。
俺は、段々面倒になってきたため、あえて突っぱねてみることにした。
「死にたいなら勝手にしろ」
「あ~、そういうこと言うんですかそうですか。だったら、ニャータが孤児院にいる時、ベッドでごそごそしてた時の事、ギルドのみんなにばらしちゃおーっと」
「な、な、なぜそれをー!!」
それは絶対に阻止せねばならない。
というか、バレてたのかよ。最悪過ぎる。
そんなたわいのない会話を森中に垂れ流しながら歩いていると、少し遠く、音が殆ど聞こえないくらい遠い距離を、一人の女性が走っているのが目に入った。
迷いなく、慣れた足の運びで走るその様子から、その道を何度も通ったことがあるだろうということが伺える。
身なりは、軽装と細身の剣を腰に下げているように見えた。
それなりの装備をしているので、ただの同業者かと思ったが、ハンターは基本複数人で行動すると聞く。
何より、走っている。これが絶対的におかしいのだ。
目的がはっきりしている場合以外に走ることはあまりないだろう。
トレーニングにしてはスリリングにも程がある。
つまり、恐らく彼女は急いでいる。
しかし、何かを追いかけているわけでもなさそうだ。
「デュアン。あれ、なんかおかしくないか?」
「ん? どれ?」
デュアンは女性に気づいていなかったようだったから、俺が「あれだ」と言って指をさして教える。
「うーん、どうだろう? でも、危険なのは間違いないね」
そうだな。行ってみよう。
このまま放って置いて大変な目に合われると、目覚めが悪い。
「……いくぞ!」
「了解!」
俺達は急ぎ足でその女性の方角に向かった。
「でも、少し嫌な予感がするな」
「そうだね……でも、わくわくするよ!」
正直、俺もこの唐突な展開に少し気持ちが高ぶっている。
だが、そういう時は冷静じゃない証拠だ。心を一度落ち着かせよう。
俺は、高揚した感情を冷ますように、一度思考をやめる。
すると、徐々に冷静さを取り戻し、視野が広がったような感覚を得る。
俺達は、茂みを小刻みにジャンプしながら突き進んでいく。
女性が見えなくなってから間もなくして、木々の間から光が漏れ始めた。
眩い日差しによって最初はその先が見えなかったが、徐々に光景が浮かんでくる――
「止まれデュアン!」
「え!?」
俺は、その先で起きている事態を理解した直後、デュアンに静止するよう指示を出す。
光の先は、開けた小高い丘になっていて、その頂上付近にはいくつかの墓石と思われるものが突き刺さっている。
そして、その中の一つの墓石の地点に二人の人物がいる。
俺達が追いかけていた女性が小さい女の子を庇い、剣を突き立てながら障壁を形成し、少しずつ後退っている。
剣の先には、体長10mは有ろうかというほどの魔獣が今にも襲い掛かろうとしていた。
――嫌な予感が的中してしまった。
「まずいよニャータ!早く助けに行かなきゃ!」
「…………」
何故だ、一歩を踏み出せない。
あの魔獣は大きすぎる。
正直、想定していたよりも随分と恐ろしい光景だった。
ワクワク? 馬鹿なことを言うな。
数秒前の自分を罵倒する。
そんなつもりはなかったが、横着していたのかもしれない。
そして、いざ恐怖に立ち向かうことができずにいる。
そんな自分に、失望してしまった。
「慎重に進むべきだ」なんてことを言っていたのは、ただ死にたくなかったからだろうか?
自身への猜疑心が強まり、己の発言全てに説得力がなくなった。
これまでの努力も傍から見たら大したものではなく、何とか身に着けた技術も、小さな山の頂上で喜んでいただけだったのではないか。
自信を失った人間は、一歩を踏み出す勇気が持てない。そして、酷く弱々しい。
そんな奴を叱咤したことが何度かある。俺も同じだった。
そんなくだらない自信喪失で、時間を無駄にしている。
もう、見なかったことにしてしまおうか――
「ニャータ!」
見覚えのある顔がいつの間にか視界の大部分を占領していた。
「……?」
目の前にいる、未だ瞳に輝きを宿す青年を前に、何も言葉が出ない。
そうだ。こいつはどうなんだ。
あの光景を目にしても、全く動じないというのか?
