第六十四話 精霊の森
エルフたちから弓矢を向けられて囲まれた我々の中で、シールが前に出る。
「皆さん! この方は王国からの来訪者でマクシム様とその従者の方々です。獣人王国が発情期に入って、襲われそうになったところを助けてきたのです」
「発情期? もしかして男か?!」
「はい! マクシム様は男性です!」
「なっ!」
シールの声に困惑の声が上がる。
「どっ、どうして男を連れてきた?!」
悲鳴にも似た声が上がる。
男性は歓迎されていないのか? そう思って不安が込み上げてくる。
「こっ、こんな格好で迎えるなんて恥ずかしすぎるじゃないか!!! ちょっと待て!!!」
それまで弓を向けていた人たちが一気にいなくなる。
「え〜と、どういうことだ?」
「すみません。エルフはプライドが高い種族なのです。それは男性に対しても同じで、自分たちの一番綺麗な姿を男性に見せたいという思いが常にあるようで、戦士の姿をしていたのが恥ずかしかったようです」
「あ〜、そうなのか?」
ボクが後に振り返って、アルファやリシを見れば頷かれた。
どうやら、これは女性の共通認識のようだ。
それからしばらく村の入り口で待っていた。
流石に誰もいないのに勝手に村の中に入るのは悪いと思ったからだ。
「おっ、お待たせしました! 私は村の代表をしているエリノアと申します」
そういって現れたのは暗闇の中でも真っ白な髪が輝くほど美しい女性だった。
化粧をして、今まで見てきた中でも一番といってもいいほど綺麗な女性だ。
「私はブラックウッド侯爵家のマクシムと申します」
「こっ、これが男性なのですね!」
美人ではあるが、素直な方のようだ。
握手した手を見つめてオロオロしながら、シールに助けを求めている。
「エリノア様、マクシム様が困惑されております。それよりも夜も遅いので、よければ止めていただけないでしょうか?」
「うむ! そうだな。体調を崩されてはいけない。我々もいきなりのことで慌ててしまってすまない。まずは、客人に休んでもらいたい。エルフたちは夜這いなどはしないことを約束しよう」
エリノア様に案内されて、一軒の家を使わせてもらう。
元々、シールの家族が暮らしていた家だそうで、片付けは村の者たちでしてくれていたそうだ。
玄関を開くと、テーブルと台所がある小さなリビングがあり、奥に三つの部屋があり、ベッドは人数分用意されていた。
ベッドは一つの部屋に二つずつなので、アルファと共に睡眠をとらせてもらう。
日差しが差し込む明かりによって目を覚ますと、昨日の慌ただしさもあってすぐに寝ついてしまったようだ。
「おはようございます。マクシム様」
「おはよう。アルファ」
「シールさんが、朝の用意ができるように準備してくれています」
「そうか、ありがとう」
私は、アルファが用意してくれたぬる湯で顔を洗って歯磨きをする。
昨日はお風呂にも入れていなかったので、体を拭いてから用意してもらった服を着替えた。
「ゴワゴワしていたり、気持ち悪くはないですか?」
私がリビングに出ると、全員が起きてシールが朝食の用意をしてくれていた。
「いや、着心地は悪くないよ。ありがとう」
「よかったです。獣人族の発情期は周期的な者なので、理性的になればマクシム様に謝罪にこられると思います」
「ああ、怒ってはいないよ。怖くはあったが、発情期があることは知っていたからね」
「そうですか」
シールはホッとしたような顔をみせる。
どうやら、私にトラウマが残っていると思って色々と気を使ってくれたようだ。
私がウブな生息子だったなら、危なかったかもしれないな。
「色々とシールには迷惑をかける」
「いえ、私はマクシム様に私を知ってほしいだけです」
彼女は私が大切な人とそういうことをしたいといった言葉を受けて、自分なりに考えて行動してくれているようだ。
感謝の言葉を告げるだけでは足りないかもしれないな。
もう少し落ち着ける時があれば、シールのことをもっと考えてもいいと思っている。
「それよりも朝食を食べた後はエリノア様にご挨拶に行きたいのですが、よろしいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
「ありがとうございます」
私たちはシールが作ってくれた山菜スープとパンを頂いて、朝食を済ませてから挨拶に向かった。
「エリノア様、ご挨拶申し上げます。シールです」
「うむ。入れ」
許可を得てシールが扉を開けば、シールの家と同じような作りのリビングが広がっていた。
「よくきたな。客人よ」
獣人娘三人は家に残して、アルファとリシを護衛として連れてきた。
「エリノア様、昨晩は泊めていただきありがとうございます」
「マクシム殿、昨日はよく眠れたかな?」
夜に見た時よりも朝日が差し込む光の下で見るエリノア様は美しい方だった。
ここまでくるのに村の中を歩いてきたが、エルフたちは人形を見ているように美しい造形をした者たちが多くいる。
スタイルはシールと同じくスレンダーではあるが、その容姿だけで見惚れてしまうほどだ。
「はい。疲れていたこともありすぐに寝入ってしまいました」
「うむうむ。我村のことを気に入ってもらえたならよかった。それで? どうだね」
「どうとは?」
「我、エルフのことだよ。人間の男性からは美しいと言われる我々だ」
「はい。お綺麗な方が多いと思います」
「ならばどうだ?! 誰かマクシム様が抱きたいと思う者はおったか?」
あ〜、やはりどこに行っても男性が不足しているので、ここでもそういうことを求められているのだろう。
だが、私としては……。
「私は心が通じ合った者とそういうことをしたいと思います。もしも、そういう行為をするのであれば、シールが一番好ましく思います」
「マクシム様!」
「おおお! 良いよい! 存分に励んでくれ!」
嬉しそうに向れてもらえてよかった。
どうやら獣人たちのように強制はされなさそうで安心する。
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あとがき
どうも作者のイコです。
まだ十話ほどですが、ノクターンノベルズで投稿を開始しました。
よかったら読んでみてください。
タイトルはそのままです。
内容は、少しR18要素を増やすために変更してあります。
どうぞよろしくお願いします。
https://novel18.syosetu.com/n0391ik/
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