サイド ー 大馬鹿 2

《side ー 大馬鹿》


 俺様には爪を噛む癖がある。

 自分の思い通りに行かなくなった時、それをしてしまう。

 

 マクシム・ブラックウッドが、あれほど融通が効かないなんて思いもしなかっった。結局、自分が好きなように獣人の奴隷で遊びたいだけなくせに偉そうにしやがって。


 噛むと決まって獣人をいじめたくなるの


「なぁ、そろそろ我慢の限界だ。あの三人を襲うぞ」

「へへへ、ダビデ様もお好きですね」

「でも、いいのだ。僕らもそろそろ我慢ができなくなってきたのだ」


 マクシムへの意趣返しも兼ねて、俺様はマクシムの従者として、入学している三人の獣人を狙うことにした。

 獣人は、王国の者に危害を加えれば、普通の王国民よりも扱いがひどい。


 だから、こちらに反撃しよう者なら、あいつらは死刑になることもあり得る。


「くくく、好きにやらわせてもらうぜ」


 悪いのはマクシムのやつだ。

 素直に、俺様に獣人女王を差し出していれば、自分の奴隷を奪われることもなかったんだ。


「そろそろいいだろ」

 

 俺様たちは、人気がない場所を見計らって、獣人の三人娘に入ろうとしている教室前で飛びかかって捕まえることにした。

 一人一人が飛びかかった瞬間に、三人とも避けられる。


 そして、入ろうとしていた教室へと飛び込んで、前のめりに倒れる。


「くっ! お前ら重い! どけ!」


 俺様の上に乗ってきた二人を強引に退かして、立ち上がると電気がついた。


「ようこそ」


 明るくなると、目の前にマクシム・ブラックウッドが椅子に座っていた。


 後を振り返ると獣人娘たちが扉を閉めて鍵をかける。


「なっ! なんのつもりだ?」

「なんのつもり? 逆に聞きたいのだが、ミーニャたちに何をするつもりだったんだ?」

「なっ、なんのことだ? 知らないな」

「ふむ。私は彼女たちにこの教室へ導くように頼んだだけだ。それが、貴様らは彼女たちに襲いかかって飛び込んで来た」


 ぐっ! 全てわかった上で言っているじゃねぇか。


「あぁ、そうだよ! 所詮、獣人は奴隷だろ? なら、俺様が好きにしても問題ないだろうが!」

「はぁ〜、お前はバカなのか?」

「なっ! 俺様はバカじゃねぇ! バカはお前だろうが!」

「そうか、ならばどちらがバカなのか? じっくりと決めようじゃないか」

「なっ、何をするつもりだ?」


 俺様は、やっとこの異常な状態に違和感を感じ始めた。

 どうして、空き教室にマクシムが一人で、俺様たち三人を待っていたんだ?


「何、簡単だ。お前に私の気持ちをわからせたいと思ってな」

「気持ち?」

「ああ、その前に聞いて起きたんだ。貴様は、女性をどのように考えている?」

「はっ? 女? 何が聞きたいのか知らないが、女なんて奴隷と同じだろ? 獣人の奴隷か? そうじゃないかの違いしか知らねぇよ」


 何が聞きたいのかわからないが、母が俺様は特別な存在であり、全ては俺様のためにあると言っていた。

 それでも気をつけなければならないのは、マクシム・ブラックウッドと、ナルシス・アクラツには気をつけろというものだった。


 マクシム・ブラックウッドは、単純に侯爵家として、我が家よりも位が高いため、単純に機嫌を損ねると面倒なことになるから、気をつけろ言われた。


 そして、ナルシス・アクラツは王女の花婿候補として選ばれた以上。

 男爵であろうと、機嫌を損ねて王女様に目をつけられると男性でも息温くなるというものだった。


「なっ、何か、ブラックウッド様の機嫌を損ねたのなら謝ります」


 俺様はバカじゃねぇ。 

 だから、母が言っていた言葉の意味も理解している。

 もしも、貴族の位で攻めてくるなら、最悪は理不尽だと訴えてもいい。


「ほう、機嫌を損ねるなら謝るか……。ハァ、なんの意味もないな」

「はっ?」


 俺様が譲歩してやっているのに、なんなんだこいつは? 何がしたい?


「お前は何もわかっていない」


 急激な圧力が肩へとのしかかって、息苦しさが押し寄せてくる。


「なっ! なんなんだよ」


 ブラックウッドが手を叩くと扉が開いて、三人の獣人奴隷どもが入ってくる。


「さて、彼女たちを見てどう思う?」

「はっ? 奴隷だろ? 獣人女はみんな奴隷だ」


 何をバカなことを聞いているんだ?


「そうか、ミーニャ」

「はいです!」


 猫獣人が俺様の前にやってくる。


 くくく、なんだ? 結局獣人女を差し出して、俺様との仲直りをしたかったのか? いいぜ。この獣人女は俺様が貰ってやるよ。


「グフっ! なっ!」


 俺様が手を上げようとした瞬間に、猫獣人が俺様を殴った。


「いっ、イテェ!!! 何しやがる。母にも殴られたことなんてないのに!! 俺様を卑しい獣人が殴ってもいいと思っているのか?!」

「当たり前だろ? 奴隷でもない女性に向かって、何度も何度も奴隷や獣人と差別するような発言ばかり。お前は女性や他人に対して敬意が全く感じられない」


 なっ! 何を言っているんだこいつは本当にバカなのか?

 

 男は崇め奉られて然るべきだろうが?


「意味がわからん。このことは問題にさせてもらうからな」

「ああ、そうならないようにこれから、貴様を粛清していくつもりだ。粛清するまでは帰れると思わないでほしい。さぁ始めようか? 暴力だけだとは思わないでくれよ」


 なっ! なんなんだこいつ?


「お前は僕はどうするつもりだ!」

「何、私の考えを知ってもらって、考え方を改めてもらいたいだけだ。時間は十分にあるから、ゆっくり聞いていってくれ」


 俺様は、どっ、どうなるんだ?!

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