「ニャータ、大丈夫だよ。思い出して、これまでの日々を」
デュアンは、俺の顔を掴んで目を合わせながら、諭すように話しかけてくる。
これまでの日々? そんなもの……
俺は、過去の光景と感情を再現する。
努力の日々、孤児院で過ごした日々、俺の成長を支えてくれた恩師や友人との日々。
そして、先程否定した、今は思い出したくもない「過去」を。
夕暮れ時、初めて小石を浮かせた時の、達成感。
転んだ時、初めて治療をした時の、幸福感。
ある日の夜の刻、初めて明かりを灯した時の、安心感。
寒期のある日、初めて木の枝を燃やした時の、万能感。
雨の降る日、初めて水溜りを凍らせた時の、成長感。
初めて四角形を生成した。
初めて岩を担いだ。
初めて細い木の幹を折った。
――父親の自分語りで、初めて魔導を知った。
これまでの成長を遡ってみたが、その時の感情は、どれも高揚感を孕んでいた。
思えば、初めて魔導を知ってから今まで、魔導を中心に時間を過ごしていた。
いつだって、前進することを考えていた。
――感情が徐々に活力を取り戻すのを感じる。
自分の努力が正しいのか、凄い事なのか。
そんなことはどうでもいいことだ。
「大事なのは、魔導が使えることじゃない。魔導をどう使うかだ。」
これは、父親が自慢げに語っていた。
そんな、笑顔と活力で満ち満ちた日々を思い出すうちに、俺はいつの間にか、浮足立った足が地に着いていた。
俺は、そんな大地を踏みしみて、叫ぶ。
「くそったれえええええ!!」
腹の底から、昂る感情を押し出す。
決心がついた。
俺は、今初めてハンターになろうとしているのかもしれない。
「デュアン! あいつを狩る!」
「……うん!」
今の俺の表情は、どうなっているだろうか?
感情に身を任せて命を曝け出すという事は、これまでの行動理念に反している。
だが、この高揚した心臓は、選択の余地をなくしていた。
デュアンと俺は、決断を下した瞬間に走り出した。
すると、横を走るデュアンが嬉しそうに口を開く。
「ニャータ! 俺達、英雄になるんだね!」
「……ああ!」
英雄、か。
そこまでの偉業かどうかはわからない。
でも、そうだな。
俺達は今、英雄なんだ。
しかし、このままでは間に合うか分からない。
今は寸刻すらも危ぶまれる状況。
俺はすかさず、横を走っているデュアンに指示を出す。
「お前だけでもとにかく飛ばせ! 間に合わなければ意味がないぞ!」
「でも、到着した後に体勢を崩したら――」
「そういうのは全部俺に任せろ!」
そういった瞬間、デュアンは足に力を溜めて、ニードルテリスが如く一閃した。
俺の到底及ばない爆速。数百日間、数多の模擬戦を繰り返して漸く対応することができた速度だ。
その速度の不意打ちにはあの魔獣も反応できず、デュアンの頑強な切っ先は首元をなぞった。
――そして、そのまま数十メートルすっ飛んで丘の反対側まで行ってしまい、姿が見えなくなった。
ありがとうデュアン、お前の事は忘れない。
「うぉおおおおおお!!!!」
俺は大声で魔獣の気を引き、あらかじめ作用魔導で回転させておいた第三の腕に強化魔導を施す。
頑強に施工された魔導具は、例えあの魔獣の毛皮が硬かろうと摩耗することはないだろう。
そして、その重金属の塊を、作用魔導で魔獣の顔面目掛けて射出する。
シューン! と風を切る音を奏でながら、魔獣がこちらを向いたその瞬間を強襲した。
ガシャンッ!!
