第六十話 幻想の都市 ユーグドラ
獣人王国の全てといっても良い聖なる樹ユーグドラは獣人たちが街を作れるほど大きく、各階層に街があり、商人たちや鍛冶屋、異種族なども住まう場所が存在していた。
太陽の明かりがなくなる夜には、ドワーフが作ったランタンが街灯代わりに吊るされている景色は幻想的な風景が広がっていく
「獣人族は、明け方よりも夜の方が活発に活動を始めるのです」
猫獣人のアミさんに案内をしてもらうユーグドラの中はかなりの広さがあり、多くの区画区域が多岐にわたっていた。
最初にアミさんが一緒に回ってくれることで、顔役たちに顔を覚えてもらって危険がないことを知らせてくれている。
だが、どこにでも危険な区域というものは存在する。
だからこそ、彼らに警告を促すのだ。
「彼は女王の客人です。何かあればあなたたちの責任とします」
怖い顔をしたアミさんが、危険な区域に住まうものたちに警告を訴えれば、彼女たちも命の危機と天秤にかけるほど馬鹿ではないようだ。
「そこの御仁」
そう言って呼び止められたのは、深々とフードを被った小柄な女性だった。
「なんでしょうか?」
アミさんが止めないということは危険な人物ではないということだ。
アルファたち護衛の者たちを引かせて前に出る。
「うむ。やはりな」
「はい?」
「ワシはホビット族のジジ」
ジジという割には若く幼い顔をしている。
「これでも三百年生きておるババアじゃ。そのように見つめられては照れてしまうわい」
「これは失礼しました」
「よい、ふむ。王国の男にしては礼儀正しく珍しいのぅ。お主に免じて占ってしんぜよう」
「占い?」
私がアミさんを見れば、頷かれる。
「この方は、我が獣人王国でも名だたる先読みジジ様と呼ばれるお方です」
「特殊な星の元に生まれた御仁のようじゃ。あなた様は、多くの縁を持ち、一つのところにとどまることのない運命を持つようじゃ」
「多くの縁と、一つにとどまらない?」
「そうじゃ。うむ。この国でもいくつか縁をあるようじゃな。そうじゃ、女王」
「にゃ!」
「主とこの御仁と縁がある。子作りをなさるなら、早々になされよ。そうでなければ、この御仁はすぐにでも別の方の元へ飛んで行かれるぞ」
「なっ! 何を言ってるにゃ!」
「ふふふ、獣人王国は広い。広いが、それよりもこの御仁の懐はもっと深い! 女王一人ではおさまらぬ。くくく、ワシがあと二百歳若ければ襲っておったじゃろうな」
見た目が幼女にしか見せないので、二百歳と言われてもよくわからない。
ただ、ジジさんの占いを聞いたアルファやリジなども考える素振りを見せている。
私としては、占いに思い当たるところはないが、今後の方針として多くの縁があることは嬉しいと思う。
実際に、獣人の国に来たことで世界の広さだけでなく、国が変われば環境や法律、ルールが変わるので私としてはとても楽しいと思えた。
それは今までの王国によって縛られていた法律がなくなり、私という個人が残っている。今はまだ客人として扱われるが、もしもまた別の国に行けば私を王国の貴族子息として知る者がいないところにいけば、一般の男でしかない。
「ジジ様、占っていただきありがとうございます」
「ふふふ、うむ。ほんに良き男じゃ。どうじゃワシの孫娘など? まだ100歳にもなっておらんからピチピチじゃぞ」
「それはまた私と縁があれば」
「うむ。心に余裕もあるか。さらによいな」
ジジ様からは離れて、私たちは本日泊まる部屋へと案内された。
私以外の男性たちは、獣人の女性たちに連れて行かれて今後は会うことがない。ユーグドラの作られている最上階の部屋に通された私は部屋一面がガラスで作られた獣人王国の森を見下ろしていた。
「凄い景色だな。それに王国の方角なのは、ガリアさんの配慮だろうか?」
ホテルのスイートルームのような広いリビングに、ベッドルーム。
それに簡単なキッチンとお風呂が用意されているのは、王国の民を出迎えるために急遽作られたのかもしれない。
綺麗な部屋の中は、様々な装飾がなされていた。
ーーーコンコン
「はい?」
「ガリアなのにゃ!」
「どうぞ」
私は部屋の扉を開いて、ガリアさんを出迎える。
あの文通を初めてから、数日が過ぎたが彼女が女王様としてはウブであり、色々と奥手な人間であることは理解することができた。
互いに仲を深めることができたと思えている。
友人として、互いを知ることは十分にできた来た。
「どっ、どうかにゃ? 獣人王国は?」
「ああ、素晴らしいと思う。王国では見たこともない巨大なユーグドラの聖なる樹も、それを活用した生活基盤も、発想が面白く。幻想的で素敵だ」
「にゃにゃにゃ!」
尻尾をフリフリと喜ぶガリアさんはとても可愛らしい女性だと思う。
「わっ、私は不安だったにゃ」
「不安?」
「もしも、マクシム様に獣人王国が嫌われたらって」
「この雄大で幻想的な雰囲気を嫌うことはないさ」
「嬉しいのだ」
夜の静けさと、豪華な部屋の雰囲気は、二人の距離も近づけてくれる。
私は自然とガリアさんに手を伸ばした。
「ふぇ!」
そのフサフサな毛並みは柔らかくてとても心地よい触り心地をしている。
「すまない。嫌だっただろうか?」
「そんなことないにゃ! もっ、もっとしてほしいにゃ!」
「ふふ、なら、遠慮なく」
私は彼女を引き寄せた。
抵抗することなく、されるがままになっている彼女にツンツンとした私を拒絶する様子はなく。ゴロゴロと喉を鳴らすのは親愛を向けてくれているものだと実感できた。
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