第五十八話 いざ、獣人王国
王女様からの命令と呼ぶべき交換留学生として、私は獣人王国へと旅立つことになった。それを聞きつけた母上が護衛として、ベラやサファイアなどをつけてくれた。
「兄様!」
「サファイア、久しぶりだね」
久しぶりに会うサファイアは、身長が伸びて女性らしさが出始めている。
元々美少女ではあったけど、背が伸びて顔つきに大人へと変わっていく姿を見れば成長してい美しくなったサファイアを思い出す。
彼女に首を落とされたことを思い出して、悲しい気持ちになってしまう。
もしも、それがナルシスやイザベラ王女様によって行われたことならば……。
私は色々と思考を巡らせて、サファイアの話を聞きながら馬車を走らせる。
「改めて、紹介しよう。獣人王国の女王がリア様だ」
「ガリアなのにゃ!」
威厳はあまり感じられないが、それでも美しい女性であるガリアにサファイアの目がキラキラと輝く。
「サファイア・ブラックウッドにございます! いつも兄様がお世話になっております」
「まっ、マクシム様の妹君なら、わっ私も仲良くしたいにゃ!」
「はい。ぜひお願いします!」
他所行きの顔もできるようになったサファイアに誇らしさを感じる。
来年にはサファイアも学園に通い出す。
ナルシスの魔の手に掛からなければいいが、私は馬車の外を見てベラたちブラックウッドの騎士たちを見る。
今回の同行者は、アルファとリシ、それに獣人の三人娘の五人だ。
そして、護衛に、ベラとサファイア。そして十名の騎士たちだ。
獣人王国側は、女王ガリア様の従者として同行していた十名が同行しているので、私たち二人を加えて三十名弱の小隊規模ということになる。
獣人王国は巨大な森の中にあり、聖なる樹を国へと変えたウッドツリータウンと呼ばれている。
「おお! 私の国に入ったにゃ!」
窓の外を見ていたガリアさんが声を発して馬車が止まる。
「マクシム様。ここからなら獣人王国が見ることができますよ」
ベラの声が聞こえて、馬車の扉を開いてくれる。
王国から山を越え丘へと辿り着いた場所は、夕日に照らされた獣人王国が見下ろすことができた。広大の森が広がっており、その中心に巨大な樹が聳え立っていた。
「あれが、聖なる樹?」
「そうにゃ! 聖なる樹ユーグドラだにゃ! 私たちの家があるにゃ!」
嬉しそうな顔をする彼女を見ていると私も嬉しくなる。
「えっ? どうしたにゃ?」
「えっ?」
「兄様! 泣いております」
「マクシム様?」
私は自分が泣いていること気づかなくて、ただ、広がる森に感動を覚えただけだ。王国を出たことが実感できる聖なる樹。そしてそれらを包み込む広大な森。
それは王国では見たことがない世界だった。
「私は国で、森も、海も、草原も見たことがある」
「どうやらマクシム様は世界を知った気になっていたのでしょうね?」
「世界を知った気になっていた?」
「はい」
「なるほどにゃ! 王国から出たことがないのかにゃ? それならば、獣人王国の聖なる樹ユーグドラは他の国ではあり得ないほど大きくて、世界を知るためには違いがわかりやすいにゃ!」
そうだ。私は王国から出たことがない。
それはかつての私も含めて一度も。
これまで多くの勉強をしてきた。
花婿修行の中には、他国の歴史や情勢、聞いたこともない礼儀や風習なども多く存在した。
それらを知ってはいたが、こうして見るのは初めてなのだ。
「初めて見る他国に感動されたのですね」
ベラの言葉が、ボクの心にスッと入り込む。
そうだ。私は何を小さな世界に囚われていたのだろうか? 今までの私は花婿候補から蹴落とされて処刑されたことにこだわっていた。
だから、学園では大人しくして、学園を卒業した後には、ブラックウッド領に帰って細々と暮らしていければいいと思ってきた。
それが誰にも迷惑をかけない方法なのだと本気で思ってきた。
「兄様と一緒にこの景色が見れたこと、私の宝です」
サファイアが私の手を握ってくれる。
反対の手をガリアさんが。
「ここから見えるあの山は、獣人王国と魔人帝国の国境にゃ!」
王国がある南とは正反対の北側を指差したガリアさんが、私が知らない国のことを教えてくれる。
「魔人帝国?」
「そうにゃ。かつて魔王が支配していた国で、男子が生まれにくくする呪いをかけた奴が眠っているのにゃ! 今では自国の被害にも繋がっているようにゃ」
魔王の呪いによって、男子が生まれにくくなった?
そんな伝説的な話も知りはしない。
「他にもエルフと呼ばれる精霊や、ドワーフと呼ばれる小人たち。たくさんの種族が人以外にも存在するにゃ! 獣人王国は様々な種族と交流を持っているから、たくさんの話が聞けるにゃ!」
ガリアさんの説明に私は王国を出て初めて心踊る気持ちになれた。
どこかでホームシックにかかっていたのかもしれない。
王国に必要とされたいと思う気持ちがあったのかもしれない。
だけど、世界はこんなにも広く。
こんなにも知らないことが多いのだ。
「それと、どこも女性ばかりだから、マクシム様はモテモテにゃ!」
「ふふ、それならいいな」
最後に告げられた言葉で笑ってしまう。
それは付き従ってくれた者たちも同じで、私は愛されていることを嬉しく思う。
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