衝突と共に、第三の腕が金属音を立てた。
しかし、肝心の魔獣はビクともしていない……していないが、俺の第三の腕は猛スピードで回転している。
貫通こそしていないが、弾き返されていないならば、時間を稼げる。
俺がこの間に距離を詰めると、襲われていた女性は小さな女の子を連れて俺の所まで来た。
「誰だか知らないけど、ありがとうっ! 私も戦うわ!」
そういって小さな女の子を後ろへ移動させ、左の腰に収まっていた細身の剣を抜いた。
「そんなことはいい! 早くその子を連れて街に戻るんだ!」
俺がそう叫ぶと、女性は数秒の逡巡の後「必ず助けを呼んでくる」といって女の子を背負うと、急ぎ足でこの場を去った。
正直ほっとした。あの女性の実力の程はわからないが、守りながら戦う余裕はないろう。
もっとも、この魔獣が弱い方を優先して襲ったりするのかは不明だが。
「デュアン! 早く戻って来い!」
「もう戻ってきたよ!」
デュアンはそう叫ぶと、反対方向の丘の頂上から先程と同じくらいの速度で魔獣に切りかかるが、ひらりと躱されてしまった。
デュアンは「なに!?」みたいな表情をしたあと、真っ先に俺の前方を位置取る。
「ニャータ、どうやって戦うの!?」
「知らん! だが、一筋縄でどうにかなる相手じゃないという事はわかった」
「俺も驚いたよ。躱されるとは思わなかったし、何よりさっき首元を思い切りきったのに全然浅い!」
一体どんな動体視力をしてやがる。
不意打ちで無ければまともに一撃すら入れられないないってのか……!
もしかしたら、この魔獣は図体だけ大きくて動きは遅いとか、実はそこまで強くないなんてことも期待していたが、その切望は儚く散っていった。
一方、デュアンは悔しそうに「くっそー」と嘆いている。
俺は、現在デュアンの右斜め後ろに位置どっているが、嘆くデュアンの表情はどこか楽しそうに見えた。
しかし、これはどうしたものか。
デュアンが最初に入れた一太刀も、皮膚を少し切断した程度の軽傷だ。
そして、その傷さえもみるみるうちに回復しているのが目視できる。
まずいのはそれだけじゃない。
俺はさっきの回転パンチで、魔力を貯蓄していた二つの指輪が空になった。
魔力が充填された指輪は残り一つだ……。
この状況では、数分の内に俺が戦力を失い陣形が瓦解する。
そうなる前に、何か手を打たなくてはいけない。
「デュアン! これを受け取れ!」
そう言って、魔力が空になった二つの指輪をデュアンに投げた。
「――え?」
キィンッ!
デュアンは反応できず、肩を守っている装甲にぶつかってしまう。
そして、膝元くらいまで伸びている草原に落ちてしまった。
「ごめんニャータ、何投げたの?」
そう言うと、デュアンは背中を向けて指輪を探し出す。
――その瞬間。
臨戦態勢に入っていた巨体が、デュアンの真後ろまで接近した。
「――デュアン!!」
一秒もなかった。
ほんの一瞬で数十メートルを移動したのだ。
想像をはるかに超える身体能力、これが魔獣か。
俺は、第三の腕をすかさず移動させ、デュアンを左方向にすっ飛ばした。
魔獣は飛んでったデュアンを視線で少し追った後、すぐに俺に視線を戻した。
戦況を理解しているのか? それとも、俺が弱いと思われているのか。
残された時間は一秒もないだろう。
考えるまでもなく、防御行動を取る。
咄嗟に生成魔導を使い、硬度属性を付与した魔力物質を実体化し、3重の層を持つ障壁を身体を覆う様に構築した。
ゴンッ!
