第五十八話 変化

 私は自分の役目を明確に思考するようになり、アルファやリシに他の男子生徒たちの動向を調べてもらった。

 そこで分かったことは、同学年の男子生徒がナルシスによって退学や、部屋から出ないようにされていたことが分かった。

 すぐにはわからなかったが、裏で手引きをしていたのがナルシスであることが調べる間にわかったのだ。


 私が、ナルシスを嫌いだと思ったことは間違いではなかった。


 違うやり方ではあるが、ナルシスは他の男性たちを邪魔者として扱い。

 私は男性の思想を変えることを考えた。


「私はまだまだ甘いのかもしれないな」


 ナルシスは徹底的に敵と見定めた相手を貶め、排除することに力を注いでいた。だが、それでは本当に王国のためにならないと私は考えてしまう。

 女性が多く、男性が少ない世界だ。


 男性が、愛玩動物に成り下がり重宝されることで、消極的になって自宅にこもってしまう。それでは勿体無いではないか? 男性だって、人として喜びを感じればいい。


「ふぅ、何か用か?」


 私がカフェテラスでお茶を頂いていると、対面にナルシスが腰を下ろした。

 一年の時に決闘をして以来な気がする。


「色々と動いているようだな」


 昨年までは、私に恨みを持った視線を向けていたナルシスが、真っ直ぐに私を見つめて話しかけてきた。


「なんだ?」

「いや、ナルシス・アクラツが、私に話しかけてくることがあるとは思わなくて驚いているんだ」

「ふん、俺だって話しかけたくて話したんじゃない。面倒なことをしてくれたものだ」

「面倒なこと?」

「そうだ。一年で一番位の高いダイ伯爵家の、ダビデのことだ」

「ふむ。私が何をしたと?」

「チッ!」


 私は、バレるようなことはしていない。

 アロマやアルファなどが、私がダビデと話している間は見張りをしていてくれたはずだ。


「バレていないと本気で思っているのか?」

「……口にしていると言うことは、どこからか漏れていたのだろうな」

「マクシム・ブラックウッド。貴様は監視されている」


 ナルシスから言われた言葉に、私は意外に思うことはなかった。


 アロマが側にいるのだ。

 

 そして、かつての処刑時。

 確かに、私をハメたのはナルシスだった。

 だが、処刑をされる時、王女様は一度も私を見ようとはしなかった。

 私に気持ちがなかったこともあるだろうが、つまらなさそうに私を見ていた。


「王女様か?」

「ああ、あの方は恐ろしい人だ。今回の貴様が行った所業は王女様の考える未来の構図からはズレている」


 ナルシスの言葉を素直に信じて良いものか? この男は油断できない男だ。

 私を貶めるために、話を持ちかけている疑いを完全に解くことはできない。


「ふむ。それで? ナルシス・アクラツ殿は私に何を提案しにきたのだ?」

「しばらくの留学。丁度、獣人王国の女王がこちらにきて数ヶ月が経つ。マクシム・ブラックウッドに交換留学生を提案する」

「交換留学生?」

「そうだ。三ヶ月〜四ヶ月ほどだ。本来であれば、ダイ伯爵家に行かせるつもりだったが、今のダビデ・ダイは、正直使い物にならない。その尻拭いをしてもらいたい」


 これは、ナルシスだけではなく。

 その後ろに王女様の姿が見えるように思う。


「……花婿候補であらせられる、ナルシス・アクラツ様の申し出をお受けさせていただく」

「うむ。意外だな」

「意外?」

「ああ。マクシム・ブラックウッドは、私を嫌っていると思っていた。だから、私からの申し出ならば突っぱねるかと思っていたのだ」


 私と対等に話をする男性は、今のところプリン君とナルシスだけだ。

 そして、私がナルシスを嫌っていることは間違いない。


 だが、一年の時に殴り飛ばしてからは、気分的にはマシになった。


 それに、殴った以降のナルシスは王女様の側を離れることなく、サラ先輩のところに顔を出してもいない。


 他の女性に見向きもしていないようだ。


「今回の辞令が、ナルシス・アクラツ殿が持ってきた時点で、意味を感じられる。それにバレていて、これが罰だと言うならば、甘んじて受けよう」

「罰ねぇ、お堅い真面目人間なのは変わっていないようだな」

「お堅い真面目人間か……、貴様は腹黒、あざと男子だな」

「なっ!」


 私はテーブルの上に置かれたカップを飲み干して立ち上がる。

 これ以上ナルシスト話をする意味はない。


「お前は、随分と変わったんだな」

「そう……なのだろうか? 自分ではわからんよ。ただ、自分に正直に生きたいと思っている。たとえ、裏切られて死ぬことがあったとしても、後悔のない生き方をしたい」

「……なんだ。暗いのはそのままじゃねぇか。俺は行くぞ。伝えなければいけないことは伝えた。それと、獣人女王ガリア殿が貴様と共に帰還される。その際に、王国より獣人王国に移住してもいいと言う男性も数名同行させる。友好の証としてだ。男性たちは強制ではないことを忘れるなよ」


 ダビデ・ダイにしたことを言っているのだろう。


 私が他の男性たちの気持ちを無理やり変えると不安なのかもしれんな。


「何もしない。罰に従うだけだ」

「ならいい。それじゃあな、体に気をつけるんだな」


 私は意外な言葉を言われて、驚いた顔をしてしまう。

 かつてのナルシスとは随分変わったようだ。


 まだわからぬが、こういう関係も悪くない。


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あとがき


どうも作者のイコです。


この度、私の書籍化作家デビューが決まりました。

《あくまで怠惰な悪役貴族》

2023年11月10日に発売決定です!


TOブックス様で予約も行っております!

良ければ、お手に取っていただけれ幸いです。

カバーイラストなどは、近況ノートに載せていますので、良ければ見てみてください(๑>◡<๑)


いつも応援ありがとうございます(๑>◡<๑)

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