・間話 賢族

 ハンター生活を始めて早200日。

 今日は、オフにしようという事になったし、適当な店に物色に行ったり……釣りとかしようかな。そうだ、この機会に賢族の説明を紙に書いておこう。将来、"種族図鑑"見たいなタイトルで本を出版してやろう。


-----本の内容(予定)-----


 賢族けんぞく。それは俺達の種族の名称だ。

 この大地にはたくさんの種族が暮らしているが、その中でも知能が高いとされている。

 とはいっても、賢族は主に魔力を用いて己を強化して脅威に立ち向かうわけだが、魔力を使うのには先達が残した知識を共有することが欠かせない。しかし、幼くして両親が死んだり、金がなくて本が買えなかったり、覚えたやつから死んで行ったり、教育施設が少なかったり……そういう理由が重なって、賢族は全体的な識字率がそこまで高くない。


 もちろん魔導に精通する人は文字の読み書きができるが、ハンターを生業としている人たち、特に中級以下のハンターは魔導を軽んじる傾向があるせいか死亡率が異様に高い。

 上級ともなると、賢族が保有する魔力量は到底、魔獣に追いつけないため、魔導の技術レベルで戦闘力が決まってくる。魔力量に関しては、その領域に達する場合多かろうが低かろうが、魔力貯蔵用の指輪や腕輪なんかをジャラジャラとを身に付けることになるだろう。



 俺は両親が死んでから孤児院で育った。しかしそれは、親が死亡した場合に孤児院で預かるという契約を事前にしていたからそうなっただけで、両親がその手続きをしていなかった場合は一人で生きて行くしかない。

 俺やデュアンは運がよかったんだ。孤児院は住居を提供してくれるし、ある程度の教養を与えてくれる。簡単な算術やお金の稼ぎ方とかな。

 もちろん誘拐なんかさせまいと監視もしてくれる。結構ざる警備ですけど。


-----たわいのない日常-----


「おっちゃん、この地図いくらだ?」

「ようニャータ、60テラだぞ」

「二枚買うから90テラで売ってくれ」

「お前は相変わらずだな――あいよ」


 またこいよ! と気さくに挨拶をする小太りの親父。名前は何だったかな……まぁいいや、いつか聞こう。 

 今は近くの森の地図を購入した。家に戻ったらデュアンに危険区域の説明をする予定だ。

 購入した地図を背負っているリュックのわきポケットにシュッと差し込み、商品の物色を再開する。


-----本の内容(予定)-----


 賢族は、地頭はいい。デュアンも戦闘に関する知識は直ぐに覚えたし、戦闘の際は俺の指示を瞬時に理解する。何度か戦闘を経験すれば、戦況の把握もかなりスムーズにできるようになる。



 デュアンに至っては、俺が本で得た知識を子供の頃から仕込んでいたし、ルールを設けて戦闘ごっこというゲームを考案してそれで遊んだりもしていた。我ながらよく考えられたゲームだと思う。――――ルールとか書いた紙を売ったりできないかな? 今度あのおっちゃんに聞いてみようか。


-----たわいのない日常-----


「よぉターナ、そのりんごいくらだ?」

「これは三つで100テラだな」

「じゃあ二つで50テラだな」

「――60テラだ」


 またこいよ! と気さくに挨拶をする小太りの青年男性。この世界の商人は小太りになることから始めるのだろうか。

 りんごを雑にリュックの中に突っ込んで、商品の物色を再開する。


-----本の内容(予定)-----


 賢族の寿命は、120年程度と言われている。

 一年が大体1000日から1300日ほどだから、一年を1150日と考えてそれが120年……138000日生きれるのか。

 と言っても、そこまで生きてる奴なんて殆どいない。魔獣の襲撃やらハンター活動で殉職やら……生きるのは大変だ。

 他の種族はもっと長く生きる。獣族は、その中の部族にもよるが大体400年と言われている。そんなに生きてどうするつもりなんだろうか。



 とはいっても、寿命は生息する環境に大きく左右されるって学術書にかいてあった気がするな。なんでも魔力が豊富な場所ほど長生きするし、そこで生まれる子供も強靭になると。