一瞬で目の前が暗くなった。
俺は今、且つて気絶した時にも見たことがある、綺麗なお花畑にいる。
初めは、父親にみぞおちを殴られた時だっただろうか。
生まれ故郷が魔獣に襲撃された時、父と母は魔獣の気を引くために囮をかってでた。
その時俺は両親と離れるのが嫌で、凄いぐずったのを覚えている。
そんな俺に父はこう言った。
「すまない。俺はお前も大事だが、自分が一番大事なんだ。そして、俺は人を守ることで自分の誇りを保ってる。今はわからないだろうが、きっとお前も分かる時が来る」
その後に母が口を開いた。
「もう、息子より自分が大事だなんて呆れたわ」
そう言った後、母は一呼吸おいてから俺に向けて言葉を続けた。
「お父さんはああ言ってるけどね、実はあなたの事が何よりも大事なのよ。ああ言う事で、自分が死んだときにニャータが責任を感じないようにしているの」
その後、恥ずかしそうに母に「やめてくれ」と言っていた父を今でも覚えている。
そして、両親が戦いを選ぶと、俺の肩を掴んでいた領主が、「必ず応援を連れて戻ってくる」と言ったんだ。
だが、そんな状況でも俺はぐずって両親が戦うのを拒んだ。
今思えば、両親が死ぬことは直感的にわかっていたように思う。
「最後に我が子に縋られるなんて、幸福そのものだ。今まで、幸せでいてくれてありがとう。愛してるぞニャータ」
父は、中々納得しない俺に、優しい表情を浮かべながら別れの言葉を告げると、みぞおちを殴った。
そして、その後両親は死んだ。
俺が目を覚ました時、領主は住民に、父と母が囮をやったことなんて無かったかのように振る舞っていた。
当時はその領主の振る舞いに怒りを覚えた。
でも、たった今ふと思った。
自分が勝てないとわかっている相手に立ち向かったのだとすれば、もしかしたら父と母は、望んで救助を拒んだかもしれない。
領主は、その要望を受け入れ、俺を欺くほど忠実に実行した。
父の言葉。
「お前にもきっと分かる時が来る」
俺には、やはりまだ分からない。
でも、きっと分かる時が来るという事は、分かった気がする。
微睡みの中、見知らぬ絶景を眺めながら、偉大な両親の在り方を感じた。
「んん……」
目が覚めた、どうやら俺は生きている。
大きな生き物と小さな生き物が互角に戦っているのが目に映る。
そして、その先頭の後方で、何故か森が大きく燃え盛っている。
小さい生き物は……良く知っている。孤児院での10年近くを共に過ごした親友だ。
大きい方は……さっき知り合ったな。
名前なんて言うんだろう。牙が鋭いなぁ、獣族かな?
いや、まんま獣だな。
あぁ、こんなこと考えてる場合じゃない、立たなきゃ――
気だるく地面に突っ伏している身体を起き上がらせようとするが、力が入らない。
俺はこの感覚を良く知っている。魔力切れだ。
やっとの思いで首を少し動かして右手を確認すると、魔力が貯蓄されていた残り一つの指輪も空になっている。
三重の障壁なんてものを生成したのが祟ったか。
恐怖心からか、咄嗟の判断で三重でもなければ即死すると思った。
そして、残り少ない魔力を振り絞って障壁を形成したが、魔力が足りず一枚当たりの障壁の厚さが薄くなってしまった。
杜撰な障壁もそうだが、魔力が少なすぎる。
魔力量で制圧できない俺には、あんなやり方は相応しくない。
何をやってんだか。
こんな様では、起き上がったところで何もできないだろう。
それに引き換え、デュアンは凄い。
俺が寝っ転がりながら反省会を開いているこの間も、互角に戦っている。
そんな勇ましい姿を見ても、今の俺は何もできない。
心に火が灯らない。
やっとの思いで奮い起こした勇気も、たったの一撃で奈落へと叩き落された。
あの一撃さえ何とか防げれば、陣形を立て直すこともできたはずだ。
やっぱり俺なんかじゃ、あいつの相棒は務まらないだろう。
「なんで……こんなに、弱いんだ……」
声が震え、目からは涙があふれてくる。
これまで、一筋の希望にすがって、ここまで努力を重ねてきた。