 長年その環境に身をとおじなければあまり効果はなさそうだが、俺が今、獣族達が住む"神樹の森しんじゅのもり"で100年近く暮らしたなら、少しは寿命が延びそうだな。


-----たわいのない日常-----


「ようレイド、調子はどうだ?」

「よぉニャータ、上々だぜ? 面白い依頼を受けて、がっぽりよ」

「それはよかったな、俺にも分けて欲しいくらいだ」

「……なぁ、この間お前と"レッサートラーペント"の討伐に行ってから、金袋から1アテラ硬貨が消えてたんだが――――」


 俺は全力で走った。身体中を巡る魔力をふんだんに使い、地を蹴った。

 そしてその数秒後――――俺は確保された。


「借金ってことにしといてやるよ」

「借金ってことにされといてやるよ……」


 こいつは獣族けものぞく類のウォルテム族という種族だ。

 たまに一緒に討伐に行ったり、儲け話に乗っかったりする。気の合う奴さ。

 因みに、1アテラは1000テラだ。

 賢族の硬貨は1テラ、10テラ、100テラ、1アテラ、1メテラと、5種類の硬貨が存在する。

 1アテラは1000テラ、1メテラは10000テラだ。


 ウォルテム族は狼のような頭部を持ち、身体も体毛に覆われている。そのまんま狼が二足歩行になったかのような種族だ。

 獣族類は大体こんな感じに、獣が人型になりました見たいな種族が多い。

 ウォルテム族の特徴だが、この種族は魔力総量が少なく、知能も賢族よりは劣る。その代わり、身体能力が賢族よりかなり高い。耳や目もいいし、野生の感というやつでヤバい敵が迫ってる時とかはブルブル震えたりする。


-----たわいのない日常-----


「なんだ? サルティンローズの魔物が活性化? 近々大きな襲撃が予想される……」


 掲示板に貼られていた一枚の紙に目が行った。

 サルティンローズというのは都市の名前だ。この過酷な環境に建造された数少ない都市のひとつ。その特徴は何といっても女性至上主義の国という事だ。

 女性至上主義というのは、女性の方が優れている!! 見たいなやつだ。でも最近はその思想も崩れかけているらしい。というのも、その都市が造られることになったのはそこに巣くっていた魔獣が討伐されたことによるものだが、その討伐をした人の考えが最近変わってきたってことだろう。

 女性しか正式な移住はできないというから、俺は人生で一度は絶対に訪れたいと思っている。――否! 絶対に訪れる!


-----たわいのない日常-----


「そろそろ釣りにでも行くか……」


 よさげな本も売ってなかったので、釣りに行くことにする。この街には一本の大きな川が通っていて、日中は30人くらい釣りをしている。

 でも、食べる目的の人は少ないな。売る人が殆どだ。俺は大体食べるけど。


-----本の内容(予定)-----


 賢族は2日に一度りんごを食べれば何ら問題ない。

 これは、賢族が燃費がいい生き物であるからとされている。身体を動かす際には微量の強化魔導で無意識的に強化している。だから、魔力さえ供給できれば食事をとらなくても長期間活動できる。睡眠時間も大体4時間で事足りる。

 獣族ではそうはいかないが、逆に賢族よりも燃費がいい種族もいる。どの種族にも良さ悪さがあるものだ。


-----たわいのない日常-----


「そろそろ帰るか……」


 魚を5匹釣ったところで家路につくことにした。



「ただいまー」

「おかえりー!」

「――帰ってたのか」

「適当に森で数匹魔獣を狩った後、周辺に実ってた木の実を採ってきたよ!」

「あんまり採り過ぎるなよ? 魔獣が食べる分がなくなるからな」


 今日は特に何もなかったな。オフの日はそういうのを楽しむ日だが、やっぱりデュアンとあれやこれやをやってる時は楽しいと感じる。毎日それでは疲れるけど、ハンター生活は俺に会ってるのかもな。


「魚の腹の中に木の実つめて焼いてみようぜ」

「えーそういうの十中八九まずいじゃーん」


-----本の内容(予定)-----


 賢族の肌の色は黄褐色か白色だ。目の色は緑か黄色。髪色は金か赤か茶色。それ以外の場合は別の種族とのハーフだろう。

 ウォルテム族と賢族のハーフだと、肌の色や瞳以外にも特徴が現れるが、同じような身体的特徴をもつ種族同士のハーフだと、肌の色や髪の色が変わるくらいでその他の変化はあまりない。内面的にはかなり違う性質を持つことにはなるが。

 例えば、魔族まぞくは見た目は賢族とほとんど同じだが、髪色が黒くて瞳が赤く、肌色は紫色。

 魔族と賢族の子供は、髪の色が黒か金か赤か茶色、目の色は赤か緑か黄色、肌の色は黄褐色か白色か紫色となる。

 この大地には多種多様な種族がいるため、ぱっと見でどことどこのハーフかを当てるのは結構難しい。


-----たわいのない日常-----


「あれ、意外とうまいな」

「そうだね、この木の実焼くとしょっぱくなるって聞いてたけど……」

「そんな木の実があるのか。今度木の実の本を買いにでも行こうか」

「買うのもいいけど、お金を稼ぐのもがんばろうよ……」


 こうして、俺達の久しぶりの休日は幕を閉じた。

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