本を読んで、魔導の訓練をして、筋肉のトレーニングをして、あいつと連携の訓練をして……。
その努力も、生まれてきた瞬間から力を備えているような強大な力に簡単にねじ伏せられた。
絶望している。
ただの魔力切れだというのに、今から死んでしまう様な感覚を覚える。
――いや、頭部の出血が多い。恐らく、目を瞑ったらこのあと死ぬだろう。
でも、今はそれでいいと思ってしまった。
デュアンはきっとあの魔獣をどうにか倒して英雄になる。
そして、周りから高い評価を受けて、俺なんかより強い仲間に恵まれて……いつか来る最後を、幸せな表情で終えるだろう。
「……いつか、か。」
そう言えば、まだ両親が生きていた頃。
街の近くで一度だけ、とんでもない衝撃があった出来事を思い出した。
確か、そこら辺の石ころ程のサイズの岩石が降ってきたとかだったかな。
学者は、古代の本と思われる物に記されていた「隕石」と呼ばれるものだと新聞で声明を出していた。
あんなに小さくて魔力が無くても、あの衝撃だったんだよな。
――――はぁ、隕石でも降ってきて全部壊れないかな。
そう呟くと、間もなくして一つの考えが頭をよぎった。
その瞬間、俺の中にある破壊を司る願望が、目を覚ましたような気がした。
あぁ、そうだった。
俺は今「魔力切れ」で突っ伏しているんだったな。
「不公平だろう……」
一時は高鳴った脈拍も、蜘蛛の子が散るように平静さを取り戻していく。
ガシャッ!
近くで何かが降ってくる音がした。
目を瞑っていた俺は、再び目を開けてその正体を確かめる。
剣と……腕だ。
持ち主は……そうか。
デュアン。お前でも、負けるのか?
じゃあ、俺が負けるのも当然だな。
――馬鹿やろう……!! そうじゃないだろうが!!
デュアンが死ぬ。
俺の死は許しても、それだけは許せない。
それは、俺の誇りが許さない。
「……ああぁぁぁぁ!!」
身体の節々に感じる痛みを叫び声で誤魔化しながら、全身の力を絞って身体を起こした。
そして、こちらに飛んできた腕と剣を再度視界に入れる。
――――屈強な筋肉を纏った前腕、籠手は酷い損傷だ。
その先に生えている繊細で細長い指には、四つの指輪がはめられていた。
そこには、さっき俺が投げた二つの指輪も嵌まっていた。
「拾っていたのか……」
俺は小さく呟くと、その四つの指輪を嵌めた。
――その後、思い切り第三の腕を上空に打ち上げた。
その腕の周りに生成魔導で魔力物質を生成して、ありったけの質量を追加する。
そして、落下の衝撃で魔導具が破壊されない様、強化魔導で腕の強度を上昇させた。
重力で落ちてくる腕に作用魔導で更に力を加えていく。
バランスを崩すのを懸念して、少し回転も加えよう。
その行為の意図を確かめる為にこちらを見つめるデュアンに、俺は叫んだ。
「2秒間動きを止めろーー!!!!」
片腕の剣士は、その無茶な要求に寸刻も迷うことなく、足を動かす。
打ちあがった第三の腕と叫んだ俺を見た魔獣は、身体の向きこちらに向けていた。
――次の瞬間、魔獣が宙に浮いた。
その光景見て、よくやったと思う反面、デュアンと自分との差を鮮明に表現しているようで切なさを覚えた。
何が起こったか。
デュアンは、魔獣の隙を見つけた瞬間、保有している魔力をふんだんに使って脚の筋肉に強化魔導を施した。
凄まじい魔力総量を誇るデュアンの動きは、神速と言ってもいいほど速く、あの魔獣でも一瞥する事すらできなかった。
懐に潜りこんだデュアンは、残りの魔力のほぼ全てを使い切り、硬度属性を付与した放出魔導で魔獣を上空にすっ飛ばした。
俺は宙に浮かぶ魔獣を見届けると、力んでいた全身を緩めて地面に突っ伏す。
位置は把握した……俺達は、英雄になるんだ。
「俺達に遭遇しちまった事、後悔しやがれ――」
俺は残った魔力を全て使い、その隕石のような拳を魔獣に叩きつけた。
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